遊園地の怪人(観覧車)
都市伝説7 観覧車から聴こえる声
裏野ドリームランドは、夜のとばりにと包まれていた。この遊園地が閉鎖されてから、もう三ヶ月以上が経っている。にも関わらず、この遊園地に伝わる、妖しい都市伝説に魅せられて、わざと真夜中を狙って、園内へと無断侵入する人間は、後をたたないのだった。
今夜も、二人の若者が、この遊園地の中にと忍び込んでいた。しかし、勇んでいるのは一人だけで、もう一人の方は、やたらと弱腰なのである。
とうとう、二人は決裂してしまった。弱気だった方の男は、相方が押しとどめるのも聞かずに、走って、この場から逃げてしまったのである。
後には、もう一人の男だけが残された。一人ぼっちで、こんな場所に居続けるのは、とても気味が悪いが、今まで強がっていた手前、すぐに逃げ出す訳にもいかないのである。
その男は、勇気を振り絞って、園内を歩き始めた。園内には、さまざまな不思議な噂に結びついた施設や遊具が点在していた。でも、今のところは、どれもが静まり返っていて、妙な気配はないのである。
ふと、彼は、声を聞いたような気がした。か細い声だ。低くて、男なのか、女なのかも、分からないのである。
「出して・・・」
そのように聞こえたのである。
彼は、すぐそばに、観覧車がある事に気が付いた。もちろん、止まったままの、動かない観覧車である。しかし、これがヘンに一番怪しく感じられたのだ。
観覧車の周りの柵は低くて、成人の男ならば、またぎ超えるのは、訳はなかった。彼は、恐る恐る、柵を乗り越えて、観覧車の乗り場にまで近づいてみた。
すると、一番下にある、乗り場にと停車したカゴは、ドアが開きっぱなしになっていたのである。
男は、一瞬、躊躇した。今、このカゴの中に入ってみせたら、武勇伝として、のちほど、さぞや、友人たちに自慢できる事であろう。しかし、それを実行するには、そうとう怖くもあるのだ。
結局、彼は、好奇心と見栄に負けてしまった。そのカゴの中に、乗り込んでしまったのだ。
カゴの内側は、特におかしな部分も見当たらなかった。全く変哲もない、ただの座席なのである。
ところが、彼の一瞬の油断をついて、カゴのドアは、自動的に、バタンと閉まってしまった。彼は、カゴの中に閉じ込められてしまったのだ。
ハッとした彼は、慌てて、ドアを押し開こうとしたが、もう遅かった。ドアは、固く閉ざされており、テコでも動かないのである。それどころか、止まっていたはずの観覧車が、なぜか、ゆっくりと回り始めたのだった。まさに、幽霊観覧車なのだ。
彼は、監禁されたカゴの中で、必死にあがいて、叫び続けた。でも、こんな人気のない場所で騒いだところで、誰かに発見してもらえるはずもないのである。彼の乗ったカゴは、どんどん、高い位置へと移動していく。
このカゴの中は、外界とは、違う時間が流れていたのであろうか。まるで、時間が止まったように、いつまでも夜のままなのである。彼は、時々、思い出したように、大声をあげて、騒いでみたが、いっさい、外では変化が見られないのであった。そうして、彼の体力ばかりが、ずんずん、削られてゆく。
もう、どのくらいの日数が経っていたのかも分からなかった。彼は、疲弊しきってしまい、いつしか、衰弱死する寸前にまで陥っていた。
そんな時、カゴの床に倒れていた彼は、人の声を聞いたような気がしたのだった。
彼は、力を振り絞って、上半身を起こしてみた。カゴの窓から外を眺めてみると、観覧車の下の方を、カップルらしき若い男女が歩いていたのである。浅はかにも、彼らは、この夜の遊園地に、肝試しデートでもしに、立ち寄っていたのかもしれない。
だが、彼にしてみれば、これは、助かるかもしれない最後のチャンスなのだ。彼は、必死に声を出してみた。だけど、すでに疲れ切っていたので、悲しいかな、十分な大声にならないのだった。
「出して・・・」
その声は、か細くて、小さかった。でも、かろうじて聞こえたのか、カップルの男の方が、ギョッとしたような表情を浮かべていた。
了
ナカムラ警部のコメント
「動いていない休止中の観覧車から声が聞こえてくるだって?やはり、そこも、ニジュウ面相の奴が、人質を監禁する場所として利用していたのかもしれないな。声がやつれていたと言う事は、きっと、閉じ込められている人質の方も、だいぶ衰弱していて、かなり危険な状態なのだろう。これは、真っ先に乗り込んで、救出してやらねばならないかもしれないぞ」




