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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百五十一


「……動けないなら、それでいい。迷うことが、もはや正しいんだ」

「まあ、そうだな。素直でいいよ。単独で突撃してくるには、タイミングを逸した。オレは矢を構えているし、弓の腕もいい。出鼻を、確実にくじいてやれるぜ。そうすれば、後続もなく、狩りやすくなるだけ。オレは……殺して、帝国軍と決別したい」

「『蛮族連合』に、寝返るのか」

「なんて言葉だ。寝返る?……放り捨てたのは、オレじゃない。そっちだろ」




「……戦は、主語が大きくなりすぎてしまうな」

「そうだな。お前が、オレたちを裏切ったわけじゃない。お前が、悪いわけでもないだろう。だが、『そっち』なんだ。お前の所属する軍勢が、オレから家族じみた関係を……最後の最後まで、残っていてくれていた仲間を……死なせやがった」

「……それでも、裏切りは、裏切りだ」

「殺され尽くすまで、お仕えするってのも騎士道かな。そうかもしれないが、オレは、バハルさまとセリーヌさまの声が聞こえるんだ。ライザ・ソナーズ姫さまの声も。きっと、三人は、オレを……自由にしてくれると思う。自分の脚で、無限の困難に立ち向かうために歩けと。居場所は、もう。変わっちまったんだ。永遠に」




―――帝国兵は黙ってしまった、議論のための言葉はもう尽き果てたと悟っている。

個人では、どうしようもない大きさの運命というものがあった。

時代ってものに引きずりまわされると、どうにもこうにも人はちっぽけだ。

悲しい郷愁を乗り越えて、古巣から飛び立つ少年がいた……。




―――もっと残酷さが必要だと、アーベルは理解しているからね。

敵の潜む並んだ杉をにらみつけながら、すぐとなりで沈黙する帝国兵を狙う。

それが演技だと分かるためには、あまりにも距離が離れていた。

残酷で一方的な処刑のようにも見える、杉の向こう側から誰かが義憤に叫ぶ……。




「亜人種に、あ、亜人種どころか!!ハーフ・エルフに殺させるのか!!」

「取り戻せ!!仲間だ、戦友なんだぞ!!」

「彼は仲間のために、『狭間』へと挑んだ!!」

「ま、待て!!勝手な動きは許されないぞ!!」




「勝手な動きとは、何だ!!階級だって、同じだろ!!」

「第九師団は、我々に合流した身だ!!」

「だから、どうしたと言うんだ!!」

「命令を聞けと、言っているんだよ!!」




「ハーフ・エルフの耳ってのは、便利なんだぜ。よく聞こえる。エルフよりは、弱いかもしれないが。耳が、いいんだよ」

「……オレにさえ、聞こえる。ケンカしている場合じゃない」

「そうだな。『そっち』は、オレの策にはまりつつある」

「オレを、殺せよ。そいつも、騎士道だろ」




「……騎士道は継ぐ。だが、兵士の道もあるんだ。復讐者の道も。色々とあり過ぎて、迷っちまって良くねえが……敵は、殺すべきだ」

「なら、オレを殺せよ、クソ『狭間』野郎」

「迫力の失せちまった悪口なんかじゃ、心に刺さらねえよ。本気の怒りと憎悪ばかり、オレは浴びて来たんだぜ。ガキのころから」

「殺せ!!じゃないと、あいつらが……っ」




「彼を助けに行くぞ!!第九師団の誇りは、しょせん、西の雑魚どもには分からん!!」

「ばかに、しやがって……ッ」

「勇気がないんだ!!そんな態度だから、十大師団に入れなかった!!惜しむような、命じゃないってことも、分からないんだからな!!」

「……ちくしょうめ。エリートぶりやがって……お前らだって、とっくに負け犬なんだ!!」




―――騎兵が飛び出していたよ、第九師団の騎兵どもが。

その影は四つもある、なかなかの勇気と意志の強さだった。

ソルジェなら大いに気に入るだろうし、ガルフは罵るだろう。

アーベルはどちらでもない、今は感情を封じて技巧に集中した……。




「射るなら、オレを殺せ!!あいつらを、狙うんじゃない!!」

「狙うさ。こいつは、決別のために必要な残酷さだ。オレは、『自由同盟』の兵士として雇われた。自分で決めた。拾ってくれた両親も、仕えるべきやさしいお姫さまも……そうさ。アリーチェの赤い竜のために、戦っていたなら……オレだってがんばるよ。義理の姉上殿」

「やめろ!!撃つな!!」

「正面から来るなら、オレひとりで相手してやる!!手を出すなよ、メイウェイ!!」




―――メイウェイは部隊を連携させるつもりだった、当然だろう。

アーベルを守るための動きを、いくらでもしてやれるんだ。

敵が臆病だし中途半端なせいで、こちらはあまりにも強すぎるから。

だが、アーベルの言葉を聞いてやれるほどには軍事的な天才なんだよ……。




―――敵とアーベルのあいだにある、絶対的な力の差をちゃんと認識している。

アーベルは矢を放ち、一人目の腹を矢で射抜いた。

二人目は馬上で身をたくみに捻ったが、右肩に矢が刺さる。

避けなければ致命傷になっていたが、この傷でろくに戦えなくなっていたよ……。




「残り、ふたりか。剣と、魔術で……仕留めてやる」

「やめろ!!頼むから、やめろ!!」

「見たくないなら、見るな!!祈りたいなら、祈ればいい!!だが、オレは、止まらん!!」

「ふざけるな、ハーフ・エルフの、裏切り者め!!」




―――戦場で魔術を使うなんて、あまりやるべきじゃない。

魔力を使い果たせば、それだけで倒れてしまうからね。

だが、小規模な戦闘ならば問題は少なかった。

『雷』の魔術をアーベルは放つ、雷電の矢が空中に紫色の軌道描いて獲物に当たる……。




「ぐふ、あああ!?」

「落馬させられなかったぞ、オレは!!」

「やめろ!!こいつは、強い!!」

「助けてやるぞ!!そこで、待っていろ―――」




―――ハーフ・エルフの身体能力は、時おりエルフの水準を超えるときがあった。

アーベルのそれも素晴らしいもので、馬上から槍を振り下ろしてくる敵に怯みもしない。

槍の強打をかいくぐりながら、すれ違いざまに敵の手首を斬りつけていた。

素晴らしい動きであり、容赦はまったくない……。




―――手首がついたままの槍が、地面へと転がっていく。

悲鳴を上げたものの、第九師団の残存兵は気骨を示した。

左腕を伸ばして、仲間を救い上げようと試みる。

だが、その伸ばした腕は拒絶されてしまった……。




「戻れ!!オレは、助けなくていい!!ムリだからだ!!」

「く、そ……ッ」

「オレを想うなら、そうしろ!!」

「わ、分かった!!すまない!!」




―――斬られた腕から血をこぼしながら、敵はアーベルをにらんでいた。

恨みは深いだろうし、復讐する権利は敵にだってあるけれど。

利き手を失った以上は、その復讐が成し遂げられる可能性はゼロに近い。

だから敵は怒鳴りつけるように、叫んでいた……。




「ハーフ・エルフめ!!呪われた種族め!!」

「うるせえよ。命は助けてやるってのに」

「……そうだ。あいつは戻せ。オレは、殺してもかまわん」

「殺すだと?馬を、呼び寄せろ。やれるだろ?……やれないなら、あいつを殺すぞ」




「やるから。馬を呼び寄せるから、殺すな。あいつは、あいつらはいいヤツだったろ!!」

「だから、ひとりは残したんだ。やれ」




―――『雷』の魔力を手に集めて脅すと、素直に口笛を吹いた。

主を殺されたばかりの馬たちが、アーベルたちの元へと駆け寄ってくる。

馬は、略奪すべき主要な資産だからね。

アーベルが馬を狙わなかったのは、戦力として確保するためだ……。




「よく訓練された馬は、こっちにも必要だ。アインウルフの部下だった男は、攻撃的らしいから。馬がいくらあっても、ぜんぶ使いつぶしちまうかもしれない」




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