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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百四十九


―――森を守るつもりの帝国兵どもが、わらわらと木々のあいだに姿を見せる。

アーベルは目を細めて、木陰に身を隠す連中の数をかぞえていった。

自分の仇敵かまでは分からないが、問題はない。

どうせ連中は逃げられないのだから、すぐに殺せるだろう……。




―――ひとりの帝国兵がアーベルに向けて、長弓を放った。

アーベルは矢を放つことで、空中でそれを打ち落としてみせる。

技巧の強さを見せつけてやれば、敵は怯えてくれるはずだから。

杉の影に身を潜めようとする敵に、技巧を凝らした矢を放つ……。




―――海からの風に乗ったそれは、見事に軌道を曲げていた。

杉の幹をかすめるように飛んで、その敵の身に命中する。

毒は塗っていないが、十分な手傷にはなったと確信を抱いた。

敵兵がひとり負傷のせいで、戦列からいなくなるだろう……。




「負傷者を前線で戦わせるなよ!!毒は使ってはいないが、ちゃんと、ケガを治療させるんだ!!」

「……ハーフ・エルフごときが、命令しようとするな!!敵だろ!!」

「……ああ。敵だよ」

「下がらせろ!!矢を抜いて、縫い合わせるんだ!!」




「……敵か。敵だよな。ちくしょうめ」




―――帝国軍の一員として、長く戦ってきたわけだから。

まだ違和感は抜けない、所属している軍隊を変えるなんてマネはもちろん困難だった。

覚悟の次第ではなくて、そもそも慣れるための時間は必要だ。

アーベル自身もそれを理解しつつ、夏の太陽を見上げる……。




「……何人か、帝国兵を殺さねえと。使い物にならねえかもしれん。誰か、オレに、矢筒を寄越してくれ。遠距離から撃ちまくって、何人か殺すとしよう」

「分かった。オレのを使えばいい」

「ありがとう。オレが……あっち側だったの、知ってる?」

「聞いている。だが、何もかもが変わってしまう世の中じゃないか」




「……そうだな。ありがとう。敵を、もう少しつついて、引きずり出せれば最高だな」

「ハーフ・エルフなら、気をつけろよ。帝国兵には、あの赤い竜の夢は届いていないかもしれない」

「アリーチェか。いや、きっと……届いているかも。じゃあ、ちょっとだけ前に出る。もしものときは」

「援護してやるから、安心してくれ」




―――新しい戦友は頼りになりそうだった、日に焼けた傷だらけの肌は練度を感じさせる。

アーベルよりも長く戦い抜いた男かもしれない、どんな人生を歩んだか気になった。

飯をいっしょに食べるべきだと、アーベルは思う。

ちょっとずつでも慣れていく、自分自身を内臓のレベルから変えてしまいたいのさ……。




「……セリーヌさまの料理は、美味しかったな。オレだって、料理も上手だけど。食べたいよ……セリーヌさま……母さんって、呼んでみたかったかもしれん」




―――馬を走らせる、敵はアーベルを浅はかだと考えたらしい。

矢を放って来るが、距離届が足りない。

届きそうな矢もあったものの、それはすべて角度が間違っていた。

練度の低さを、アーベルは感じ取る……。




「ひいき目って、あるもんだな。帝国軍側にいたときは、こんなに下手くそな弓兵ばかりだとは思わなかったぜ」




―――馬の首に語りかける、よく訓練された馬の耳はアーベルの声を聞いてくれた。

指示通りに動いてくれるし、矢も怒声も恐れない。

弓を構えると、『彼女』は安定した走りをしてくれる。

おかげで、帝国軍の弓兵に矢を当てられた……。




―――それは致命傷になったはずだ、首の付け根に突き刺さったからだよ。

優れた医者がいて、十二分な薬品と安心して寝ていられるベッドがあれば。

助かったかもしれないけれど、その帝国兵にそれほどの幸運はなかった。

どの要素もないかもしれない、あったとしてもベッドだろうか……。




―――引きずられていく帝国兵を見て、新しい怒りの声を聞く。

「ハーフ・エルフごときに、殺されるんじゃない!!」。

「死ぬなよ。死ぬんじゃない。故郷に戻るんだろ!!」。

アーベルだって大勢殺してきたけれど、帝国兵を殺すのには慣れていない……。




「殺す。殺すだけだ。ちくしょう。もっと、淡々とやれないとな。馬にも、負担をかけてしまう。迷うな。迷うな。オレは……『自由同盟』の兵士だ!!」




―――矢を放つ、矢を放つ。

帝国兵どもに当たり、また当たった。

アーベルは自分の甘さを思い知る、どちらも致命傷ではない。

右腕と左脚に当たっただけであり、狙うべき傷ではなかった……。




「もっと、もっと殺さないと……ッ」

「それ以上は、進んじゃいけない!!ハーフ・エルフ、進み過ぎているぞ!!」

「……知っている。これ以上は……踏み込まない。だが……」

「狙わているぞ、さっさと戻ってくれ!!」




「もう一人、殺してから戻る!!」




―――矢が飛んできたが、軌道は読み切っていた。

避けることもせず、狙いを深めていく。

十分な狙いをつけて、放った矢が帝国兵の命を奪った。

今度も首の付け根に当たった、この距離なら絶対にやれるはずだが……。




「もっと、殺さないとダメだ。くそ。悲しい気持ちになんて、なるんじゃねえよ、オレ!!」




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