第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その六百四十一
「『内政』に、『外交』か」
「それらが戦術も戦略も、駆逐してしまう戦は歴史的に数多くある」
「だろうな。名将たちが、敗れる理由になりそうだ」
「アーベル、君は本当にいい教育を受けているよ」
「兵士としての教育だ。マトモな教育では、ないかもしれん」
「乱世では、それらが必要となる。おかげで、私の取りたがる戦術や戦略を理解しやすくなるぞ」
「……アンタは、『内政』や『外交』も使いたいと?」
「かつては『内政』まで、使いこなせそうだったからな」
「謙虚かつ正しい認識ってものかね、『だった』をつけるあたり」
「イルカルラをそれなりに安定させていたんだ。亜人種との調和だって、やれた」
「だけど、失敗しちまったから、太守じゃなくなったんだろ」
「『外交』で負けた。帝国本国からの、敵対勢力にね」
―――敗北や失敗は、戦士に強烈な教訓を与えてくれるものだった。
メイウェイは『外交』という力までは、使い切れない。
イルカルラだけならば彼は統治できたろうけれど、帝国本国の介入には弱かった。
マルケス・アインウルフがいれば、それらの外力も跳ねのけただろうけれど……。
「教訓さ。『外交』の力が加わったとき、私は敗北する。軍人として、戦略や戦術だけの領域で戦うのであれば、負けはしないのに」
「大した自信だが、それだけの実績はあるわけか」
「太守の座まで、軍事的な才能だけでなってしまった。歴史上、皆無とは言わない。乱世にはよく出現するだろうが、天才と呼ばれている者たちがそれにあたる」
「自分で言うかよ、天才だと」
「分かりやすいから、そう言ったまでだ。私や、マイク・クーガーあたりは戦略と戦術で負けなかった」
「マイク・クーガーの敗因も、アンタと似ているって?」
「ああ。彼は、第九師団の四人の英傑たちと、けっして協力関係にあったわけじゃないからね。仲が良ければ、マイク・クーガーは負けなかったかもしれん。竜という、規格外の戦術にも対応できたかもしれない」
「……全員で、仲良くやれてたわけじゃないな」
「グラム・シェアは『内政』をあやつっていた。『あえて戦力を分散させて衝突を起こさないように』していたんだ。マイク・クーガーに力を与えすぎるのも、怖がっていたのかも」
「うちの姫さまと、衝突したかもしれん。皇太子殿下も、姫さまは確保しつつあったから」
「皇太子レヴェータや、君らの姫さまが不在であれば……グラム・シェアは、マイク・クーガーを後継者指名したかもしれない」
「あんたとマルケス・アインウルフ将軍と同じように、マイク・クーガーはグラム・シェアはから愛されていたと?」
「愛されているというか、戦力や地位の一部を相続させてもらうほどには……まあ、愛されていたかもな。有能さは、軍事的組織内では愛されるものだ」
「で。今回は、どこの何が『内政』で、どこの何が『外交』なんだ?」
「『内政』は、君もふくめて、私が指揮する軍勢だ。なかなか、まとまって来ているという自負はあるよ。ストラウス卿も、レイ・ロッドマン大尉もそうだ。同じ方向を見ているし、食事を取る度に、仲良くなっている」
「……反乱分子は、オレぐらいか」
「だとすれば、至極平和だ。君は、反乱などしないから」
「『外交』ってのは、どこの何だよ?」
「ようは敵からさえ、どれだけの人員を引き出して味方にするか、という力だ。イルカルラでは、私は若い兵士たちを敵に奪われた。旧友たちと、亜人種の民衆を重んじていたから。若い補充兵に、気配りが足りなかった」
「敵というのは、つまり……」
「西部の帝国軍から、どれだけ『自由同盟』に引き出せるか、という考えも大切だ」
「そんなカンタンに、ほいほい亜人種や『狭間』と仲良くなろうとするものかよ」
「アーベル。そこは、勘違いだ」
「はあ?アタマ、お花畑なのか?仲良くなれるはずないだろ―――」
「―――仲良くしなくても、かまわない。こちらの駒として使ってやればいいだろう。そうすれば、実質的に我々の戦力だ」
「……キレキレじゃねーかよ。メイウェイ」
「あまり善良な考え方ではないがね。しかし、有効だ。結束が弱く、身の丈に合わない野心を抱きすぎな西部の帝国軍人たちを、仲違いさせるべきだろ」
「どうやるって、言うんだ?」
「手紙を送るのさ。それだけでも、十分に、『外交』をやれる」




