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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百四十七


―――アーベルは『敵』を引き付けようとした、何人かが迫ってきたらしい。

逃亡の強行日程を経ていなければ、彼らは勝利しただろう。

アーベルもハーフ・エルフらしく、魔術と剣術の冴えを有効に使えただろうに。

敵地となった『プレイレス』を、東に向かって逃げ続けるのは心身をすり減らす……。




―――疲れた動きで振り回す剣は、普段の半分の速さだっただろうし。

魔術を放つために使える魔力も、似たようなものだ。

群れを成す敵を打ち負かすほどの力は出ずに、アーベルは追い詰められる。

迷いもあっただろう、『未来』が見えなくなっていただろうから……。




「……『囮』として、弱さがあった。今なら、分かる。オレは……あのとき、迷っていたんだ。もっと、憎まれるべきだった」

「仲間を守ろうとしているのが、伝わってしまったんだろう。それを敬意で評価してくれるか、あるいは嘲笑うかは、敵の質にもよる。おそらく、後者だった」

「そうだ。あいつらは、オレの行動を見抜いてしまったんだ。オレは、脅威だと思われなかった。殺すつもりより、仲間を守ろうとする甘い男だと、見抜かれた」

「騎士道としては正しい。ただし、戦場の価値観は、あまりにも気まぐれなのだ」




「……バハルさまほど、カラダがでかければ。セリーヌさまほど、強い魔術で、敵を丸ごと焼き尽くせれば……オレは、みんなを助けられた。助ける、つもりだったのに……生き残って…………それは、つまり…………」

「孤立して生き残れた理由は、ひとつだ。君らは、本当に尊敬すべき部隊だったようだね」

「守るつもりが、ま、守られていた……ッ」

「君は若い。若者を死なせたいとは、誰しもが思わない。騎士道が生きている部隊であれば、なおのことね」




「……算数が、合わねえよ。オレが、オレを……『囮』にして、見捨ててくれたら。もっと、みんな……生き残れただろうに」

「そうまでして生き残る道を、騎士道精神は許さなかった。彼らも、君と同じ。守ろうとしたかった」

「うるせえよ。間違っているんだ。オレは……い、生き残ったところで、未来はなかったんだから。て、帝国にも合流できない。それどころか、み、みんなを裏切るような真似を……復讐のために、『自由同盟』に寝返ってしまったんだぞ」

「君たちが仕えていたのは、帝国じゃない。バハル殿の意志に仕えていた」




「……バハルさまは、帝国に仕えていたんだ。じゃあ、オレたちも……オレも……」

「帝国軍に君の居場所はなかった。そんなことは、私以上に、君自身以上に、君の仲間が分かっていたんだよ」

「……みんなは、間違えた」

「間違ってはいない。命を正しく使ったと、私は信じる」




「うるせえよ。そんな、理解が……何に……っ。ちくしょう。オレは、もっと……もっと、強くなりてえよ……っ」

「なれるさ。教訓を得た。罪悪感も得た。強くなれる。兵士は、無限の困難に鍛えられるものだよ」

「……戦術を、教えろ。オレに必要なのは、そんな感情的な慰めの言葉じゃない」

「一途さは、すでに使えている。必要なのは、柔軟性だ」




「柔軟性ってのは、どういう……」

「真逆の方法論も、ちゃんと使いこなせるという意味だ。英雄的な力は、君にはまだない」

「……弱いのは、分かっている」

「より強くなる前に、知恵よりも器用さを使うべきだ。敵の邪悪さを、冷静になった今では見えているし、仲間の愛情も理解できるだろう。それを、より早く使うには、客観視するのが大切だ」




「自分の、主観を捨てる?」

「本をしっかりと読まされた者の発想をしてくれる。うらやましいよ。それは、君の大きな武器となる。とっくの昔に、知恵の種はまかれているんだ。それを、より使いこなすために必要なのは、深呼吸だ」

「バカに、しているのか?」

「落ちつくだけでいい。死にそうなとき、仲間が殺されかけているときでも、ちゃんと呼吸を整えろ。『冷静になれ』と自分に言い聞かせるだけで、賢さはいくらか動き始める」




「そんなに、単純なものかよ」

「戦場は日常生活よりは、ずっと、はるかに、単純だ。その部品である兵士も、兵士の部品である感情だってそうだ。ちゃんと、コツひとつで御せるから安心したまえ。自意識過剰にならないでいい。冷静になれと自分に命じるだけで、十分に使えるぐらいには、君は強い」

「……やって、みる」

「そうだ。その素直さは伸びる」




「それで。オレが、あの夜……仲間を救う方法は、あったと思うか?」

「ないね。君らの方が、格上だったから。勝てなかったのは、疲弊していたせいだ。疲れ果てた者は、戦場では負ける。それだけだ。戦術も何もない」

「……そう、だろうな。だが、アンタが、あの場にいたら?」

「敵を捕らえ、人質にしただろう」




「人質に、取る?」

「情報収集をしたいんだよ。誰が、襲撃者のリーダーなのかを、指の骨でも折りながら訊けばいい」

「……切り落として、やってもいい」

「残酷さは必要じゃない。必要なのは、洞察力の方だ。襲撃者の靴を見たか?」




「……靴は、身分が出る」

「そうだ。襲撃のために軍服を脱ぐかもしれない。階級だって、隠そうとするだろう。だが、靴まで脱ぎ変えるほどの器用さはないものだ。むしろ、自分たちよりも強い相手に襲撃をかけるのであれば」

「……慣れた靴で、移動しようとする。夜襲だ。足場は、見えにくいのなら、当然に」

「靴は、踏みつけてもいい。値段は、すぐに分かる」




「安物じゃないブーツを、履いているヤツか」

「夜目は利くだろう。君なら、見抜けたはずだ」

「かも、しれない」

「部隊の指揮官を見抜けば、そいつだけを襲う。襲撃を成功させるには、強い意志がいるものだ。それを担うのは、いついかなる場合も、現場の指揮官。そいつを殺せれば、少しは動きが鈍る。撤退させられたかもしれない。むろん、これは可能性に過ぎん」




「だが、あんたなら、何人か、救えたかも……ちくしょうめ」




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