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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百十九


―――レビン大尉は、怖くなってくる。

自分の願いを、本当にこのたった一瞬のうちに叶えてくれたのだろうかと。

担がれるのは嫌だった、査察官の死を確かめに戻ったとき。

生きてピンピンしている査察官と出会うかもしれない、どんな顔になることか……。




―――ワガママな男には暗殺者の使用は向かない、それがセオリーでね。

暗殺者に仕事を頼んだときは、素直でいるべきなんだよ。

どんな言葉が返ってきても、おそらく半々の可能性だと信じるべきさ。

もしものときに備えて、自分から動こうと考えておけば問題がない……。




―――確実さなんてものを、暗殺者に求めるなんて愚かなことだよ。

やはり暗殺者を使っていない者には、伝わりにくい感覚かもしれないね。

100%の対象を仕留められる暗殺者なんて、基本的にはいない。

『暗殺妖精』と謳われる方々だって、100%とは言わないだろう……。




―――ミアは100%を、『やれない』と言ってもいいかもしれない。

分かりにくい説明だから、解説をしておこうか。

120%近く、殺してしまうからだよ。

過剰な人数の被害者を出してしまう『失敗』が、まだまだあるんだ……。




―――ガルフとソルジェは甘々だから、『それはそれでいい』と太鼓判を押すさ。

猟兵としては確かに正しい、でも暗殺者の目線ではちょっとマズさもある。

暗殺というのは政治の選択なんだからね、そうじゃない暗殺はあまりない。

邪魔な政治的関係性の相手に、こっそりといなくなってもらうための過激な方法だ……。




―――過激だけれど、これがまた必要以上の衝突を失くしてくれる点で優れているよ。

たとえば王位継承問題の最中で、内戦状態になりそうな王国があったとする。

厄介なライバル関係にある王さま候補のどちらかを、こっそりと暗殺できたら?

国を二分するような内戦だって起きずに、たったひとりの命でコトが済むかもね……。




―――ただの算数として考えたとき、この選択肢のスマートさが明瞭になった。

暗殺という政治的選択のおかげで、人々はときに戦争による死者の山を見なくて済む。

なんてありがたいことか、だからこの価値観を持った『ルードの狐』からすると。

120%をしちゃうミアの最高の仕事にだって、ツッコミどころがあるんだよね……。




―――まあ、ミアだって王家の重要人物を暗殺しろと命じられたら。

片っ端に王族丸ごと殺処分なんて真似はしないだろうけれど、過剰な暗殺に抵抗がない。

猟兵としての暗殺者と、『政治的な暗殺者』ではちょっと求められる力が違うだけ。

どうあれ大陸で最高の暗殺者たちのひとりに、ミアは含まれている……。




―――ミアの兄である、ソルジェもかなりいい暗殺者だから甲乙つけたい。

呪術を使えるという点では、ソルジェの方が暗殺者としては格上な部分もある。

隠遁や潜入能力だと、ミアの方がはるかに優れているけれど。

どちらにしても、100%以上だから『ルードの狐』らしさはない……。




―――なんで、こんなハナシをしているかと言えば。

レビン大尉がプレイガストについて、色々と思い出してしまっていたからだよ。

プレイガストは、ちゃんと100%を目指してくれるような暗殺者だったかな。

100%以下を失敗していたけれど、それ以上を心配すべきかも……。




―――呪術師のなかには、実験を好む者たちが大勢いるものだ。

どこの土地の呪術師だって、自分たちの力を完全に解明してはいない。

魔術よりも『弱い魔力』を用いる行為だからね、『見えにくい』んだよ。

分析するのが魔術よりも困難であり、研究対象としては難解だった……。




―――派手な魔術については、『身分の証』みたいな使われ方もしたね。

ソルジェたちストラウス家の人々が、複数属性の魔術を使える理由と同じ。

『魔術を使える』という時点で、露骨に言えば『貴族や良家の証』でもある。

奴隷のガンダラや孤児のジャンは、魔術の素養が比較的乏しいだろう……。




―――カミラについては、どう解釈していいか分からないけれど。

本来は寒村で埋もれた一般市民であり、貴族ではなかったんだ。

三大属性よりも、はるかに貴重で圧倒的な『闇』なんて使えるんだけれどね。

あれは彼女が継承しただけだから、とも言えそうだし……。




―――何であれ、魔術は『貴族の証明』としても使われて来たけれど。

それに比べて呪術というのは、何ともコッソリとし過ぎていたものだ。

隠しておきたい力でもあるし、そもそも見えにくさと難解さがあったから。

研究がそれほど進まずに、永らく我々は放置していた感がある……。




―――呪術というのは、おそらくね。

直感が届かないような繊細かつ小さな世界観を持った学問、数学あたりで読解すべきさ。

だって魔術よりも繊細かつ小さな魔力で、不思議なことに長々と作用するんだ。

少ない魔力が長く機能するなんて、ちょっと変なところだろう……。




―――小さな魔力しか消費しないから、長くもつのだという説明は打倒ではあるけれど。

距離の問題だってある、魔術よりも離れた場所に作用できるのはどういうことか。

ソルジェの魔眼だって、見るだけで仕掛けられるんだからね。

『魔力を直接ぶん投げているようなものである魔術』よりも、ずっと遠い距離さ……。




―――何やら不思議な力学がそこにはあって、おそらくそれが研究の障壁だ。

数学者が、この呪術というジャンルと相性が良さそうだね。

ソルジェも実は数学が得意だよ、北方野蛮人の割りには。

はたしてプレイガストという男は、どうだったのだろうか……。




「あんな、短時間で暗殺できたってのは。つまり、あれか?強力だったから?」

「私は数学者でもあった。確実性を好む。会話には、しっかりとした前提条件があるべきだよ。強力だった?何とも、受け取り方に困る言葉じゃないかね」

「……派手に、殺してないかってことだ、賢いボケナス野郎め」

「賢いボケナスか。たまに言われるよ。私とお付き合いをしてくれた女性や、男性だと無礼な友人たちがね」




―――数学者だったりすれば、困るなあと思うんだ。

呪術師であり、数学者でもあるものだったら。

もしかしたら、ルクレツィア・クライスが研究論文を仕上げるよりも先に。

彼女より呪術の分野で一歩だけ深い理解をしていて、強力かもしれないってね……。




「どうなったと、思うんだい?」

「何が、だ」

「ああ。主語を抜いていたね。すまない。じつはわざとだよ。家庭教師をしてこともあるから、ちょっと試したいんだ。理解力や、アタマの切れ味や……私を、どう認識してくれているかの諸々が、言葉と態度に反映されてくれる」

「答えろよ、何が、だ」




「私に無礼な言葉を使った男たちの多くが、後悔をしただろう。一々、確認しちゃいないんだがね。私という男は、どうにもこうにも執念深くて、心がせまいんだよ。忘れられないね、暴言のひとつひとつが。ああ、嫌になる。記憶のなかから、いつも這い出てきやがるんだよ、私が殺したのに、まだ黄泉の世界からうるさく騒ぎ立てるんだ」




―――「勇気を持つんだ」、強気な男ならそう思っただろう。

ソルジェだったら鼻で笑ったかもしれない、ソルジェはかなり変だから。

猟兵に比べれば、はるかに一般的な価値観を持っているレビン大尉。

彼は恐怖に打ち勝ち、無理やり乾いた声で訊いたんだ……。




「ひとりだけか?の、呪いで殺しちまったのは、あの査察官だけなのか……それとも」

「ああ。君は思ったよりも、ずっと賢いな。賢いボケナスも、驚きだよ」

「答えろ、ボケナ……」

「言えなくなったのかい。恐怖が、君の心に居ついてくれたね。それを待っていた。ああ、教えておこう。何人か殺したよ。とても危険な呪術で、見境がないからね」




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