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遊園地の怪人(メリーゴーラウンド)


  都市伝説6 廻るメリーゴーラウンド


 真夜中、廃園になった裏野ドリームランドの敷地内を、二つの人影がさまよっていた。この遊園地は、すでに閉ざされていたので、当然ながら、従業員の影などではない。

 夜空に浮かんだ月に照らされて、人影の一つは中年の男性である事が、もう一つは幼稚園児ぐらいの少女である事が分かった。二人は、親子なのである。

 このドリームランドは、防災の関係から、有事の時に来園者が外へと脱出しやすいように、周囲の塀が低めに作られていた。この構造は、閉園後もそのままだったのであり、鍵のかかった入り口の門をくぐらなくても、容易に、園内に入る事ができたのである。この親子も、そうやって、この遊園地内にと忍び込んだのだ。

 親子は、特に何かを目指していた様子でもなく、園内をブラブラと歩き回っていた。これが闇夜であれば、真っ暗で、本当に何も見えなかったのかもしれないが、さいわい、今夜は満月だったので、明るい月が天井の照明となって、かろうじて、園内にある施設や遊具類を目視する事ができた。なんとなく、遊園地の中にいると言う雰囲気だけは味わえたのである。

 それでも、娘の方はつまらなそうなのであった。

「ねえ、パパ。何も動いてないね」

 廃園後の、しかも、夜の遊園地なのだから、それは仕方のない話なのである。

「だけど、眺めているだけでも楽しいだろう?ここは遊園地なんだから」

 父親は、そんな言い方をして、娘をなだめたのだった。

 この遊園地は、かつては、この親子もよく訪れていた、思い出の場所なのである。父親は、多少の違反は犯してでも、娘をここに連れて来てやりたかったのだ。

 とは言え、娘の言葉どおり、お城やミラーハウスなどの施設は入り口が完全に閉まっているし、ジェットコースターやアクアツアーなどのアトラクションも全く動いておらず、あくまで外から見物するぐらいの事しかできないのであった。

 やがて、親子は、静まり返ったメリーゴーラウンドの前にまでやって来た。

「見てごらん。メリーゴーラウンドだよ。お前は、これが好きで、昔は、よく乗せてやったよな」父親が、嬉しそうに口にした。

「でも、これも動いてないよ。つまんない」

 娘が不平を漏らした。その瞬間だった。

 目の前にあったメリーゴーラウンドに、ぱあーっと光がついた。そう、メリーゴーラウンドだけが、突然、起動したのである。そして、陽気な音楽を鳴らしながら、ゆっくりと回転し始めたのだ。

 父親は目を見開いていた。こんな事、ありえない話だからである。幻でも見ているのだろうか。

 天上の満月の下で、メリーゴーラウンドだけが明るく光って、稼働している光景は、明るい昼間に眺めた時以上に幻想的で、美しいのだった。

 娘の方は、この不思議な出来事を、抵抗もなく、素直に受け入れてしまい、キラキラした表情で喜んでいた。

 そのうち、父親も、清々しい気持ちになってきて、過去の楽しかった記憶を次々に思い出してきたのである。それは、まるで、走馬灯であった。

 娘をこの遊園地に連れてこられた頃は、本当に毎日が素敵だった。あれこそが、満ち足りた、希望いっぱいの人生だったのだと思う。あの時間がいつまでも永遠に続いてほしいと、ずっと願っていたのだ。

 いつしか、父親の方も、とても幸せな気分にと浸っていた。その幸福なひと時が、しばらく続いた後、いきなり、ピタリとメリーゴーラウンドは止まってしまったのだった。光も消え、周囲は元の静寂に戻ってしまったのだ。

 父親も、ハッと我に返った。しかし、その心の中には、大きな変化が起きていた。

 彼は、本当は、娘とともに心中するつもりで、この閉じた遊園地にと訪れていたのである。ここ一年ほど、悪い事続きだった。妻には逃げられるし、仕事は失敗して、失業もする。借金もたまっていく一方で、住んでいたアパートも追われてしまった。せめて、死に場所ぐらいは、楽しかった思い出の場所を選びたかったのである。

 しかし、今の彼は、考え方が変わっていた。素晴らしかった過去の幸せを再認識した事で、あの頃にまた戻りたいと言う執念が湧いてきたのだ。諦めなければ、まだまだ、人生をやり直すチャンスは、いくらでも有るはずなのである。彼は、死んだ気になって、もう一度、奮起する決意を固めたのだ。

「ごめんよ。俺は悪いパパだった。これからは、お前のために、もっと頑張ってみるよ」そう言って、父親は、涙を流しながら、娘のことを優しく抱きしめた。

 娘の方は、事情が分からないらしくて、キョトンとしていたのであった。

 それから、父親は、自分の服のポケットに入れていた小ビンを取り出した。その中には猛毒が入っていて、このあと、娘とともに飲むつもりだったのである。でも、彼は、それを握り締めると、思いっきり、遠くに投げてしまったのだ。今の彼の顔はハツラツとしていた。

 こうして、彼ら親子は、手をつなぎ、新たな一歩に向けて、ゆっくりと踏み出したのである。


      了


ナカムラ警部のコメント

「廃園した遊園地は、すでに通電していないのだから、勝手にメリーゴーラウンドだけが動き出すなんて、普通は考えられない話だ。可能性があるとすれば、ニジュウ面相の秘密のアジトの自家発電が、間違えて、園内の遊具にも流れてしまったのかもしれない。あるいは、ニジュウ面相自らが、ちょっとしたオフザケで、わざと遊具を動かしてみたなんて事も推測できるかもしれないな」

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