第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その六百四十四
「第六師団の戦術を再現するには、練度が必要ではあるが……」
「さすがに、そこまでの練度はねえだろ」
「イルカルラの防衛に、私が手塩にかけた部隊の大半は割かれているからね」
「取りに行けたら、楽だろうによ」
「そうもいかない。警戒されているのだ」
「仲が悪い軍隊ってのは、絶対に弱いもんだろ」
「幸いなことに、今度の敵も練度は低い。戦術の力量が、そのまま活かせる相手というわけだ」
「どうやって、攻略していくんだよ?」
「敵の出方にも応じるが、西部は山と森が多い。隘路の多い地形である」
「せまい道ってことだな。大戦力は、運用できないぞ」
「基本的な戦術としては、出口で待ちかまえる。すぐさま包囲の完成だ」
「……やられたことがある。そのときは……」
「生き残ったのならば、戦力が勝っていたときだ」
「……そうだった。バハルさまが、突撃を行われたんだ」
「少数精鋭で敵の包囲を崩せれば、戦況は楽になる。バハル殿は、敵陣の翼端を貫いたか、あるいは……聞き及んだ性格を考慮すれば、中央突破の方がありえそうだが」
「中央突破だったよ。敵陣に、大穴を開けてしまった」
「包囲は強い。事実上、最強の戦術ではあるが……戦力で負けていれば、貫かれもする」
「……バハルさまがいたあのときの軍と、アンタだったらどう戦う?」
「突撃には思想が反映されるものだ。性格は、すぐに見抜けたと思う」
「思想ってのが、見えるもんかね」
「慣れれば、見えてくるよ。バハル殿ならどう動くか。そう考えながら動けば、君もそれを真似できるだろう」
「かも、しれない。よく見ていたから」
「私が隘路の先に展開した包囲の陣で、彼の中央への突撃に相対したら、競わずに中央を下げただろう。君らの陣形を、より前後に長く伸ばしてみせた。隘路からは敵が一気に飛び出せない。そのままバハル殿をおびき寄せれば、長く伸びた薄い陣になる。それを、左右からはさんで倒しにかかった。戦術的には、それで勝る。バハル殿の背後を守る兵の強さ次第ではあるがね」
「……そこは、強かったぞ。セリーヌさまや、オレがいた」
「だと思うよ。しかし、だ。君らが負ければ、バハル殿は四方を包囲されている。第六師団の騎兵相手にそうなったとき、生き延びれた者はいない」
「……信頼できる部下は、必要ってわけだ」
「そうだ。背中を気にしていては、突撃などやれん。君らの部隊は、バハル殿への忠誠心が強かったのだろう。いい部隊だと、しっかりと伝わってくるよ」
「そういうのもふくめて、思想が見えるってことか」
「突撃は、まさに思想だ。頻度や形態、どれだけの力をそれに込めるのか、あるいは込められるのか。多くを物語る。余裕があれば、相手にそれをさせたくもあるほどに」
「……隘路での戦術は、他にどんなものがあるんだ?」
「迂回路を見つけることだ。少数でもいい。崖でも山でも、弓兵を派遣できれば、そこに配置する。第六師団が全盛期のときは、エルフの別動隊がその役目を務めたものだ」
「マジか。第六師団に、エルフがいたのか?」
「ファリス王国時代は、基本的に亜人種の戦士が多く参加していたから。騎士や貴族の身分を与えられることは稀であったが、ファリス王国から帝国に巨大化していく黎明期を支えたのは、亜人種だ。第一師団のガンジスも、有名な亜人種の戦士だ」
「最強の戦士、ガンジスか」
「その弟が、猟兵にいるよ」
「……マジか。豪華すぎるだろ」
「アーベル。君は、山を駆けられるか?」
「得意だぜ。ハーフ・エルフってのは、エルフなみに身軽だし、体力はエルフ以上だ。弓も、やれる」
「君を運用するときには、そういった作戦を渡すかもしれん。覚悟はしておけ」
「しているよ。オレだって、それなりに場数ってのをこなしてはいるんだ。舐めるなよ。ガキでも、覚悟なんてとっくに済ませている」
「分かった。その覚悟があれば、こちらも安心して運用できるよ」
「運用しろ。オレだって、仲間を殺した敵を倒してやりたいんだ」
「命令違反は、しないように。感情を殺して、客観的に評価していけ。それがやれれば、基礎的な戦闘能力で上質な君が、戦場で命を落とすリスクは大きく減る」
「……冷静で、いられる相手には、そうする」
「静かに燃える復讐心というものも、覚えておくといい。烈火のように燃える感情ではなく、腹の奥底で青白く、尽きることなく燃えている炎。そういう感情を目指せば、いくらかコントロールは利くものだ」
「やってみる。命令ならな」
「もちろん。『お願い』なんて、上官が兵士にするはずもない。感情に依存するな。使いこなしていけば、それだけで戦の強さは大きく向上するのだから」
「なかなか、難しそうではある」
「そして。これも覚えておけ。エルフの弓兵に狙撃させるとき、第六師団は必ず強烈な突撃を行う。君の援護は、私の突撃のためにある。君らを突撃部隊が見捨てることはない。君らが孤立するよりも先に、必ず敵陣へと突撃するのだ。常に、連携する。それが、第六師団の戦術の根幹教義だよ」




