第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千二十五
「丘の西の裏手……崖めいた場所に、風が吹き出ている。あそこから、入れるだろう!」
『らじゃー!いっくよー!!』
「オレとノヴァーク、ミア、キュレネイ、ジャンが突撃チームだ!!ククリとククルは、ゼファーといっしょに近づく傭兵を蹴散らしてくれ!!プレイガスト、弓が射れるなら手伝ってくれ!!」
「久しぶりですが、まあ、やれないことはありません」
―――ゼファーは急降下する、潮風混じりの熱風を切り裂いて地上すれすれを目指した。
古さのあるクリーム色に乾いた崖、そこにはソルジェの読み通り古い遺跡の跡がある。
崩れた地下神殿への入口のようだ、獣を模した石彫刻と崩れかけのブロック壁。
壁は横に大きく裂けてしまっているが、入口として使われているようだった……。
「ろ、ロープがありますね。シドニア・ジャンパーたちは、あのロープを使ってここを入口として使っていたんだ!?」
「そのようだ。さあて、いくぞ!!オレに続け!!」
「イエス。ミア、団長の背中に。私は、さらにその背後を。ジャンは、しんがりであります」
「は、はい!!ノヴァーク、い、いくよ!!」
『みんなー、いってらっしゃーい!!』
―――ブロック壁の裂け目すれすれまで、降下してくれたゼファーの背から猟兵が飛ぶ。
器用なものだよ、みんな音も立てずに衝撃を完全に消し去りながら裂け目の奥に進む。
ソルジェはナイフを頼る、広さが足りない通路で竜太刀は使いにくい。
逆手に握りしめたナイフは、盾代わりの防御として使われる……。
―――竜鱗の鎧と圧倒的な筋力のおかげで、まさに『動く壁』といったところだ。
見張りの兵がいたが、迫り来るソルジェにどうすることも出来やしない。
ミドルソードを振り上げたとて、ソルジェはその斬撃の軌道から消える。
ステップは鋭く、左右にも上下にもソルジェの巨体はよく動いた……。
「な、なんて、動きだ!?」
「連携、しているんだよーん!!」
「な、なんだと!?」
「さあ、死のう!!」
―――ソルジェの巨体は、ミアにとってカーテンだった。
見張りの敵兵からすれば、ミアは完全に隠されていたのさ。
死角から飛び出す、最速の影。
こんなせまい場所では、ミアを捉える方法なんてほとんどない……。
―――まして『ソルジェがわざと目立ち』、さらにはミアが声まで使った。
隠密で仕留めるためではなく、ソルジェの行動をカバーするために目立っている。
ソルジェはこの裂け目の裏側という、せま苦しい空間で安全確保の義務があった。
他にも敵がいるかもしれないし、罠だってあるかもしれないからね……。
―――魔眼と猟兵としての経験値で、探り尽くす必要があるのさ。
だから、敵がソルジェに集中しないようにミアはわざと目立つ。
問題はない、敵はすでにミアの姿を見失ってしまっているからだ。
軽やかな曲芸的な跳躍で、裂け目の奥に広がる古い空間の壁を蹴った……。
―――敵を軽々と飛び越えながら、天井にちいさな両足を押し込む。
天井を蹴って、垂直真下に飛び抜けながら。
ミアは敵の首に死の抱擁を仕掛ける、細い腕を絡ませながら体重を使うだけ。
首の骨がバキっと折れて、傭兵がひとり即死した……。
「いっちょ、上がり!」
「安全を確保。罠はない。見張りは、こいつだけ。目立って悟られることを恐れていたらしい。足跡は、そこそこある。奥には敵がいるぞ」
「ミア、そいつから情報を」
「うん。何か、持ってないかなー」
―――見事な手際だよ、さすがは猟兵の最高傑作だ。
ジャンの小脇に抱えられながら、裂け目の奥へとやってきたノヴァーク。
彼は一瞬のうちに屈強な傭兵を仕留めたミアを見て、びびっていた。
屈強な太い首を、どうやってへし折ったのか見えなかったからね……。
―――それに、ミアがガサゴソと敵兵の死体を漁るのも怖いようだ。
トドメとしてナイフで、首をさらにかき切ったことも。
念を押して、安全確保のためにはしょうがない。
呪術対策でもある、『象徴的かつ儀式的な死』は解呪のそれである……。
―――シドニア・ジャンパーの呪術で、死体になっても動くかもしれない。
あるいは、別の呪術が介在しているかもしれないから。
祭祀呪術、それを集めていたのが我々のターゲットなんだよ。
ミアは完璧なプロフェッショナルだったが、ノヴァークは戦場のシロウトだ……。
「し、死体を漁ってるのかよ……っ」
「じょ、情報収集として正しいからね。だ、だって、作戦指示書でもあれば、ら、楽になる」
「だが……それは、そうだけど」
「と、とにかく。あまり大きな声は出さないようにね。て、敵に見つかると不要なトラブルが起きるかもしれない。し、シドニア・ジャンパーを殺されたりするのは避けたい」




