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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百四十二


「手紙なんかで、そう動いてくれるものか?アンタは貴族でもないし、帝国軍の軍籍だって、もうないんだぞ?」

「それでも実績があるからね。無視はできないよ」

「……まあ、そりゃ、そうか」

「マルケス・アインウルフ将軍も、その種の『予備工作』を理解しておられた」




「そういう小細工をするようなイメージは、持っちゃいないんだが?」

「理解しておられただけだ。使っていたわけじゃない」

「……つまり、理解して『使われないようにしていた』と」

「そうだ。『内政』で、つまりは帝国内や第六師団内での結束を高めつつ、敵からの『外交』による妨害を受けないように心がけておられた」




「具体的には、どうやるんだ?」

「最前線で、指揮を執られたよ」

「そいつは、リスクがある」

「もちろん。だが、すべてのリスクに、リターンはつきものだ」




―――最前線に指揮官が出向くなんて、一種の間違いではある。

少なくない軍事の専門家が、「やめておけ」と助言してくれるものの。

効能というものは、確かにありはするんだよね。

確実な『統制』が行えるよ、マルケス・アインウルフはそれを重んじたようだ……。




「最前線に立つことで、組織を律して他者からの介入も監視する……」

「反乱を防いで、敵からの介入も防いだ?」

「そのとおり。英雄的な王族や指揮官には、最前線でそれを成し遂げてきた者も多い」

「マルケス・アインウルフとか、ソルジェ・ストラウス?」




「……そうだ。似ているな。今となっては」

「どっか、嫉妬があるのか?」

「アーベル。軍人に対して、その種の問い方は命取りになりかねない」

「悪かったよ。『狭間』なもんでね、意地悪に育っちまった」




―――誰にでも、コンプレックスはあった。

とくに、どん底にいるような気持ちであるときは。

イルカルラの太守の座から、引きずり落とされた痛みをメイウェイは忘れていない。

ソルジェやアインウルフに助けられ、イルカルラを生き延びた事実も……。




「私にだって、やれないことは多々ある。竜もなければ、あの『ユニコーン』も私にはないのだ。剣術や魔術の腕も、ストラウス卿には及びはしない。それに……」

「それに、何だ?」

「……血筋に、頼れないんだよ。ただの一般人の家に生まれただけに過ぎないから」

「まあ、それは。確かに」




「最大の『外交』が何か?決まっているよ、血筋だ。王族同士の婚姻など、『外交』の力として最たるものだ。それだけで大国を成した者もいる。戦よりも、ずっと大きな力とも言える」

「……マルケス・アインウルフは、帝国貴族で……社交界でモテモテだったな」

「貴族社会に強い。敵となった今でさえ、将軍の名誉はどこか保たれている」

「そいつが、『外交』の力……貴族社会や、王族の血の力か」




「私にはない。『外交』において、最高の力を使えはしないが。下士官には、私の出世物語は有名だ。帝国貴族からは、嫌われるがね」

「……西部にいる帝国兵の大半は、野良犬みたいな落ちこぼればかり。あいつらは、下から這い上がったアンタの物語に、共感しているのか?」

「嫌われては、いないだろう。警戒されてはいるかもしれないが。だからこそ、手紙が有効になる」

「つまり、もう……送っているのか?」




「『届かなくても構わない手紙』だからね。いくつものルートで、送っているよ。昨夜のうちに」

「……『毒入りのエサ』か。何人か、破滅させちまうかもな」

「敵の破滅は、喜ばしい。これから戦う敵は、どんどん内部崩壊して欲しいところだ」

「もしかして。アンタってさ、マルケス・アインウルフの、第六師団の『裏側』担当だった?」




「私が出世したのは、将軍のとなりで最強の騎兵だったからさ」

「そうだろうな。腹黒いヤツは、アインウルフ将軍には嫌われる。アンタは、もっとマトモな男だったから、後継者あつかいされた」

「マイク・クーガーよりは、私は上官から分かりやすく愛されていたと思うよ」

「鬱屈した気配は、アンタにはないな。貧乏少佐には、たっぷりだった」




「私と少佐は、どこか似てもいる。取り上げてくれた父親のような存在を、じっと見つめていたんだ」

「ファザコンっぽい……なんて、意地悪は言わないでやろう」

「そうだろうな。君にも、自覚はあるだろうから」

「……義理の親子関係って、複雑なんだぜ。当事者以外には、絶対に分からない」




「だろうね。だから、言わないでおこう。指摘してやりたい点は、いろいろとありはするのだが」

「今度にしろ。アンタのハナシだ」

「敵の結束を、割りにかかっている。すでに、壊れかけているだろうから、私の手紙で圧をかければ、何人か寝返りが生まれるかもしれない」

「合流したいからではなく、『せざるをえないから』」




「言っただろ。仲が悪くても構わないと。戦場に、敵の敵として出向いてくれれば、それで問題はない。あとは、その不安定な状況を、支えるべき者がいる」

「アンタが、マルケス・アインウルフみたいに『最前線』で、色々と差配するってわけだ」

「……その通り。君にも、期待している」

「何を?オレは、ただの一兵士だぜ」




「忠誠心を、期待している」

「裏切りはしない。だが……」

「……私はな、つねにアインウルフ将軍の背後や側面を守っていた。憧れたものだ。いつか……ああなりたいと。分かるだろう?」

「……ちょっとは、な。オレだって、バハルさまのとなりにいたんだ」




「アーベル、素直に告白しよう。私は、この戦で、地位を得たい。軍人として返り咲きたいんだ」

「……ああ、だろうな」

「だから。頼みたい。かつての私が、将軍を支えたように。私のとなりにいろ。裏切らない優秀な一兵士でいい。それが欲しいんだ」

「……裏切らない。昔のアンタには、ならねえが。裏切らねえから、思い切り暴れればいい」




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