第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その九百九十六
―――ソルジェの妻たちは、本当に優秀だよ。
戦闘能力でも、世の中に貢献しようとする意識の強さでもね。
リエルのカリスマ性や、カミラの医療への地道に献身とか。
さらに強烈な優秀さが、メイウェイのとなりにやって来ていた……。
「ロロカ・シャーネル殿。いや、ストラウス商会の副社長殿」
「そちらの方が、兵站構築ビジネスの最中にある私には相応しいかもしれません」
「あんたもやって来たんだ。ヒマじゃないだろうに」
「いえいえ。アーベルくんたちに働いてもらったおかげで、ほとんど仕事しなくても済みましたよ。村からの協力の取り付けも、実にスムーズでしたので。とても有能ですね、アーベルくん」
「褒めといてくれよ。雇用主であるメイウェイや、大尉にアピールしときたい」
「戦士と試合をしていただろう。アレは、考え方によってはサボりだぞ」
「交流だよ。ストラウス商会のいいカンジの現場リーダーと仲良くなる。そのためのビジネスの一環だ」
「ウフフ。褒めていましたよ。かなりの凄腕になると」
「……ディアロスの中で最強なのは、アンタなんだろう?」
「さあ。決めたことがありませんので。若い子たちには、私よりも強い逸材がいるかもしれません」
「……マジかよ。いいや。さすがに、冗談だろ?」
「可能性は否定したくありません。否定していたら、足元すくわれるでしょうから。私のようなお姉さんが働いている最中に、腕を磨いている後輩くんたちがいるわけですからね」
「抜け駆けしているみたいに言うなよ。オレは、アンタらに比べたら雑魚だから、精いっぱい強くなろうとしているだけ。可愛いもんだろ」
「もう少し、可愛らしい態度ってもんをするのなら、可愛がりやすいんだがな」
「大尉はオレに対して厳しいな。甘やかした方が、若者ってのは伸びるんだぞ」
「……一理はあるかもしれんが、甘やかしすぎでダメになったヤツは多い」
「オレは大尉を裏切って殺そうとしたりしないさ。決めたからな。状況次第では、命を捨ててでもユアンダートを討つ」
「あら。意外な覚悟ですね」
「必要な覚悟だと、分かったんだ。ハーフ・エルフのオレが生き残るためには、皇帝だって殺すべきだと……」
「背負う覚悟が、出来たのだろう。アーベル、誇らしく思うよ。亡きお父上たちもそうだろう。君の大いなる覚悟を喜ばれるはずだ」
「……知ってるよ。どんな道でも、命懸けで選んだのなら、褒めてくださる。戦士の生き様を、誰よりも信じてくれる方たちなんだ」
「若さって、いいものですね」
「……照れちまうから、やめてくれ。さっさと、ビジネスの仕事をしよう」
「はい。そうですね。陸路で『ペイルカ』と、イルカルラからの食料が来ます。海路は大学半島経由です。こちらからは、兵力と弓矢、油などの燃料が届く。海上の覇権は、確固たるものとなりましたから。『オルテガ』方面の帝国海軍勢力は、沈黙しているので」
「そっちから西に軍船やら、商船を寄せてくるのはリスクじゃないのか?あっちも戦争続きで疲弊しているんじゃないか?」
「陸上戦力はかなり壊滅させていますので。捕虜も得ています。『モロー』のラフォー・ドリューズ社長が、交渉をしてくれているの」
「時間稼ぎになるっていうのか。帝国からしても、戦力の再建はしたいはずだしな」
「はい。戦続きで疲弊しているのは、こちらもですが。帝国軍に至っては、敗北続きですからね。それに……イース教の暴走も混乱を招いているようですよ」
「女神イースのニセモノを、カール・メアーが降臨させたってのは……」
「本当です。ニセモノか本物かは分かりませんが、敬虔なイース教徒も多い帝国軍にとっては混乱を招く事実でしょう」
「混乱に乗じて、東から戦力を西に?」
「戦力というよりは、兵站線ですね。補給物資が前線に回らなくなるわけではありません。東の戦線にはストラウス商会が責任をもって、食料と武器を運びます。ユニコーン騎兵に、無理をさせることになりますが、ディアロスとユニコーンにとって、帝国が整備した道路は走りやすくもあります。帝国軍の数倍の能力で」
―――ロロカは『プレイレス』周辺の広大な流通計画を、一時間で計画し直したのさ。
直感的な部分も、どうしたって含まれているものの。
副社長として常日頃から、ストラウス商会のビジネスを経営しているからね。
どの都市がどれだけ余力を持っているか、知り尽くしている……。
「ストラウス商会の輸送力のカバー範囲ならば、どうにか今度の『無理』も成し遂げられます。短期間で、『トゥ・リオーネの地』から帝国軍を排除する必要がありますけれど。そこは、メイウェイさんたちにがんばってもらいますわ」
「任せてもらおう。ストラウス卿との連携があれば、落とすべき都市の数は限られてくれる」
「帝国軍がどう動くかについては、とくに、『武装解除』させる方法は貴方のほうが詳しいと思いますので」
「捕虜を取りたいというのかい、ロロカ・シャーネルさん」
「ええ。大尉。交渉で帝国軍の力を弱体化させていきたくもあります。『とても面白い作戦』を、ソルジェさんたちは考えているみたいなので。『架空の国』を作りたがっていると」
「くだんのフクロウが、伝えたのかな」
「そんなところです。詐欺師の作戦という点は、やや感情的には気になりますけれど。帝国の経済力や結束を削ぐには、かなり有効な方法です。ユアンダートの戦費捻出の仕組みそのものを、破壊できる。そして、すでに死亡した皇太子レヴェータに政治力や資金が集まるのであれば、皇帝の求心力の低下を示すことにもつながります」
「偉大な商人でもある貴方が協力するのなら、成し遂げられるかな?」
「私の協力がなくても、成し遂げられると思いますけれどね。帝国は『皇太子戦死』に意気消沈している。帝国貴族には恐怖感があります。皇帝ユアンダートがこの侵略戦争に息子を捧げたのなら、『自分たちもそれを強いられる』と」
「当然じゃあるよな。皇帝の息子が戦死したなら、他の貴族どももすべきだ。まあ、とっくに息子たちを『消費し切った』貴族もいるだろう。家が絶えるリスクを強いられると思えば、戦争に対して消極的な考えのヤツも生まれる」
「分断してしまえば、弱くなるものですから。皇太子レヴェータに生きていてもらいたい貴族は、かなり多い。度重なる十大師団の敗北に、守りを固めるべきだという主張も帝国内の中枢、地方議会での発言も増えているようですしね」
「そんな情報、どこから掴むんだ?」
「協力者は、各地にいるとしか言えませんね。でも、アーベルくんなら分かると思います。ヒトは必ずしも一枚岩ではありません。さまざまな考えを持つ方が、あちこちにいるのです」
「……歴史の有名人の半分は、裏切り者だもんな」
「裏切ることは、自らに素直になることでもありますよ。帝国の常勝無敗の伝説は終わった。ユアンダートの弱点も、露になっていきます」
「皇帝の、弱点?」
「彼は家族に恵まれていません。妻に暗殺を仕掛けられ、それを殺した。レヴェータという息子の母親です。封じられたスキャンダルが、ひそかに活性化してもいる」
「偉いヤツの、悲惨な家庭環境を聞くだけでメシウマってやつか」
「意地悪な言い方ですけど、実際そうですね」
「魅力的な父親とは、思えんよな。古くからの付き合いのあるファリス王国系貴族からは、正直、恐れられているところも多いんだ」
「レヴェータ支持は、アンチ皇帝の意志表明でもある。しかも、罰を受けにくいものです。レヴェータ生存を偽る投資詐欺が成功すれば、帝国にさらなる亀裂を入れるでしょう」




