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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百七十三


―――『彼』はシドニア・ジャンパーが、初めて感情を見せてくれたことに安堵した。

けっして英雄にはなれそうにない自分が抱いた野心、それを拒まないから。

彼女もまた野心家ではあるのだ、邪悪な野心家であり。

自分と同じく、この世の中に君臨する秩序が嫌いなのだ……。




「契約は、決まりだね。オレは、アンタのために働くよ。アンタは、何を見せてくれるんだ?」

「この『西』に派遣された、無能な帝国兵たちから給与を吸い上げる」

「ほう。そいつは、すごい……だが、どうやって?」

「そこまでは教えてやらん。私の手駒になって働くことで、君は学ぶのだよ、マリウス」




「マリウス、マリウスか」

「気に入っていないようだ。両親からもらった名前が嫌いかな、ハーフ・エルフの少年よ」

「まあ、ちょっとは嫌いだね。そもそも、帝国軍とつるむというのなら……」

「新しい名前をくれてやろうか。私の傭兵として生きる君に、相応しい名前を」




「……うん。欲しい」

「知っていたとも。だからこそ、私は君に名づけるんだ。『ノヴァーク』」

「意味が、あるね。たしか、『新参者』」

「『新しい者』だよ。君のようなハーフ・エルフにも、世界はやがて扉を開く」




「帝国は、それを求めちゃいないだろ?」

「世界というものは、若い君の瞳に映っている以上にフクザツなものということさ。私の今の契約主は、『奴隷貿易の女王』」

「ライザ・ソナーズ。『第九師団』の、大幹部だ」

「中佐殿だよ。愛しい貴族のご令嬢でもある。彼女はファリス帝国の貴族でありながら、ファリス王国の貴族でもある」




「どういう意味なんだ、それ?」

「女には複数の顔があるという意味だよ。ファリス王国の時代においては、亜人種と王国貴族のあいだにも絆があった。帝国と名乗り出す前は、じつに混沌としていて……北方野蛮人とも同盟を組んでいる。ソナーズ家の姫君は、その旧き時代を奪い返したがっているんだ」

「どうやって?時間を逆行するのは、不可能だよ」




―――引き寄せた椅子の背もたれに、抱き着きながら座るノヴァークがいた。

間抜けな若者の態度を取ることも、シドニア・ジャンパーは許す。

不遜な態度を取れることは、詐欺師にとって必要な技巧になるからだ。

心の底では怯えているのに、それを隠すことだって……。




―――これも練習であり、面接なのだ。

どれだけの力量を発揮するのか、推し量らなければならない。

選りすぐりの傭兵軍団の一員に向かえるほどの、性能がノヴァークにあるのか。

今のところは合格だ、怯えながらも強がれている……。




「なあ、教えてくれよ。ボス」

「女として生まれた事実を、使ってさ」

「……つまり。あれ、だ。権力者と……結婚政策」

「いい勘している。最高の政略結婚をするのさ」




「皇帝に嫁ぐことを除けば、皇帝の息子たちってところかな」

「どんな魅力的な乙女を選べたとしても、私の雇い主の血筋と政治力には首ったけになるよ。皇太子レヴェータ殿下の心は孤独であり、その点について、ライザ・ソナーズ中佐は心得ておられるのだからな」

「次の皇帝のお后様になって、帝国を支配しようっていうのか」

「どうだ。時を戻す方法がないとは、限らない。乱世の物理法則というものは異常なのだよ。下剋上どころか、時代の改変さえも成し遂げられる。レヴェータ殿下は、君と似ているよ。父親について、かなりのコンプレックスの持ち主だ」




「オレは、父親を殺して地位を奪おうとはしない。レヴェータ殿下とやらが、どんな考えを持っているかは知らないけれど」

「殺すなんて、言っていないのに。気に入ってやれる態度だ。しかし、だ」

「なんだい、ボス?」

「その種の発言をするときは、恐怖しないこと。顔に出すな。出したいと判断した感情意外は。それが、君の武器になる。感情は、すべて、操るんだ」

「……コツが、あれば」




「呼吸をゆっくりと、深く。肩や手に力を入れて、意図的に脱力する。恐怖は心の内側にある。それから目を逸らすように、何かを見ろ。あるいは、何かを嗅ぐ。気温でも心拍数でもいい。何かを感じて、それに意識を向けるんだ。恐怖は意識を逸らす手段で、コントロールが利く」

「あんたも、そうだったのかな、ボス?」

「そうだ。経験則しか、私は部下に教えないのだよ」

「どんな経験を、してきたんだろう」




「君の想像が、及ばない深さと遠さだ。帝国軍から金を奪ったし、会計将校を何人も破滅させてきた。共食いだよ。ああ、色香も使った。美人で、知的なオトナの女というわけさ」

「それは、怖そうだ。いろんなヤツにとって、あんたは……『運命の悪女』」

「何度も聞いた言葉だ。私はその言葉を聞かされたとき、私自身の目的に応じて表情と態度を巧みにコントロールしてきたものさ。しくじったのは、一度だけ。殺されずに、左遷で済んだのも、実力の結果。私は姫君に助けられた。スカウトされ、協力者になれと。二つ返事だ。受け入れて、『西』にやって来た。姫君と、その夫となる殿下のために、強烈な軍資金を用意するために」

「……どこから、捻出するんだ?」




「この土地で指腹を肥やそうとしている帝国兵全員からだよ。『彼らで作る経済力そのもの』を、盗む。史上最大の詐欺をやり遂げ……姫君のための、軍資金を用意するだけの、刺激的なビジネスだ。楽しそうだろう、私のノヴァーク」





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