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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百五十四


―――戦場で陣形が有効なのは、合理的な優位性もあるけれど。

心理的な威力についての側面も、十分にあった。

包囲されるだけでヒトは情けなくもおびえるし、恐怖があれ思考力は自滅を招く。

もしも、この状況でソルジェやアインウルフが敵軍にいたらどうするか……。




―――全軍に退却させたかもしれない、負け戦をする意味などないからね。

戦うべきだと信じたならば、最前線に躍り出たかもしれない。

後ろに退きたがっている軍勢すべてに、分からせるためさ。

指揮系統の意志をね、引き下がることは許さないと……。




「攻めるにしても、退くにしても。どちらの哲学で行動するべきなのか。それを示せるほど優秀な指揮系統は、もはや君らにはないというわけだよ」




―――指揮官が最前線で戦うのは無謀という説もあるが、およその戦上手はそれをやる。

ソルジェあたりは『最強の戦力』でもあるし、最前線の指揮官はメッセージ性が強い。

前に出て戦うのだという明白な意志を、表現して伝えられるから強いんだ。

リスクもあるが、その使用方法を理解しているのなら無効な策では全くない……。




―――それをやれる才能が、敵にはいなかった。

勇敢さや復讐心を見せた兵士がいただけで、肝心の偉い連中が二の足を踏んでいる。

メイウェイには見えている、退きたい敵と戦いたい敵が『分断』を招いているのがね。

かつてマルケス・アインウルフは、古い戦術書にある概念を教えてくれた……。




「『スプリット/引き裂く』という概念だ。敵が、前後別の方に行きたがっているがゆえに、戦力はずいぶんと弱くなってしまう。その『裂け目』が、第六師団が攻め込むべき場所になるのさ」




―――木々が邪魔しようとも、戦術のコンセプトは揺らがないものだよ。

包囲したのは、敵を心理面と陣形。

どちらの面においても、引き裂くためなのだからね。

メイウェイの望みの通りに、敵は弱体化して『裂け目』を見せている……。




「隠れるのがいきなり上手になった、などという珍事が起きていなければ。敵の右翼は逃げ始めてしまっている。包囲に対処しようとしている勇敢な者たちと、逃げるべきだという消極的な者たちが、不一致な考えのままに南西へと伸びてしまった。こちらの包囲に誘い出されている。おかげで、中央とのあいだが、薄くなっている」




―――戦術の基本は、人口密度のコントロールだからね。

集まれば当然強いし、疎になればもちろん弱いものだよ。

メイウェイは突撃すべきポイントを、見切っている。

立ち並んだ杉のおかげで、敵だって動きにくいのだから反応が鈍く疎である場は……。




「あまりにも美味しい狙い目になる。攻め込むのもいいが……まあ、今は」




―――メイウェイは欲張らないことにした、まだ戦士を使うつもりはない。

ただ素早く騎兵たちを呼び寄せて、中央に集めただけだった。

自分も最前線に出て、敵と仲間に対してのメッセージを送る。

『突撃して敵を破壊し尽くすぞ』、将がそこにいる意味はとても分かりやすい……。




―――敵は、この動きに対処出来なかったんだ。

南西に逃げて伸びるように戦力を動かしていたけれど、彼らは中央に戻れない。

騎兵の動きについて行けるはずもないし、そもそもその意志も命令もなかった。

のろしのせいで北に釘付けにされた連中も、同じく動けなかったよ……。




―――何せ、のろしの数は意味深に増えていたのだから。

ただの脅しであり、実際にはそれ以上の意味は何もなかったけれど。

メイウェイという無敗の戦上手が、『何か仕掛けてきそうな気がする』わけさ。

恐怖と想像力はよく混ざってくれるから、敵はのろしが怖くてしょうがなかった……。




「隊列を組め!歩兵たちよ、足音を一致させながら歩くぞ!」

「イエス・サー・メイウェイ!蹴散らしてやりましょう!」

「亜人種の戦士も、人間族の戦士も……同じ歩みで!」

「帝国軍を憎む感情は、我々にとって最大の絆なんだ!!」




―――音楽も頼った、歌ではないけれど。

力強い一歩が、赤く乾いた地面を踏み鳴らしながら進んでくれる。

それらは融け合うような音だ、メイウェイに統率された軍勢の動きは見事だ。

訓練なしで、そうまで動けたのにもコツというものがあるよ……。




―――動いていない部隊も、実際にはかなりいるんだけれど。

彼らに対しての指示があった、足踏みと槍で地面を叩けというカンタンなものさ。

それらを合わせて、リズムを取らせるようにという指示だからね。

一致した前進はそれらの音に支えられていたし、足音が大きくなるだけでも効果的だ……。




―――恐怖が敵を狂わせているんだから、その恐怖を大きくすると有効なんだよ。

相手に恐怖させる方法なんてものは、子供に聞いても答えを教えてもらえるはず。

そうだよ、大きな音を立てるだけでヒトを怖がらせられる。

暗闇で皿が割れる音が響いたとき、不安を感じない人物はどれだけいるのか……。




―――まして、殺意に燃える戦士たちが一致した動きで迫っている。

亜人種への憎しみだけでは、この恐怖に勝てないだろうね。

まして、無敗のメイウェイが指揮している軍勢だ。

帝国軍はその統率の取れた隊列を見るだけで、勝率を悟っていた……。




「……負け、る。包囲されているんだ。動けもしない……っ」

「こ、こっちは内輪揉めしているような状況なんだぞっ。や、やっていられるか!」

「……戦うべきじゃ、ない」

「さ、下がろう!ここで、死ぬべきじゃないだろう!」




―――敵の多くがその考えに至り、逃げ始めてしまった。

メイウェイの読み通り、以上の結果になっている。

それはメイウェイ自身の名声が、相手に対して作用した結果だ。

メイウェイはまだ知らなかった、第九師団の残党にも西部の帝国兵にも……。




「私は、思っていた以上に、評価してもらっていたらしい。ならば、答えてやるとしようじゃないか。少しばかり、間引かせてもらうぞ」




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