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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百五十三


―――領主に狩猟をさせる趣味が多いのは、地形を把握させるためでもある。

軍事というものを知らない領主はね、戦士から舐められてしまうからだ。

自らの領地ぐらいは、しっかりと把握しておくべきだし。

坂道や丘で獲物を追いかけて駆け回る行いは、絶対にしておいた方がいい……。




―――それをしていない領主では、重たい装備や物資を担いでの行軍が。

いったいどれほど辛いものなのかを、まったく理解出来やしないだろうからね。

机上の戦略だけで物事を把握していては、現実の戦では役に立たないものさ。

経験値の伴わない薄っぺらな考えが現実に勝った瞬間は、ほとんどないのだから……。




―――あったとしても運に過ぎず、その種のギャンブルに兵士がついて回るはずもない。

マルケス・アインウルフが、最強の『行軍能力』を第六師団に与えられた理由。

それは彼が馬で林も森も駆け抜けて、ぬかるんだ農地も丘や斜面の道も走ったからだ。

その種の知識は、最高の部下であるメイウェイも継承している……。




―――メイウェイの命令で動いた少数の兵力は、北に陣取ることに成功した。

帝国軍はこの動きを見過ごしてしまったが、メイウェイにとっては予想通り。

疲れ果てて、物見やぐらも建てられないような集団。

第九師団の残存部隊はともかく、西部部隊の指揮官は下がりたがっている……。




―――敵は基本的に、後ろに注意を割いていたのさ。

戦いが始まれば、第九師団の残存部隊を『盾』にして撤退してしまうかもしれない。

戦上手の者であったなら、この林を防御陣地代わりにして戦うのもありだったが。

指揮権争いしているような状況であり、戦いの哲学さえも異なり過ぎる烏合の衆……。




「……陣形で勝ってやれば、それだけで半数は逃げ去るだろう」




―――少数の部隊だけで、実際の戦闘をやろうとは思っていないよ。

メイウェイが彼らにやらせたのは、のろしを上げさせるだけさ。

夏の空に、その煙がいくつも同時に立ち上がっていくのを見つけたとき。

帝国軍は誤解していたよ、メイウェイの軍の数をね……。




「ほ、包囲されているのか!?」

「無数の騎兵が、いつの間にか回り込んで……!?」

「アインウルフ将軍の、得意戦術じゃないか!!」

「メイウェイだって、得意だろう……ッ」




―――物見やぐらは作っておくべきだ、そうじゃないと誤認してしまうから。

戦場を見渡せる場所に、指揮官はいるべきだ。

いなくても、偵察専門の部隊を配置しておくべきなのに。

ふたつの種類の軍勢が混成状態になったせいで、編成さえも機能していない……。




―――自分たちの脆弱性に対して、帝国兵どものほとんどは気づいてもいないよ。

判断材料が供給されていない状況だからね、だが指揮系統にある士官たちは違った。

混沌に動きを封じられている自分たちの現状を、かなり悲観視している。

ソルジェたちにこっぴどくやられてから、まだ日が経っていないからね……。




―――ネガティブな思考に、陥ってしまっているわけだよ。

ヒトならば、だいたいそうなるさ。

殺されかけた記憶というものを、数週間で克服できる者は極めてまれだ。

そのあたりもメイウェイはくわしい、いまだ合戦での敗北はゼロではあるけれど……。




―――イルカルラで政治的策略に負けた彼は、しばらく死にたい気持ちになっていたから。

アインウルフが近くにいたことで、かなりの安定剤になっていだろう。

もしもアインウルフがいなければ、自殺だってしようとしたかもしれないね。

よく聞くハナシだ、太守なんてほとんど王さまみたいな地位なんだから……。




―――そんな地位から、一軍人なんかに戻ってしまった日にはどんな気持ちになる?

古今東西、その憂き目に遭ってしまった者たちの多くが喉元を自ら切り裂いた。

権力を失うということは、あまりにも悲しくて辛いものだよ。

慰められたとしても、それがかえってみじめさを放つ傷をえぐるだけにもなる……。




―――多くを、マルケス・アインウルフから学べたのはいい関係性だったね。

人生サイアクの日々のなか、同じように『無敵の第六師団を敗北させてしまった男』が。

元・上司として同じ体験の先輩として、そばにいてくれたのだから。

もちろん同じ状況であったところで、けっきょく才能がないと再起はしないけれど……。




―――その点は、『天才』メイウェイなのだから問題はない。

才能にも人脈にも、メイウェイは恵まれた男だった。

貴重な敗北という経験まで得たあげくに、立ち直った彼は。

もしかするとマルケス・アインウルフよりも、実力で上かもしれない男だ……。




「合戦では、無敗のままだ。そんな私と戦うのは、さぞや嫌だろう」




―――敵の心理まで、手に取るように分かっているのだからね。

ボクたち仲間からすると、とてつもなく頼りになるわけだけど。

敵である帝国軍からすれば、悪夢のような存在だった。

『天才』メイウェイの率いる軍勢に、今は『包囲された』のだから……。




―――ああ、メイウェイはさらに追い詰めている。

北の少数部隊のあげたのろしに合わせて、南に向けて主力の半数近くを動かした。

大きく南北に伸びたわけだ、これで『包囲』の陣形は完成している。

最強で無敗の『天才』に、士気と哲学がガタガタな混成部隊が包囲されたのさ……。




―――生存本能が、ちゃんと機能している者は思うだろう。

殺される、逃げるべきだと。

西部系部隊の士官たちは思ったのさ、さっさと引くべきだ。

第九師団残存部隊は不信感で吐きそうになっただろう、『捨て置かれる』かもと……。




「しょ、所属の基地さえ、まだオレたちは決まっていないんだぞ」

「どこに、下がればいいんだ……っ」

「もしも、逃げる状況であれば……西の連中、我々を……」

「盾にして、自分たちだけで逃げるかもしれない―――」




「―――まあ、そう思っているだろう。じつにありふれた懸念であり、歴史でも、私が知る負け戦でも、よく見てきた混乱ではあるよ」




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