13話:キスとか! キスとか!! キスとか!!!
妙な満足感に私は心の中でガッツポーズを決めた。
幾つになっても胸の内を打ち明けるのは緊張するものだ。
しかも相手に対して好意を伝えるというのは更に難易度高い。前世でも稀なことだった。
アラサーの私やりきりましたよ!
「シグネ」
私は視線を上げた。
エルネスティはこれ以上ないという喜びを隠そうともせず、惚れ惚れするような笑みを浮かべている。
「これで僕と今のシグネは相思相愛ってことだね」
「え、いや。まって?」
そういう話でしたっけ?
好きになれるとはいったけどさ!! 好きだとは言ってない。
――正直、時間の問題だとは思うけど。
今はまだ、ね。
「私、好意はあるけどエルのことまだ好きってわけじゃ……」
「早いか遅いかだけでしょう? 結論は同じだ」
エルネスティが私の心を見透かしたように事も無げに言う。
その言いぶりは自信と確信に満ちていて、なぜか猛烈に腹が立った。
もしかしたら好きにならないかもしれないじゃん。
だがエルネスティは微塵も疑うそぶりもない。
赤毛の婚約者は艶っぽく微笑むと、私の頬に両手を添え、
「これでもうキスしても許されるね」
と囁くと自らの唇を重ねた。
なんて早業!!
一瞬、あっという間の出来事だった。
抵抗する間もなかった。
前世のシグネはどうだったかわからないけど、現世ではキスもそれ以上のこともそれなりに経験している。
キスが初めてでもないし、ただ軽く唇が触れただけのディープなものでもなかったけれど、なんだろう……心がざわめく。物理的にも唇が熱を持ったかのようにじんじんする。
エルネスティは物足りなさそうな様子だ。
「本当はもっとしたいけど。できればそれ以上も」
何てことを言うんだ、この男。
だだ甘のイケメンは紳士の仮面を被っているだけなのか。いやいや健全な青年はこんなものだ。
年上の余裕どんとこい。
「そんな怖い顔しないでほしいな。……シグネが僕のものだっていう証をつけただけだよ」
な ん で す と?
好きあってもいないのに所有宣言。聞き捨てならない。
私は食って掛かった。
「冗談でしょ? キスしただけでエルの証がつくだなんて」
「冗談……でもないんだよ。シグネに魔術を使って防御壁を張った。身の安全を守るためにね」
魔力。
この世界に目覚めて数時間。何度か見せられ聞かされてはいるが、理解が追いつかない。
何でもできる能力なのか。チートじゃないの。
そんなチートがない自分。
私は陰鬱な感情に襲われた。
「今のシグネにはよくわからないよね」
エルネスティは私の困惑を掬い取るように、穏やかに説明する。
「シグネの身体の深い部分から魔力を感じるんだ。とても奇妙な魔力なんだよ。すごく威圧感があって干渉を許さない絶対的な何か……初めて感じる種類の魔力でね。きっと転生と関わっているんだろうと思うんだけど、あまり公にしない方が良いと思うんだ」
それってあの光の塊“神”の力ってこと?
私を現世から前世へ遡らせた神聖なる力。やはり痕跡は残るということか。
“神”の存在は未だ伝えない方がいいのかもしれない。
「シグネが無魔力なのは広く知られててね」
一応王族だ。
魔力の強さが頭髪に一番表れる世界で、最も強靭な魔力を持つ王家に生まれた淡い髪色の姫の存在は、衝撃的に報道されたに違いない。現世と同じ社会体系であればマスコミの陰湿さには覚えがある。
そのシグネ姫に得体の知れない魔力が生まれる。
特大ゴシップに世間は揺れるだろう。
「無魔力の身体に突然魔力が宿るというのは在り得ないんだけど、実際にこうしてシグネには宿ってしまっている。平均的な魔力の持ち主は気付くことはないだろうけど、僕くらいの魔力持ちだと余裕で気付かれると思う。貴女がシグネとして暮らしていく上で困るでしょう」
「確かに」
怪しい何かと疑われるのは困る。そしてスキャンダルになるのも。
「だから僕の魔力をシグネの体内に注いで、暴露されないように魔法の保護膜を張ったんだよ。簡単に言えばマーキングってことかな。完璧にごまかせていると思う」
マーキング??
犬とかが縄張りを主張してやるやつ?
「え、でも……それって……」
私とエルネスティの婚約は、王家の一員ヴァイサラ公爵家と名門ボトラーク侯爵家、両家の家名の大きさから明らかに政略結婚だと認知されている。
恋愛結婚ではないというのに、その渦中の姫君からの溢れ出す婚約者の魔力マーキング……。
(肉体的にも色々ありますよって宣言しちゃってることでしょう??)
この世界は魔力持ちが多いという。
全く魔力のないシグネがエルネスティの魔力を全身に纏う……もうこの二人は濃厚に接触する何かやってるよ!って全国民に言いまわっているようなものだ。
(それってめちゃくちゃ恥ずかしいじゃん!)
恋人関係にある者は現世でもそういう関係は当たり前なことだけど。
周りの人間は察するだけだよね。
私は羞恥のあまり赤面しうつむいた。
そしてふと気付く。
同じ視線にエルネスティも晒されるということだ。不躾で無神経な第三者の視線に。
私は自分だけのことしか考えていなかった。
愉快なことではないだけに、エルネスティの気使いがありがたい。
「……ありがとう」
「ほら、そういうところいいよね。かわいい。今のシグネ大好きだよ」
今日は可愛いと好きの大洪水である。
何度もいわれると有難みも半減だ。
「なんか大安売りだよね、かわいいとか好きとか」
「ハハハハ、言い方」
エルネスティはしなやかな指で私の唇をなぞる。
「それと。これね、まぁ僕が未熟だってこともあるんだけどさ、効果が一日しかもたないんだ。だから毎日更新しないといけない」
つまり……。
毎日このイケメンとキス必須ということですね!
まじですか……。
読んでいただきありがとうございます。
宮平です。
エルネスティの自信満々さはどこからくるんでしょう。
イケメンは何か特別な力があるんでしょうか。
ブックマーク・たくさんのPV大感謝です。
ほんと心の支えです。
次回の更新は明後日です。
明日は「きみに光を。あなたに愛を。」の更新を予定しています。
よろしければ是非。
次回もお会いしましょう!
ふと以前書いた話をのぞきに行ったら、PVやブクマが増えていました。
11月に完結してしばらくたちますが、本当にびっくりしました。
こちらもどうぞ。
完結済「アイのある人生は異世界で。」
とにかく主人公を幼馴染が甘やかすお話です。
https://ncode.syosetu.com/n1461ft/
連載中「きみに光を。あなたに愛を。」
世知辛い後宮でのアセナの奮闘記。
https://ncode.syosetu.com/n3833fw/




