第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千四
―――そのときシドニア・ジャンパーの行方を示す、赤い糸の方角は。
『ルファード』の西だった、我らが呪術師たちの感覚ではそうなっている。
プレイガストは竜の呪術への対抗策を、ソルジェに問われることになった。
『プレイレス』流の呪術研究の果てに、そのようなものがあるのかと……。
「追跡能力に長けた竜呪術、ストラウス卿と竜ゼファーの力は、まさにそれですな。呪術の基礎は、遠くにいる対象に作用を運ぶことです。いくつか、シドニア・ジャンパーが仕掛けてきそうな呪術を思いつきます」
「さすがだ。それについて、説明をして欲しいな」
「ひとつは生贄を使う方法です。呪いの対象の、『身代わり』を創り上げるというわけですな。誰かに対して、自らを追いかけてくる呪いを受け止めさせる」
「残酷な方法がありそうだな。あまり、褒められたものではないものが」
「ええ。若い乙女を使います」
「騎士道に反する行いだ。女子供を犠牲にするような呪術は、どうにも好かん」
「正常な感覚です。しかし、大陸のすべての呪術に、生贄はつきもの」
「だろうな。すまん、ハナシを続けてくれ」
「無垢な乙女は、呪いを受け止める対象として優れている。シドニア・ジャンパーが非情な女であれば、誰かを犠牲にして、ストラウス卿の対策をしているかもしれない」
「少尉を、分かっちゃいないね」
「そうかもしれない。直接は、会ったことがないからね。ノヴァーク、君は彼女が倫理的な女性だと思うのか?」
「そこまでは、さすがに……断言するのは、難しいよな」
「なんだか、頼りないわよね。ノヴァークは、本当にシドニア・ジャンパーの心を理解できるのかな?」
「しょせん、子供ですから。信頼を伴うような愛され方なんて、されてないんじゃないでしょうか」
「し、辛辣な評価はやめろよ。いじけたくなるぞ」
「でも。ノヴァークはオトナの女性から、真剣に愛されるようなタイプなのかな?ちょっとね、幼稚に見えるんだけどー」
「うるさい。ケットシーのガキに、恋愛の何が分かるっていうんだ?」
「えへへ。そう言われると、あんまし分かんないけどね」
「でも、ノヴァークは弱々しく見えるんだ」
「戦士としては、中の下か、それ以下ですし」
「少尉と少なからずの作戦を行った。その、つまり、詐欺も含めてだが。犯罪をいっしょに行うと、ちょっとは相手のことが分かるものだ。普通の仕事よりもな」
「そいつは、一理あるように感じるな」
「イエス。犯罪組織の結束は、悪行で強めるものであります。実体験に基づく感想でありますが、今の私はとても良い子。戦争でヒトを殺す程度の行いしかしていないのであります」
「十分、極悪だと思うがね」
―――商人の生まれのノヴァークは、戦士の価値観をそれほど理解しちゃいない。
戦争で死ぬことが戦士にとって、どれだけの名誉なのかとか。
その種の北方野蛮人の感覚は、どうにも相性が悪かった。
それはそれで健全かもしれないよね、ボクたちは戦争のプロ過ぎるところがある……。
「とにかく。少尉は、自分の安全のために見知らぬ乙女を犠牲にするような真似はしないだろうよ。いいか?詐欺師だし、盗人かもしれない。だが、別に意地悪な性格はしていないんだ。純粋に、姫さまに対しての忠誠心だけだよ」
「分かった。ノヴァーク、お前の読みに賭けてやろう」
「マジかよ、ソルジェ・ストラウス。アンタは、ちょっと騙されやすいとか言われることないか?」
「どうかな。騙されたことは、最近は多くない。九年前に、ユアンダートを信じて騙されたのが人生で最大の失態だ。その次は……」
「その次は、何なんだよ?」
「……あんまり言いたくないが。一種の恋愛を使った詐欺のようなものにあった」
「なんだよ、オレのことバカに出来ない英雄さんがいやがる」
「いい女だった。だが、そいつは、オレの敵の女で……なぜか、オレに抱かせるために敵が派遣してきたんだ」
「うわ。キツイ。何それ、その敵ってヤツ……自分の恋人を、アンタに?それ、どういう感覚なのかな?」
「知らん。理解は出来ないままだったな。けっきょくは、殺し合うことになった敵だ」
「そういう目に遭うの、オトナっぽいな」
「普通のオトナは、そういう目に遭わんと思うぜ」




