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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千二


―――メイウェイには不満がある、だが口に出すほど幼くもなかった。

ソルジェであれば口に出せたかもね、幼さは別に弱さとは限らない。

政治的な状況を考えながら、押し黙ってしまう賢さ。

それもまた当然の反応だが、傲慢な方が多くを得る可能性は拭い切れない……。




―――多くを望めば、より多くが手に入るかも。

そんな考えが脳裏にかすめるのに、実行できないのは消極性かもしれない。

だが、それもまた処世術ではあった。

永遠のナンバー2などと呼ばれそうな、稀代の天才軍人にとってはね……。




「『パンジャール猟兵団』が欲しいのは、シドニア・ジャンパーです。この稀代の女狐がいれば、多くの工作が実現してしまうから」

「……彼女の身柄は、あなた方に」

「はい。ありがとう。メイウェイさんの実力や、これだけの軍勢を指揮する立場であることを考えれば、欲してもおかしくはありません」

「……ストラウス卿になびいているつもりはありません。『自由同盟』の傭兵として、私は忠を見せましょう。誠意を期待しますが、多くを語るのは趣味ではないのです」




「軍人ですものね。貴方は、戦場の風がよく似合う。ソルジェさんが、惚れ込むわけです」

「嬉しいですよ。あれだけの猛将に……いや、未来のガルーナ王に、褒められるのは。貴方の血に連なる北方の王家は、恐ろしく広大な土地を領にするでしょう」

「強い力には、責任が伴う。そうなったとしても、過ぎたる災いをもたらさないようにしなくては。より未来に届く、メッセンジャーはやはり必要でしょう」

「領土的野心は、慎重であるべきです。血に流れる歴史が伴わないものは、とくに。だからこそ、貴方はこの土地の戦力に、執着はしないようにも思える」




「ええ。他人の土地を、奪う行為。それはリスクが多いものです。必ずや反発を招きますから。連鎖する血の報復というものこそが、何世代にも渡り、復讐の破壊を世界にもたらしてしまう。我が夫のように、無限の怒りを抱えた戦士は、死さえ恐れず敵を追いかけ、世界の果てにだって行くものです」

「……土地は、ヒトの魂を縛りますからな」

「『世界の文脈』。『プレイレス』において、貴方のおっしゃる感覚を表現したものの一つですよ」

「恐怖すべき概念ですね。肝に銘じておきながら……人材を集めるとしましょう」




「では、私はストラウス商会のテントに戻ります。猟兵としての仕事も、こなさなくてはなりません。御用があれば、お声をかけてくださいませ」

「ええ。貴方ほど頼りになる賢者は、大陸に数えるほどしかいませんから」

「ウフフ。お世辞も、好きですよ」

「お世辞であれば、私はここまでロロカ・シャーネル殿を、恐れないでしょう。賢者の目は、多くを見透かしてしまうものだ」




「偽りの少ない目をしておられます。メイウェイさん、裏切りには報いを。忠には、友情と利益をもたらす。それが、戦士が古来守り続ける、絶対の法です」




―――けっきょくのところ、ロロカも釘を刺しに来たんだよ。

メイウェイが裏切る可能性に対して、ほんのちょっぴり脅したんだ。

ヒトを形作るのは意志だけでなく、状況という外部因子だからね。

信じてないわけではない、信じているからこそこれだけの忠告で済んだ……。




―――信頼が足らない男なら、例えばあのレビン大尉がメイウェイの立場にいれば。

ロロカは殺したかもしれない、眼鏡の下の青い瞳を凍てつかせたまま。

今は、太陽のようにやさしい笑顔だけれどね。

女は怖いよ、王の妻たる覚悟をしたディアロスの女はとくに……。




「……殺さずに、立ち去ってくれた」

「ロロカ・シャーネル殿は、お前を殺さねえよ、メイウェイ」

「君の忠告を聞いていたおかげかもしれない。裏切りの兆しを見つけられていたら、あの槍のもとに死んでいたかもな」

「考えすぎだ。お前を彼女は、ずい分と気に入っているように見えたぞ」




「仲間ならね。だが、リスクはあると考えられた」

「まあ、気にすることはない」

「命を軽薄に扱い過ぎているな。悪い癖だぞ、レイ」

「裏切らなければ、報酬を渡すと約束してくれたんだ。そっちを信じるとしよう」




「我が友は、前向きでいい」

「お前よりはな。支えるだけの立場だ。矢面に立たない分、せいぜい前向きでいる。お前の一番の部下は、オレだ」

「部下よりも、友であり仲間でいて欲しいのだ。戦友よ」

「分かった。オレは裏切らん。それだけはいつでも変わらんぞ」




「恩に着る」

「軍務に戻るとしよう。ちょっくら、オレはさっきの捕虜どもから情報収集だ」

「頼んだ。こちらは、しばし……戦力集めの時間としよう」

「そうしろ。あちこち回りながら、いい人材には粉かけておけ。リストアップしてくれるなら、オレからも誘ってみるさ」




―――メイウェイは軍を休ませ、合流してきた援軍を出迎えた。

腕のいい傭兵たちのもとには、足を運ぶ。

学生兵にも、声をかけるのは忘れなかった。

報告の数は山のようだが、それでも人脈形成に時間をかける……。




―――政治力とは、けっきょくのところコネだ。

血で作れないなら、有能な者との対話をするしかない。

繰り返し、地道に。

メイウェイのような血筋の者は、戦場の裏側で力を探るしかなかった……。




「……君を、想うぞ。マイク・クーガー少佐。君も、同じような日差しの下を歩いたのだろう」



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