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不思議を探す男

本作は、「夏のホラー2015 あなたの学校はどうですか?」のお題を使用して、

イベントとは関係なく、書かせていただきました。

 学校の七不思議と言うものを調べていくうちに、私は奇妙なことに気がついた。

 それは、七不思議と呼ばれている割には、実際に、不思議な現象が七つ揃っている学校と言うのが、どこにも見当たらなかったのである。

 トイレの花子さん、突然に響きだす音楽室のピアノ、理科室の動くはく製など、ポピュラーな怪現象の噂に付け足す形で、各学校では、さらに独自の不思議現象の話がいくつか伝えられているのだが、なぜか、それが七つになる学校が、どこにも無かったのだった。

 一説では、学校の七不思議を全て知ってしまう事はタブーなのだと言う。それが分かった生徒には、何か良くない出来事が起きてしまうのだ。それで、学校の七不思議の最後の一つは、わざと伏せられている、とも言われているのである。

 つまり、最後の一つが謎のままである事こそが、学校の七不思議の七番目の不思議だったのかもしれない。

 でも、怖い話の収集家としては、どうしても、隠されている事はよけいに気になってしまうのである。

 そこで、私は、自分が編集している雑誌で、全国的に募集を行なってみた。もし、七番目の不思議も判明している学校があるのならば教えてほしい、と広く募ってみたのだ。

 結果として、沢山の情報を集める事ができた。しかし、丹念に調査してみると、そのほとんどがガセネタで、誰かの作り話だったり、情報提供者の聞き違いだったりしたのだった。

 それでも、時々は、かなり有力な情報が届く事もあった。

 今回も、どうやら本当かもしれないと思われる投稿をもらったので、私は、深夜、その学校へと訪ねてみて、その教えてもらった不思議の噂を確認してみる事にしたのだ。この調査には、その情報提供者の男も付き合ってくれて、学校の中を案内してくれる事になったのである。

 その夜、約束した時間に、私は、問題の学校の校門の前へとやって来た。情報提供者の男らが、校門に駆けつけたのも、ちょうど同時だった。

 この情報提供者と言うのは、この学校の卒業生なのだそうである。だから、学校の七不思議も知っていたのだ。

 事前に顔写真は見せてもらっていたので、彼の顔を見間違える事はなかった。彼の方も、私のことは十分に伝えていたので、今さら、自己紹介しあう必要もないのだ。

「さあ、行きましょうか」と、情報提供者の男は言った。

 そして、私たちは、校門をくぐり、この学校の中へと入っていったのだ。この情報提供者の男は、今やっている仕事の関係で、この学校の合鍵も持っていて、この校舎には自由に出入りできたのである。

 彼はまだ、その七番目の不思議がどんな現象なのかを、私には教えてくれていなかった。実際に怪現象が起きる場所に着くまでのお楽しみだと言うのだ。私も、その条件を受け入れて、この学校にと訪ねてきたのである。

 私たちは、廊下を歩き続け、暗い校舎の中を、すでに、だいぶ奥まで進んでいた。

 その途中では、この学校で七不思議が伝えられている他の場所も、先に、一つずつ巡ってきたのである。もちろん、どこの場所でも何かが起きたりはしなかったが、いちおう、それが七不思議探訪の作法と言うものなのだ。

 実は、この情報提供者自身は、残りの六つの不思議の詳細については、はっきりとは覚えていなかった。だから、私の方で、情報網を駆使して、この学校の正式な七不思議の六つまでを調べておいたのだ。そして、その六つとは違う、もう一つの怪現象を、この情報提供者は知っていると言うのであった。知っているどころか、本人が学生時代に経験した事だと言うのだから、こんなに確実な話はないのである。

「まだなのかい」と、私は、情報提供者の男に尋ねてみた。

「もうすぐですよ」情報提供者の男も、ワクワクしているような口調で答えた。

 この男も、今夜、もしかすると、その謎の怪現象にまた遭遇できるかもしれないものだから、やや興奮しているのである。

 やがて、暗い校舎内の一角で、彼は立ち止まった。

「さあ、ここです!よおく五感を研ぎ澄ましていてください。奇怪な事が起き始めますよ!」と、情報提供者の男が叫んだ。

 しかし、次の瞬間だった。情報提供者の男は、急に、苦しそうな呻き声を出し、その場に座り込んでしまったのである。

 私は、急いで、彼のそばに歩み寄った。

「君。どうしたんだ。大丈夫かね?」

「うう。あ、頭が痛い。思い出せない。思い出せなくなっちゃったんだよ」と、情報提供者の男は、吐き捨てるように訴えた。

「何が思い出せないんだい?」

「こ、ここで起きる怪現象をだ。さっきまでは、よおく覚えていたのに。くそう、なぜなんだ」情報提供者の男は、さらに悔しそうに、そう怒鳴った。

「これは、一体・・・」私は呟いた。

 他方で、情報提供者の男は、頭痛が止んできたらしくて、ゆっくりと立ち上がったのである。

 この私たちのいる場所は、なにか不気味な空気に包まれたかのようなムードになっていた。

「もしかしたら、これが七番目の不思議だったのかもしれない」ボソッと、私は口にした。

「な、何のことです?」すかさず、情報提供者の男が尋ねてきた。

「いや。やっぱり、学校の七不思議は、七つとも知ってはいけなかったんだよ。きっと、君は、今、その報いを受けたんだ」

「なぜ、そう考えるのですか?」

「君は、七番目の不思議は知っていたけど、他の六つの不思議については、今まで、よく知らなかったのだろう?ところが、今日、君は、私と一緒に七不思議めぐりをした事で、ほんの先ほどで、全ての不思議の内容を知ってしまった。しかし、それは、やはり、許される行為では無かったんだよ。それで、六つの不思議を知った代償として、なにか怪しい力によって、七つ目の不思議については、無理やり忘れさせられてしまったんだ」

「ま、まさか!」

「でも、そうとしか考えられないじゃないか」

「し、信じられない」

「では、君の友人にも聞いてみよう。なあ、君は、この件を、どう思う?」

 そう言って、私は、もう一人いた男の方へと顔を向けたのだった。

 その男は無口であり、これまで、一度も会話には参加してこなかった。今もまた、私が話しかけてみても、ずっと無表情で、すぐには答えようとはしなかったのである。

 ふと、私は、情報提供者の男の方を見てみると、彼は呆然とした表情を浮かべていた。

「おい、どうした?」と、私は彼に声をかけた。

「こ、この男は、あなたの助手ではなかったのですか?」

「え」

「私の友達なんかじゃありませんよ。この人は」

 それを聞いて、私も愕然としてしまったのだった。

 校門の前に、三人いっしょに着いたものだから、どうやら、私も情報提供者の男も勘違いしてしまったようなのである。すなわち、この第三の男は、どちらの身内でもなかったのだ。それなのに、両方から間違えられたのを良い事に、この男は、私たちと同行して、この校舎の中にまで付いてきちゃったのである。

 その謎の男は、相変わらず、喋ろうとはせず、不敵な表情を浮かべて、私たちの方を見ていた。

「そ、そうか!」と、情報提供者の男が声を発した。

「うん?どうした?」私は聞いた。

「この男こそが、本当の七番目の不思議だったんだ。誰かが学校の七つ目の不思議を探ろうとすると、そこに現われる、魔界の使者だったんだ。私は、最初っから、七番目の不思議など知らなかったのかもしれない。この男を呼び出す為に、知っていたと思い込んでいただけだったのかもしれない」

「そんな、まさか!」

「でも、そう考えるのが無難じゃありませんか」

「いや!そんな事は絶対にありえないのだ」

「どうして?なぜ、そう言い切れるのですか!」

 私も情報提供者の男も、すっかり混乱して、動揺してしまっていた。

 その時、謎の男が、可笑しそうな笑みを浮かべながら、ようやく、口を開いたのだった。

「ははははは。どうやら、必要以上に驚かせてしまったみたいですね。ご安心ください。ボクは、お化けなどではありませんよ。れっきとした生きた人間です」

 その男の声は、場違いに、とても朗らかだったのである。

「じゃあ、あなたは何者なのですか」と、情報提供者の男が謎の男へと尋ねた。

「ボクは探偵です。最近、不思議な事件が起きてましてね。その犯人を、見事に現行犯で捕まえてやろうと企んでいたのです」

「事件?」と、謎の男の言葉に、情報提供者の男が反応した。

「じ、事件ですって!私たちは、ここへ、学校の七不思議を確認しに来ただけです。確かに、不法侵入だったかもしれませんが、これのどこが不思議な事件だと言うのですか!」オレは、思わず、声を張り上げた。

「まあまあ、落ち着いて。これを不思議な事件と言わずして、何が不思議と言うのでしょうか。あなたたちも、今、遭遇したでしょう。七不思議が盗まれる瞬間に」

 謎の男の話に、情報提供者の男は、すっかり、呆気にとられていたようだった。

「じゃあ、私は、七番目の不思議を、忘れたのでも、最初から知らなかったのでもなく、盗まれたと言うのですか」

「その通りです」

「信じられない。そんな事ができるなんて」

「そうだ!君は何を言ってるのだ!」と、オレも、急いで、情報提供者の男にと味方したのである。

「ところが、そのような奇怪な事ができる人物が、世界には一人だけ居るのですよ。その怪盗の噂を、あなたたちも、実は聞いた事があるのではありませんか」

「それって、もしかすると・・・」情報提供者の男がおののいた。

「そう、そのもしかしてです。ボクは、怪人ニジュウ面相の事を言っているのです」

「嘘だあ!」と、たまらず、オレは叫んだ。

「なぜ、嘘だと?」

「だって、ニジュウ面相なんて、都市伝説にすぎないじゃないか。そんなもの、実際に居てたまるか!」

「ボクも、ほんのさっきまでは、そう思っていました。しかし、ここまで鮮やかなお手並みを見せてもらえますとねえ。信じるしかないじゃありませんか。この奇妙な怪盗は、その存在が謎に包まれているだけではなく、盗んでいくものも、変わったものばかりなのです。今回にしても、学校の七不思議の最後の一つを盗み回っていたとは、ボクも、さすがに、たまげてしまいました。こうして、本当に、ご本人にお会いできたとは、ボクも探偵冥利に尽きると言うものです」

「君は、全く、ずっと何を言っておるのだ!大体、君こそ、なんで、私たちが、この学校に忍び込むのを分かっていた?探偵とは言っても、そんな事まで嗅ぎつける事ができるなんて、おかしいじゃないか!君こそ、何者なんだ!」オレは怒鳴った。

「申し遅れました。ボクは、アケチコゴロウと言います。名探偵のアケチです。この名前、ご存知ありませんか」

「アケチ先生ですって!」と、情報提供者の男は、素直に驚嘆した。

 そして、実を言うと、オレも少し動揺しかけていたのである。もし、この謎の男が本当にあのアケチだと言うのであれば、これは厄介な事態になりそうだからだ。

「ボクは、国家規模の事件の捜査を協力する事もありますので、警察にも顔が利くのですよ。頼めば、警察も、さまざまな情報をボクに提供してくれます。それで、学校の七不思議を探し回っている人物がいた事も見つけ出す事ができたのです」アケチを名乗った男は説明した。

「ふん。アケチとやら。学校の七不思議を探して歩いていたのは、この私だ。すると、君は、私のことを疑っているのかね?」

「はい。だって、そうでしょう?ボクが探偵、もう一人の人物が被害者ならば、当然、残された人物こそが犯人だと言う結論になります」

「証拠はあるのか」

「実を言うと、あなたが居ない間に、あなたの雑誌の編集部は、警察に令状を取らせて、家宅捜索させていただきました。それで、あなたが、今夜、ここに来ると言う情報も得る事ができたのです。それだけでありません。編集部のあなたの机からは、あなたが今まで盗んできた七つ目の不思議も、全て、発見する事ができました。これらは、全て、没収いたしましたので、よく内容を確認した上で、持ち主に返す事となるでしょう」

「何だって!」

「いやあ。ボクこそ、驚きましたよ。こうして、本当に、あの謎に満ちたニジュウ面相とお手合わせする事ができたんですからね。まさか、現実に存在したとは!さあ、あなたも、そろそろ、素直に認めたらどうなのですか。ご自身の正体をね」そう言って、アケチは、鋭く、オレの方を睨みつけたのだった。

「ハハハハ、ハハハハハ!」

 今度は、オレが大笑いする番なのだった。

 そうなのだ。全てが、アケチの言う通りなのである。オレの正体は、ニジュウ面相だ。ニジュウの顔と人格を持つ世紀の大怪盗、それがオレである。オレの目的や行動も、何もかもが、アケチが説明した通りなのであった。

 今回の仕事で、オレは、学校の七不思議の七番目の不思議ばかりを盗み続けていた。そして、今ここでも、しらばっくれて、この情報提供者の男から、新しい七番目の不思議を奪ったばかりだったのだ。

 しかし、まさか、こんな展開で、オレの計画が暴かれてしまうとは、全くの予想外なのであった。オレにとっては、初の盗みの失敗だったと言ってもいい。まさに、名探偵、恐るべしだ。こんな好敵手が出現してくれたと言うのに、その打ち震えるような感動に、果たして、誰が笑わずにいられようか。

 それで、このあと、どうなったのかって?

 もちろん、オレは、簡単に捕まりなどはしないさ。この危機一髪の状態だって、見事に切り抜けてやった。オレは脱出王なのだ。どんな追跡の手だってケムに巻いてしまい、最後は必ず逃げ出してみせるのである。

 オレは、残念がるアケチを尻目に、この夜の校舎から、華麗に逃走してみせた。一度、逃げ切る事ができれば、もうオレのあとを追う事は絶対に不可能なのである。

 だが、この時より始まったのだ。オレとアケチ探偵の、最高のライバル同士の宿命の対決が。いつまでも続く、名探偵対怪人の、夢のごとき現世うつしよの冒険の物語がね。


      了

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