2話:心臓にわるいよね!
体が重い。
病みあがり的なあの重だるさ。
いつかインフルにかかった時と同じ。
動かそうとするけれど、体力がつき動かせない。
あのじれったい感覚。
意識が少しずつ覚醒していく。
が、何か混乱している。
(あぁ私またインフルにかかっちゃった? ううん、違う。昨日までぜんぜん元気だったもの。でも体だるい……)
18歳。
悪夢の大学入試二次試験の前日。
高熱に一日中うなされてようやく深夜に解熱した。
インフルエンザAB型同時罹患とかいう悪夢。訳の分からないままに全てが終わって心身ともにどん底にあった。
あの冬のあの朝。
頭はすっきりしてるのに体力の回復はしていないところも寸分変わらず同じとか。
何て嫌な感じだろう。
(いやだなぁ、また思い出しちゃったよ)
一滴、涙が頬を伝う。
いつまでたっても辛い思い出だ。
弱ってる時は必ず夢に見る。後悔と絶望の象徴のようなものだ。
私は右手を動かし涙をぬぐおうとした。
ごそごそと身じろぐと背中の下がとても硬い。
(あれ? ベッドじゃない?)
そういえばなんだか土臭い。
公園の芝生の臭いじゃない。
時間をかけて堆積し変化していく木々の葉が生み出す腐葉土の匂い。そして樹皮の匂いだ。
これは小学生の頃の課外学習で初めてやったキャンプで嗅いだ匂い――森の匂いがする。
「え、森のにおい?!」
私は勢い良く瞼を開けた。
目に飛び込んできたのは、さわさわと風に揺れる広葉樹の葉と穏やかに降り注ぐ木漏れ日。
(は?! 木だらけじゃん)
意味不明の雄たけびを心の中で上げ(アラサー女子さすがにリアルは叫べないよね!)身を起こした。
明らかに室外。というか大自然の真っ只中だ。
大人が両手を広げても抱えられないくらいの太い幹の広葉樹が林立する薄暗い空間に、こぼれ落ちる柔らかな日差し。
時おり鳥のさえずりと動物の鳴き声がする。
通り抜ける風はさわやかで気持ち良い。
どこだここは。
こんな自然、身近にない。
ていうか空気美味すぎる。
雑踏の嫌な臭いもしない。
どっかにトレッキングに来た感じ!
(ほらあれ、マイナスイオンで癒される的な!! デトックスだ。うん、デトックス。VRだよ。最近のVR良く出来てるんだね!)
脳みそが無理やり結論付けたことにしようとしたが、でもそれ厳しくない?と冷静な自分が脳内で突っ込む。
リアルすぎる。
全てが。
「……シグネ?」
すぐ側から低い声がし、私は飛び上がった。
側に人が居たなんて!!
私はゆっくりと視線を動かす。
嬉しそうにじっと見つめるイケメンがいるじゃないの。
「起きたんだね。よかった」
若い子だ。
うん、語弊がある。
アラサーからしたら年下はみんな若い子になっちゃうからここは正確に。
正確には二十歳にいくか行かないかくらいの男の子。
イケメンという名のイケメンがいたら、この人のことを言うのかもしれない。というくらいのイケメンだ。
どこの国とははっきりいえないが、どちらかといえば西洋系の顔立ちをしている。
完璧なバランスで成り立った、これまた完璧なパーツはどうしたことだろう?
こんな人間みたことがない。
但し。
髪は赤い。
イギリスの某王子様のような金髪交じりの赤ではなく、絵具のチューブから搾り出したような赤。
トマトのような赤だ。
何なの、パンクファンなのか?!
私は驚いて目を見開いた。
「え、君、それ染めてるの? パンク好きなの?」
「何言ってるの、シグネ」青年は私の手をとり、「これは生まれつきの高貴な色だ。綺麗な色だといつも褒めてくれるじゃないか。今日は言ってくれないの?」と甲にそっと口付けた。
ちょまって?! 心臓止まるんですけど??
読んでいただきありがとうございます。
こんにちは。宮平です。
ふわっとゆるっとな異世界恋愛物語です。
ブックマークありがとうございます!
不定期更新ですが、また読みに来てくださいね。
次回もお会いできることを祈って。




