第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千一
―――メイウェイにとっては、その『架空の国』は狙うべき獲物でもあった。
少なくとも国家規模の金と資材があるんだから、当然ではあるだろう。
一から創り上げるのならば、奪うリスクは少なくて済むのさ。
メイウェイが侵略者の面を持てば、周辺国は大いに怖がるからね……。
「最も、角が立たなくていい気がしているのだよ」
「それはありますね。メイウェイさんほどの軍人にとっては、敵が多いことは脅威ではないものの……『自由同盟』の仲間から嫌われることは、絶対に避けるべきですから」
「孤立したいわけではないからね。戦とは、そもそも孤立と真逆を選ぶべきものだ」
「……オレも、メイウェイがくだんの国を統治するのなら、歓迎だな。どこかの国を奪うよりは、本当にお前向きだと思う」
「国家の統治には、正統性も要求されるものです。メイウェイさんの唯一の弱点は、そこでしょうから」
「私はただの、一般人に過ぎないからね。『生まれ』という観点では、どうにも弱い。乱世が実力を高く評価してくれるとしても、『王なき土地』を除けば、どこも王族や貴族の血統が支配を得ている。『王なき土地』も、基本的に当該都市国家生まれでなければ、権力を得難いと聞いているよ」
「そうですね。実際のところ、『ペイルカ』人以外が『ペイルカ』の統治者を長く務められたことはないとのこと」
「歴史を持たない血は、やはりどこか弱いのだ。だが、そもそも歴史のない国ならば、ハナシは違ってくるように思える」
「私にそのような言葉を聞かせるということの真意は、ソルジェさんに推薦して欲しいのですね。これ、間違っていれば、今すぐ訂正しておいて欲しいんですが」
「間違っていない。ストラウス卿の奥方である貴方に、私自身を売り込んでいるんだ」
「分かりました。必ずや、ソルジェさんに伝えます。私の支持そのものは、すでに得ていると考えてください」
「ハハハ。メイウェイ、やったな。なんだか王への道が、ぐっと現実的になったぞ」
「うん。むろん、まだ多くが未確定ではあるが……私は、やはり王になりたい」
「いい野心だと思います。実力も、結果も十分」
「支持していただいたこと、感謝するよ。貴方のように聡明な方からのお墨付き、何よりの自信になる」
「ええ。ですが、野心実現のためにも人材の確保をしなくてはなりません。丁度いい、ハントの場所が目の前にありますね」
―――戦場はスカウトを行うには、悪くない場所だったよ。
若くて攻撃的な才能の宝庫であり、メイウェイのような手慣れた軍人からすれば。
どこに強力な人材がいるのか、よく分かってもいる。
軍事と共に、事務屋も混在しているのが軍隊なのだから……。
「最たる人材の宝庫は、やはり……」
「ええ。もちろん、大学半島の学生兵たちでしょう。誰もが有能ですし、戦士としての覚悟も十分にある。戦力と実務能力を兼ねそろえた、非常に有能な人材ばかりですよ」
「兼任可能というのが、ありがたいね」
「一人で二人分の能力を有していると、考えることだってやれますから。まあ、当然ですが、あまり一人に働かせすぎるような構造は良くありません」
「分かっているよ。でも、こちらもより多くをいきなり抱え込めはしないんだ」
「『王なき土地』の出身者なら、貴族がいない、というのもいい点でしょう。メイウェイさんの唯一の弱点を、突いてくる可能性もないわけです」
「『高貴な身分』の者には、どうにも場所を譲らなければならない気がしてしまうからね。少なくとも、権力闘争の火種にはなる」
「貴族がいなければ、メイウェイの玉座を狙いにくい、わけだな。とはいえ、学生兵たちばかりを狙うのも……あいつらは、母国である都市国家への忠誠心が強い。生まれ育った都市国家へ戻って、そこで軍人や政治家をやりたいヤツも多いだろうからな」
「となれば、この巨大な傭兵集団とも言える軍勢から、ヘッドハンティングしていくないね」
「アーベルくんは、渡したくありませんけれど」
「彼が最終的にどう生きるかは、私だって強制できないことは分かっている」
「それなら、問題ありません」
「その他の人材に、ロロカ・シャーネル殿は興味がないと?」
「いいえ。いつだって、ストラウス商会の社員には、スカウトをさせていますよ。ガルーナ王国だって、大陸最強の国を目指すわけですから。人材で劣ることは、あまりに大きなリスク……ですが、この土地は、さすがにガルーナから離れ過ぎてはいますので」
「つまり、譲ってくれると?」
「はい。何もかもを、というわけではありません。『最高の人材』は、そもそもソルジェさんが確保しちゃいそうですからね」




