第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その六百三十九
―――プレイガストの手紙は、全力と全霊をもってメイウェイのもとへと向かった。
呪術めいた束縛もあったからか、それとも価値を信じられたのか。
エルフの船長から港を占拠していた戦士たちに渡り、そこから早馬が探される。
最速の陸上輸送手段となれば、当然ながら『ストラウス商会』の出番だった……。
―――各地に『ストラウス商会』は根を張っているからね、伝令の役目だってする。
『ペイルカ』に向けて、ユニコーンは強烈な速さで駆け抜けていき。
すでに西部を攻撃するため、『ペイルカ』を出発していたメイウェイの軍を見つけた。
メイウェイは、その手紙の信ぴょう性にいくらか考察を使い始める……。
―――どこか罠臭くもあったからね、普通は警戒すべきシロモノに違いない。
だが、彼もまた軍事的な天才であって。
異常なまでに勘も働いた、その手紙を信じることにしたのさ。
メイウェイのそばにいるアーベルは、ずい分と驚いていた……。
「マジかよ。そんな田舎漁師からの手紙なんて、信じられるのか?」
「普通は、信じない」
「そうだろ。普通じゃなくても、信じない方がいいぞ。いくらアンタが天才軍人でも、間違うときはある」
「もちろん、100%で信じているわけじゃないよ」
「アンタは、功を焦るような立場じゃないぜ」
「ああ。ベテランだからね。それなりの実績もある。しかし、満足しているわけじゃない」
「……だろうな。隠居したがる古兵も、数多く見てきたもんだし、アンタはそうなれる権利もあるはずだ。でも、戦場にこだわる」
「太守をやったせいだろうかね。あるいは、戦場のある独特の気配を、私も好んでしまうのか」
「どっちもだろう。マルケス・アインウルフだって、戦場に戻った。親分に似るものさ」
「子分は、そうだ。君も、おそらく長く戦場にいるだろうよ」
「オレは、アンタ子分じゃないぞ」
「弟子でもないが、部下だ。私の影響を、どうあれ受け継いでしまうさ」
「……呪術師からの情報を、鵜呑みにするって?オレの場合では、ありえない」
「ありえるさ。自分の思い描いていた理想的な戦術と、情報が一致したときは」
「そんな上手いハナシがあるとすれば、敵に利用されているときだ」
「半分はね。だが、半分はそうじゃない」
「やめとけ。ギャンブルにつき合わされて犬死にするのは、ごめんだぞ」
「全戦力を投入するわけじゃない。試すに値する余剰の戦力だってあるからね」
「そんなヤツ、どこにいるんだ…………ああ」
「海を見たな。賢いじゃないか。正解だ」
「またマルケス・アインウルフの子分かよ。仲いいんだな」
「人脈は大切だ。自力以上の力となって、助けてくれるものだから。アーベル。君も、上手に作っておきたまえよ」
「オレは、ムリだろう」
「『狭間』だからといって、腐るな。そういう時代を、終わらせるための戦いをしているんだからな」
「……オレのことなんて、どうでもいい。今は、戦のハナシをしようぜ。レイ・ロッドマンとつるむんだろう?」
「そうだ。彼からも連絡があった。連動してくれているようだ」
「海と地上で、西を攻めるか」
「空からも。ソルジェ・ストラウスたち猟兵も動く」
「……東で暴れるだけじゃなく、西にまで介入か」
「帝国の中心に攻め込むためには、背後の憂いを除去したい。当然だろう」
「普通じゃないね。機動力が、とんでもない。角の生えた馬もだが……竜も」
「その力が、大陸で『最強クラスなだけ』の強大な戦士を、神がかった将軍にもしている」
「知略では、自分の方が『上』だと言いたそうだな」
「男の嫉妬だとは思わないでくれ。現状では、私の方がまだ将軍としては上手だろうよ」
「……現状では、だって?」
「ヒトは成長するものだ。若い頃は肉体が。大人になれば背は伸びなくなるが、賢さが大きくなっていく。戦を指揮すれば、多くを学ぶ。若い将軍は、とくに伸びるものだ」
「経験者は、語ると」
「そうだよ。私も、マルケス・アインウルフ将軍閣下から、成長のチャンスを与えてもらえた。強くなったぞ。マイク・クーガーや、私のような者は、上官に恵まれたから出世できたのだ」
「元の身分は、大して良くない」
「戦争の時代は、民衆には悲劇だ。政治家にとっても、大きな困難の連続となるだろう。だが、軍人や戦士にとっては、チャンスなんだ。アーベル、私から学べ。第六師団、アインウルフ将軍の戦い方は、リスクのある前がかりな攻めだ」




