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49話:地獄の沙汰も……次第?

今回から本編戻ります。

 私の胃にストレスを与え続ける神の裁可におびえる日々は、その後しばらくの間続いた。


 けれども人間というものは何にでも慣れてしまうもの。

 一週間もすれば日常となり、毎朝目覚めたらいつもの見慣れた天井が目に入ってくるのが当たり前のことだと思うようになっていた。


 もうしょうがないよね、という悟りの境地に達した感すらある。

 人間、緊張感を失ってしまうのは一瞬のようだ。


 そうなるとロヴァニエニに生きるシグネとしての人生が重要になってくるわけで。


 この世界での現実に戻されると私はカレンダーを握り締めたまま心の中で絶叫した。

 シグネとしての人生の分岐点が目前に迫っていたのだ。


 そう『大学入試』である。


 もともとシグネは王族の娘だ。

 幼い頃から最高の教育を受け育ってきた。勉強自体はよくできていた。


 が、器は良くても中身がチェンジしちゃった今は、うん、正直微妙。

 私はというと頭のできはどっから見ても並。よくて上の下。


 大学を卒業して八年、退化している私の脳みそは、ロヴァニエニの現世とは比べ物にならない勉強のレベルの高さに悲鳴を上げていた。

 全ての教科で発狂しそうであったが、この世界では文系理系の区別がなく、特に数学は手に負えなかった。

 現世では数Ⅰで躓いちゃった私にはまさしく異次元の世界であったのだ。


(位相空間論って何よ?! 大学レベルの数学を高校でやんなくてもいいと思うの……。しかも必須とか……)


 参考書みて泣けてくるなんて、前世も含めて初めてだ。


「ミナト、休憩しよう?」


 煮詰まる私にエルネスティが声をかけてきた。

 コーヒーと茶菓子の乗ったトレイをもち、惚れ惚れする良い笑顔を浮かべている。


 イケメンの笑顔は最高。癒される。

 いや、違う。エルネスティは存在していることが奇跡。

 存在自体が癒しだ。


「エル……」

「何で涙目? 数学分からないところがあった?」

「全部がわかんない。どうしよう」

「数学はね、得手不得手がはっきりしちゃう科目だからね。休憩したら教えてあげるよ」


 あの神との遭遇の後。

 神から受けたダメージが回復したエルネスティは、二人で居る時は私の事を湊と呼ぶようになった。


 シグネと呼ぶと()()()()()()のことを思い出して、微妙な心境になるらしい。

 魂の転生なんて私とエルネスティの二人しか知らない事実だが、エルネスティからすれば全くの別人。


『僕が愛しているのはシグネの器で魂はミナトである今のシグネだから。二人だけのときは二人だけに通じる名前で呼ばせて欲しい』なんて言われちゃうと拒否できない。


 しかも言葉の端々に溢れんばかりの好き! をこめてくる。

 湊という名をそこまで愛おしげに発語する人なんて、現世を含めても初めてだ。


 イケメンからの全力好意は何だかむずがゆい。

 悪い気はしないけどね。


 エルネスティはソファの前のローテーブルに手際よく並べた。

 高位貴族であり資産家の侯爵家には多くの使用人がおり、彼らの仕事を侯爵家の人間は基本行う事はない。

 プロの仕事はプロに任せる。茶のサービスなどはメイドの仕事だ。


 だがこの赤毛の婚約者は私と二人っきりで過ごしたい時などは使用人を近づけることを嫌った。

 そのためお茶の支度はエルネスティの受け持ちとなっており、簡単な作業とはいえ慣れない様子でたどたどしく茶をサーブする姿はたまらない。


 もう、なんてかわいいんだろう。

 私は思わず背中から抱きついた。


「ちょ、ミナト?」


 広い背中に顔をうずめる。

 いいにおいがする。

 何だろう?

 淡いグリーン系にエルネスティ自身の匂いが混ざったような不思議な、とても落ち着く香りだ。


「エルのにおいがする」

「……ほらコーヒー冷めちゃうよ?」

「うーん、もう少し。もう少し補給させて」


 私が弱っていると無条件で甘えさせてくれる。

 現世ではこんなことさせてくれる人、なかなかいなかった。


「エル、めっちゃ好き」

「うん、知ってるよ。僕も好きだよ。でも……」


 エルネスティは体を反転させ、私を正面から抱きしめると、


「今は数学やらなきゃね? 大学合格しなきゃならないし。今のままじゃ志望校難しいよね?」

「……デスヨネ」


 幸せなひと時は強制終了。

 私はため息をつきながら身体を離した。


 ここ三週間ばかり、エルネスティは鬼教官と化していた。

 成績の伸びない私を見かねて、今迄の見守る形式を改め超スパルタ式で鍛え上げることにしたらしい。


 大学に行きたいと大見得切った以上、私も大学受験に失敗することは許されない。

 エルネスティの決定に感謝こそすれ拒否する立場ではなかった。


「その代わりね、受験が終わったら好きにしていいからね。ミナトのやりたいこと全部やっていいよ。行きたいところにも連れて行ってあげる。全部叶えてあげるよ」

「ほんとに? ご褒美くれるの?」

「お姫様のお望みのままに」


 行きたい所はたくさんある。


 新年度から士官学校に入学するエルネスティは寮生活になる。

 強制的に離れて暮らすことになるのだ。

 士官学校は国防に携わる幹部を養成する機関だ。厳しい規律の中で生活していかないとならない。

 今のようにしょちゅう会うなどということはできなくなるだろう。


 今のうちに楽しい思い出をいっぱい作っておかなくちゃね。


 エルネスティは私の顔を両手で挟む。


「ミナト、僕も好きにするからね?」


 えっと?


「え、エル?」


 好きにするって事は、もしかしてあれですか。

 現状のキスからステップ上がっちゃうってことですか?

 神との対峙から回復後はいっそう過保護になり、目に見えて溺愛度がランクアップしているというのに?


 私はこわごわエルネスティを見上げた。

 藍色の瞳に冥い光と欲が宿っている。

 うわぁなんてこった。


「覚悟しておいてね」


 うん。これやばいやつ……。やばいやつだよ!

読んでいただきありがとうございます!


前回までの閑話から本編にもどってきました。

シグネ(ミナト)さんとエルネスティの甘い生活編ですw

ゆるっと進んでいく予定です。


PVとブックマーク、とてもうれしいです。

滞りがちな作業中に励みにさせていただいています。


皆様に多謝を。

次回の更新でお会いできることを祈って。


ツイッターやってます。

https://twitter.com/miyahiranok


↓こちらもどうぞ。

[連載中]

「きみに光を。あなたに愛を。」

異世界後宮物語です。更新再開しました!

https://ncode.syosetu.com/n3833fw/


[完結済]

「アイのある人生は異世界で。」

ただひたすら幼馴染が甘い異世界恋愛物語です。

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