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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百二十七


―――確信している理由が、プレイガストには理解できなかった。

『自由同盟』をどれだけユアンダートが恐れるというのか、想像がつかない。

分かっているのは、やはりこの男が狂気に呑まれていることだけか。

とっくの昔に、壊れてしまっているのだろう……。




「いいか?私の妄想などではない。実際のところ、ヤツはガルーナを恐れていたんだ。自分の論理の天敵だと、知っていたからな。私が指摘するまでもない。あいつは、分かっていたくせに。世界というものは、バランスを保とうとするものだ。無限の勝利など、誰だって手にすることなどできないんだよ」

「……そんなに、ソルジェ・ストラウスなんかを評価するのか」

「当然だ。実際のところ、ずい分と帝国軍を殺してくれたじゃないかね!」

「……まだまだ、いる。オレたちだって……」




「君は、もう。帝国軍じゃないんだ」

「……そいつも、分かっている」

「……私の感傷的なハナシを、聴いてくれた礼をしなくてはならんな」

「必要だとは、思わないが……」




「必要だろう。君に、選択肢をやらなくてはなあ。私は、『自由同盟』と合流して、東へと戻るよ」

「……この土地を、知っているんだな」

「逃げ道を、教えてやれる」

「……信じられるものかよ。たとえ、お前が、真実を口にしていたとしても!」




「では、答えはひとつだけだ。より安全そうな道を、行こうじゃないかね。君と、私とで、しょうがないから、『自由同盟』に踏み込むのだ」

「……どうやって、行くんだ。あいつらは、ずっと、遠くにいる」

「海まで行こう。そこに、漁村があるから」

「……お前の、知っている漁村か?」




「そうだとも。帝国軍は、制圧しちゃいないさ」

「バカなことを言うなよ。沿岸部は、みんな……」

「盲点というのは、そういう思い込みから生まれるものだ。続きたまえ」

「……おい。馬を、走らせるのかよ」




「そうだ。一刻でも早く。この雨が、守ってくれるさ。足跡を飲み込んで!」

「どうだかな。もう、ちいさくなって来てやがるぞ」

「なればこそ、急くのだ!追手と戦うにしても、もう少し、マシな状況がいいだろう」

「マシな状況とは、何だ!?」




「身を隠せる場所があることだね。とりあえずは、それだけでもいい。ああ……心地良いよ、レビン大尉!君は、この解放感を理解してくれないだろうなあ!」

「分かるかよ。お前は……何年、ぶち込まれていたんだ!?」

「忘れたよ。そんなものを数えると、悔しさで死にたくなるだろう。とにかく、急げ」

「ちくしょうめ。どうして、オレは……あんな呪術師ごときについていくんだ!!」




―――他に選択肢など、なかったのは確かだ。

どんな言葉も、プレイガストが口にしたものなら絶対に信じられないから。

プレイガストは馬を走らせ、レビン大尉は追いかけるしかできない。

何て不利な条件なのだろうか、世の中はいつもいつも理不尽だ……。




―――雨がかなり弱まってしまう、どれだけ雨が足跡を消してくれたか。

もっと土砂降りになればいいなどと、考えてしまったのは初めてだ。

舌打ちして、怒鳴りたくなる。

悪い知らせを耳が聴き取ってしまったのは、そんな瞬間だった……。




―――狼たちの遠吠えを、いや野犬たちの遠吠えをレビン大尉は聞いてしまった。

馬がおびえるのが分かったし、プレイガストが犬たちの声を真似て叫ぶのも見た。

吠えてるんじゃねえ、呼び寄せるなバカ野郎が。

怒鳴りたかったはずなのに、右と左が気になって仕方がなかった……。




「犬だぞ、犬だ!!野犬が、いやがるんだ!!」

「ハハハハ!どうだかな!!」

「野犬だ……帝国軍に、ついて歩きやがる野犬は、狼よりも厄介なんだぞ!!オレたちを、喰らおうとしていやがる!!」

「犬を、買いかぶっているね」




「ふざけんな!帝国軍の残飯を喰うせいで、帝国兵から、エサをもらうせいで。野犬どもは、ヒトに慣れちまっているんだ。そいつらは、ヒトを恐れない。なれているから、怖がらずに、取り囲んで、襲ってきやがるんだ!」

「犬は、そこまでの連携をやらないね!」

「やるんだよ!やるんだ!」

「狼の群れと、間違っている!犬は、犬が嫌いなんだぞ!犬が選んだのは、ヒトなんだよ!犬は犬を見捨ててこそ、本当の犬になれる!野犬は、野犬に絆を持てない!あいつらは、ヒトとの絆で、ヒトを襲うだけだ!さみしいんだよ!」




「違う!!オレは、見たんだ……狼じゃない。野犬だ。犬っころが、ヒトを襲うんだ!」

「恐れるな。ここらの犬は、とくにそうなんだよ。ヒトには、牙を剥けない。正確に言えば、私たち、『トゥ・リオーネの民』にはな!」

「オレは、どうなるってんだ!!ここの土地のモノじゃないだろう!!」

「大丈夫だ。私が、そばにいるかぎりは……君は、私といるべき理由がまたひとつ増えたな!!あきらめやすくなって、良かった!!他の道は、もう、ない!!ああ、犬たちが、私たちを歓迎しているぞ!!」




―――指笛をプレイガストは吹いた、レビン大尉はこの呪術師をぶん殴りたくなる。

耳のいい偵察兵ならば、気づいてしまうからだ。

甲高い指笛は、不用意なほど遠くまで響いてしまう。

野犬たちの影が、ついにレビン大尉の視界に侵入してきた……。




「バカが、呼ぶからだ!犬が、来やがったぞ!デカい犬が!」

「『トゥ・リオーネ』の犬は、あんなものだよ!色々と混ざって、強くなった!みにくいものが多いが、能力が大切だろう!我らが故郷の犬は、貪欲で、賢く、『トゥ・リオーネ』の血を理解する!来るがいい、並走しようじゃないか!!」

「お前の、飼い犬じゃないんだぞ!!そもそも、この土地の犬じゃねえ、ずっと、長く、帝国軍の遠征と……こ、殺した亜人種たちの村にある死体を、喰らってきたんだ!ヒトの血肉の味を、お、覚えているおぞましい野犬の群れだ!!」

「君は、誤解している。その野犬たちは、『プレイレス』の犬や、それよりもずっと東の犬たちは、とっくの昔に、『トゥ・リオーネ』の領域に踏み込んだ瞬間に、我らが犬に殺されている!!ほうら、見たまえ!おぞましく不格好だが、とても賢い犬たちを!!」




―――野犬の群れが、プレイガストに従い始める様子をレビン大尉は目撃した。

不思議な指のサインを振り回し、それに犬たちは応えて並走を始める。

馬を狙っている様子がない、敵意は消え去っていた。

まるで猟犬の群れであるように、犬たちは彼らふたりの一行に加わっていた……。




「マジかよ。こいつら、本当に……手懐けた!?」

「血のニオイが、分かったんだよ。私に、仕えるべきだとね。ああ、まったく。この土地は、本当に……呪術が盛んなままでいてくれて、助かる」

「呪術と、言ったのか!?」

「そうだとも。そう言ったよ。聞こえたなら、答えをやろう。どうせ、君は質問したいんだろ?この犬たちの調教に、『トゥ・リオーネ』では、どういう手段を使うのか!」




「さっさと、答えろ!!どうせ、もう、予想はついているんだ!!」

「予想のとおりだ。君の心をのぞくまでもない。『トゥ・リオーネ』において、犬を育てるとき使うのは、鞭と知恵、支配者としての風格、毒餌もときにはあるが……すべてにおいて優先されるのは、呪術だ!」

「呪術で、獣をあやつる……ッ。蛮族の世界の、技じゃないか!!」

「蛮族だと?それは、君たちがものを知らんだけだ。多くの力が、世の中には転がっているだけのこと。この犬たちが、私と君を救うんだぞ。たったひとつの命令で、彼らは忠実な殺人者となる!」




「おい、まさか!!」

「殺させるのさ、我々を追いかけてくる帝国兵どもが、この、彼ら野犬たちの森に入ったら。嚙み殺してしまえと!」

「よせ、やめろ!!」

「甘い考えを、捨てたまえ!!生き残る気があるなら、私と異なる道を歩めないのなら、答えはもう出ているんだ!!私の所業を見逃せ!!かつての同僚たちだって、見捨てるんだ。それは、もう、我々の敵だ!!」




「うるさい!!お前も、お前も絶対に、オレの敵だからな!!」

「かまわんよ!!だが、命令はさせてもらう!!」

「やめろ!!犬ども、とっとと散れ!!なんで、本当に、そいつをじっと見つめているんだ!!野良犬のくせに、忠義なんて!!」

「帝国兵を食い殺せ!!ここに来た兵士を、命をかけてで食い殺せ!!お前らにとって、その命令は、命よりも絶対だ!!」





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