第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千三
「『呪いの赤い糸』は、明確だ。シドニア・ジャンパーを追いかけられるはず」
「は、はい。でも。何でしょうか。か、賢い人たちって、めちゃくちゃすごいですからねっ」
「そうだ。オレとジャンは、呪術師としての歴が浅い。そして、悲しいかなあまりアタマの出来ってものが良くないんだよ。そこは自信を持って主張していいことだ。つまり、策にはめられてしまうリスクもある」
「イエス。団長やジャンの能力を、敵が知っているリスクは否めないであります」
「あちこちの戦場で、お兄ちゃんの呪術も見せちゃってるしね」
「有名になるもんじゃないな。ガルフが叱るかもしれん。恐れられるつもりで、いくらか偽情報は撒いてるんだが……戦闘の場では、どうにも手の内を出さんわけにはいかなくなる。とくに、レヴェータだ」
「は、はい。『プレイレス』の戦闘では、て、帝国軍の前でも呪術を使いました」
「呪術研究が盛んでもある土地だ。レヴェータと、ヤツの呪術との戦いで、オレも魔眼を酷使しまくっている。見られたはずだ。帝国兵にも」
―――普段なら『とっておきの能力』は、情報を隠蔽したいものだ。
だが、皇太子レヴェータとの戦いではそう上手くはいかなかったからね。
帝国兵と協調する状況さえあったし、帝国軍が大勢いる戦場で呪術の全てを使った。
ソルジェの呪術を、いくらか研究されていたとしてもおかしくはない……。
―――帝国軍の分析力だって、バカには出来ないものだよ。
戦闘に関するプロは、大陸のどの組織よりも当然ながら多いんだから。
呪術を公式に禁止していたとしても、研究者や呪術師はあちこちにいる。
対策のための研究だって、かなりしているわけだからね……。
「竜にまつわる文献は、かなり希少なものでしょう。しかし、見たことがないというわけにはいかない」
「あるんだね、プレイガストさんは」
「一体、どんな内容だったのでしょうか?」
「生態についてのものだったよ。強力な魔術や、そして、呪術の持ち主でもあると記述されていた。大学半島の大学の一つ、『マシーズ』の学者だけが閲覧可能な深層図書館で見たものだ。帝国に接収されていなければ、いまだに保管されているのだろうが……」
「竜対策には、帝国軍もかなり力を入れていたであります。竜についての情報は、かなりかき集めたはず」
「うむ。懸念される学術破壊だね」
「竜についての本は、我がストラウス家が独占しておきたいところだな」
「それで、竜についてはどんなことが書いてあったのかな、プレイガストのおっちゃん?」
「現状の脅威となり得るとすれば、やはり竜の呪術の研究だろう。にらみつけるだけで、相手を石に変えてしまう『竜の呪術師』もいたとか?」
「ああ、いたぞ。死んじまったがな。アーレスの子の一頭、つまり、このゼファーの叔父さんだな」
『おじさん、すごいじゅじゅつし』
「ぜ、ゼファーも、そんな呪術を覚えられるんでしょうか?」
「『竜の呪術』は、『個性が強い』との記述もありました。生まれ持った特性が、その力を決めてしまうのかもしれません」
「ガルーナの竜は、そもそも呪術をあまり好まなかったからな。ゼファーの叔父竜も、魔力自体はゼファーよりは高くないはずだ。『グレート・ドラゴン/耐久卵の仔』ではないからな」
「つ、つまり。強いとか弱いとかじゃなく、そもそも使えるタイプの呪術が決まってる?」
「その可能性は十分にあるでしょう。そして、それには不味さもあります」
「パターン化が、あるかもってことだね?」
「竜の呪術は強すぎるし、先天的な決定であるとすれば、バリエーションは少ないかもしれません」
「左様。『グレート・ドラゴン』による、種内の強制淘汰も経れば、多様性は失われがちかもしれません。強いとは、最適解に近しい。最適解の数は、多くはないものです」
「『過去の竜たちと比べられる』というわけでありますな。つまり、魔眼の使い手である竜についての記述を調べれば、団長やゼファーの能力も探り当てられるかもしれない」
「アーレスも、魔眼の使い手だった。となれば、アーレスが暴れ回っていた時代の研究があれば、オレたちの手の内も、少しは分かってしまうだろう」
「懸念すべきことですが、あり得ます。その情報を、帝国軍や……さらには呪術師であるシドニア・ジャンパーならば、集めている可能性は拭いきれません」
「少尉は、ソルジェ・ストラウスを嫌っていたんだよ。だって、アンタが来なかったら、姫さまは死なずに済んだかもしれないし」
「彼女について色々と知っちまった今では、殺すべきではないとさえ思う人物だ。だが、あのときは殺すつもりだったのも確かだ。レヴェータが殺したんだが、家臣に恨まれても、まあ、しょうがない。受けて立つべき因縁ではあるが」
「生産的に、振る舞うべきでしょう。誰もが所属した勢力には縛られるものですが、絶対というものはないものですから。とくに、極めて優秀な詐欺師ならば、帝国への攻撃には使える」
「オレの少尉を、使い捨ての道具みたいにしようとするなら、オレだって根性を出すかもしれない」
「ククク!そんな真似はしないさ。一生、つるめるようなヤツかは自信がない。だが、少なくとも、使い捨てにしていいような才能じゃないぜ。ユアンダートと帝国を潰すための、強烈な戦術を担えるヤツだ」
「イエス。無理やりにでも、生かして協力を強いるであります。団長がやりにくい場合は、私と双子たちの出番であります」




