1.ワシの話を聞いて
人通りの少ない横断歩道
帰宅途中の男性は、居眠り運転していたトラックに運悪く轢かれてしまい
そのまま息をひきとった
「ん…?あ、あれ?生きてる??」
ここはどこだ?
と困惑しながら周りを見渡す男性
そして目の前には…
「は?てか爺さん誰?!」
「少し落ち着きなされ、ほれ、そこの椅子に座って」
「あ、えっ?」
「お茶で良いかな?」
「あ、どうも」
困惑しながらも椅子に座り
お茶を一口飲み少し落ち着いたようじゃな
「おぬしはトラックに轢かれて還らぬ人となったんじゃ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺ピンピンしてるし!それともここが天国だとでも言うのかよ!」
「ここは還らぬ者が訪れる場所ではあるからのう、天国とやらと同じ感じに思ってくれて構わんよ」
「そんな!」
男性は膝から崩れ落ち体が震えていた
可哀想にのう、ショックを受けるのは仕方ない事じゃ
少しでも落ち着かせてあげるためにと声を掛けようとした時
「はっ!もしかしてこの展開は!あんた神様!?」
「へっ!?」
な、なんじゃ急に!
びっくりして変な声が出てしもうたわい
「んでもって、理不尽に死んだ俺は異世界に転生させてもらえて、チート能力授けてくれるんだろ?!」
なぁなぁなぁ!と詰め寄ってくる男性
正直言って引いた
何言ってんのコイツ状態である
「鼻息荒い!離れて!お願いじゃから!てか異世界って何じゃ?!」
「あ、俺出来ればイケメン高身長で魔力とか半端ない感じでお願いします!」
聞いて!
ワシの話聞いて!
「いや、だから落ち着けい!魔力って何じゃ?!とりあえずワシにもわかるように説明してくれんか?!な?!」
何とか男性を落ち着かせ、訳の分からない内容の説明を聞く
「えっと、つまりファンタジーな世界に転生して、何かしら不思議な力をワシがおぬしに授けると?」
「そんな感じ!魔法が使えて、モンスターが居るような世界に転生させてくれるんでしょ?!」
「むぉんすたあ??」
「モンスターはモンスターだよ!スライムとか!」
「はて?すらいす?」
「スライム!なんか柔らかいぬめりのあるような生き物だよ!」
「あぁ、なんじゃナメクジの事じゃな」
「ちっげーよ!!」
なんじゃ?違うのか??
スライムなんて生き物居たかのう?
んーこの世の生物は全て把握してるつもりなのじゃが…
あと魔法とか言うたか
コヤツもしや本気で魔法なんてものが存在すると思っとるのかのう?
いやいや、まさかそんなはずある訳ない
子供ならまだしもじゃ
まさかのう…
「まぁとにかく、おぬしの言ってる事で合ってるのは転生するかどうかという部分だけじゃな」
「えっ!チート能力は?!」
「んなもん無いわい!」
「そんなぁ〜、じゃあ異世界に転生するだけ?」
いやいやいや、なんじゃ異世界に転生て
コヤツ本気か?
本気なのか?
「良いか?おぬしが言ってる事はアニメや漫画という空想の世界の話であり、この世に存在はせんのじゃ」
「えっ」
「おぬしが生きてきた世界で魔法は使えるか?」
「いや、使えないけど」
「モンスターとやらは居るか?」
「いや、居ないけど」
「ならそれが答えじゃ」
これだけ言えばいくらなんでもわかるじゃろ
これでやっと本題に入れる、進めれる!
「えぇ!なんで?!異世界転生ってお約束じゃないの?!」
「そんな約束した覚えなどないわい!」
「神様だったらなんでも出来るんでしょ?!」
出来るか!バカ者!
もうなんなのこの子!
とりあえず進めちゃお!うん!
「良いか?ワシはおぬしに転生先の希望を聞き、出来るだけ沿えるように進める…それがワシの仕事じゃ」
「じゃあ異世界に!」
「異世界など無いわ!バカ者!」
あ、つい暴言が
いかんいかん冷静にならねば
「おぬしの転生先は人か昆虫じゃ、もちろん現世のな」
「昆虫?!えっ虫?!」
「なんじゃ?不満か?」
虫だって大切な生き物じゃぞ?
「え〜人が良いな〜」
なんちゅう不満そうな態度じゃ
まったく
「人じゃな、ではこの同意書にサインを」
「は?」
「なんじゃ?文字は読めるし書けるじゃろ?」
「いやいや、なにこの役所的な流れ」
「?まぁ役所みたいなもんじゃからな、本人のサインが無いと書類の提出が出来ないからのう」
「書類って何?!いやいや、違うでしょ?!もっとなんかあれだよ!」
あれってなんじゃ?
「理不尽な死に合わせてすまんかった、その代わりと言ってはなんだがもう一度1からの人生を歩むが良い!行ってまいれ!みたいな感じで簡単に進んで俺は赤ちゃんからのイージーライフじゃないの?!」
なんじゃその流れは
そんな簡単じゃったらワシはここに居らんわ
「何を言ってるんじゃ、ほんとに何を言ってるんじゃ」
ワシの理解が追いつかんわい
「物凄く勘違いされているから説明するぞ?良いか、人であった者が必ずしも人に転生出来るとは限らんのじゃ」
「じゃあ人外とか?!」
「えぇい!そのファンタジー思考から離れい!」
まったくもう!
「まず希望転生先の書類を提出し、申請が通れば希望した生へと生まれ変わる事が出来るのじゃ」
「役所かよ」
「だから役所みたいなもんじゃと言うとろうが」
人の話を聞かん子じゃのう
「また、申請が通ったからといってすぐに生まれ変われる訳ではないんじゃ」
「えっ!なんで?」
「いつ転生させるかはこちらで決めるからじゃ、その者が生きていた時の行いにより期間を決め、その時が来るまでその者はこちらで決めた仕事をしてもらうことになっておる」
「えぇ!仕事?!拒否権は?!」
「転生をしなくて良いならば、仕事はせんで良いがのう」
「転生したいけど働きたくない!」
「ワガママ言うでない!」
「じゃあもういいよ!転生しなくて!」
なぬ?!
「良いのか?」
「だって異世界行けないし」
まだ言うか、いいかげんしつこいぞい
「転生する事もなく働きもしない者は、ある場所へ行かねばならぬがそれでも良いか?」
「ある場所?」
「そうじゃ、働かなくても良い場所じゃ」
ただし、二度と戻っては来れんがのう
「なんだよ〜そんな良い場所があるなら先に言ってくれよ!」
「…ほんとに良いんじゃな?」
「良い良い!全然良いよ!」
「わかった、ならワシの後ろにある扉に入るがよい」
「あれ?書類は?」
「その場所は書類の提出をしなくても、自らの手でそこの扉を開け入れば誰でも行けるのじゃ」
「まじ?なーんだめちゃくちゃ簡単じゃん!」
そう言って男性は扉の先へ行ってしまった
「まったく、簡単に行ける所など良い場所のはず無かろうに」
はぁ、なんかドッと疲れたわい
休みたいところじゃが次の者が待ってるからのう
早く呼んでやらねばのう
「次の者をここへ」
すると目の前に先程よりも若い男性が現れる
うむ、コヤツは階段を踏み外しそのまま…か
「えっ!あれ?ここは??」
「落ち着きなされ、そこの椅子に座るが良い」
「えっ?あ、はい」
「お茶で良いかな?」
「あ、ありがとうございます」
なんじゃろう、先程とのギャップかのう?
もの凄く良い子に見えるわい
うむ、茶菓子も出してやろうかの
「受け入れ難いかもしれぬが、おぬしは階段から落ちて還らぬ人となったんじゃ」
「えっ…」
「ここでは転生先を「転生?!」
まだ話の途中!!
ワシの話を遮らないで?!
「異世界転生!まじか!まじか!!」
デジャブ!
まずいぞい、この流れは…
「あぁ神様!神様でしょ?!俺にどんな能力授けてくれるの?!」
「ちょ、落ち着くのじゃ」
「本当にあったんだ!異世界転生!」
勝手に舞い上がらないで!
行けないからね?!
異世界なんて無いからね?!
なんなんじゃ?!
現世では死ねば異世界行けるルールでも流行ってるの?!
何それ怖い!
転職しようかの