第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その六百十四
―――このときディアロスの戦闘術に、革命的な進歩が起きていたなんて。
当事者であるふたりの方が知らないよね、『使えそう』なんてものじゃない。
すでにあらゆる兵科のなかで、圧倒的に強い『ユニコーン騎兵』。
それが友好的な戦術を、もうひとつ獲得するというハナシだからね……。
―――やがてロロカに伝わり、『ストラウス商会』のディアロス全員が習得するのさ。
敵の鋼や馬具の留め金、それらへの小さいが深刻なダメージを入れられる手法がね。
戦闘中の帝国兵どもが、最も恐れることはそれぞれに違いがあるだろう。
だが、こちらからすれば帝国兵どもの装備が壊れてくれるのは何ともありがたい……。
―――ロロカでさえ、『呪術錬金術』を『飛ばす』なんて発想は見つけられなかった。
正統な力だけで、すでに種族における最強の戦士であるのなら。
王道を曲げる必要もないのだから、この種の発明はどちらかと言えば若手が見つける。
しかも、他種族との戦いにおいてね……。
―――やがて、いくつかの事実が分析されるわけだけど。
錬金術の大天才である、ルクレツィア・クライスに言わせれば。
この『呪術錬金術』を『飛ばす』という手法は、ディアロス同士では通じないそうだよ。
『水晶の角』そのものが、『飛ばされた呪術錬金術』から自分たちを守るらしい……。
―――ディアロスの戦士たちが、とくに優れた『霊槍』の使い手同士が衝突することでは。
この技巧が発見される確率は、事実上のゼロだったわけだ。
パロムの有能さもあるけれど、これは『自由同盟』らしい交雑が成した発明だったのさ。
一週間も経たないうちに、ディアロスの戦士たちは新たな戦術を使い始める……。
―――『自由同盟』側にとって、これ以上ない大きな収穫になるよ。
それと、戦略面以上に錬金術についての発展に寄与することになりそうだ。
ルクレツィア・クライスが、そのコンセプトを知ったからだね。
先の戦いで、ストレガ姉妹が体得した『魔術をふたりで分割して使う手法』……。
―――それの研究を始めていた人類史上最高の錬金術師は、とても喜んだらしい。
『水晶の角』のシステムを、彼女が素早く見抜けたのはふたつの力が似ているからだよ。
魔術にせよ呪術にせよ、どうやら『遠隔で組み立てられそうだ』と。
ルクレツィアは『ホムンクルス』たちの、おぞましい呪いの研究者でもあるからね……。
―――彼女の研究テーマは、とてつもなく幅広いものだけれど。
『男性と性行為すると死亡してしまう』という、呪いについても研究していた。
『メルカ』の『ホムンクルス』たちは、女性同士で代を重ねてきた特殊な人々だ。
その全員が『星の魔女アルテマ』と、ほぼ同一の個体らしいよ……。
―――無数の双子みたいなものだろうが、代を重ねても呪いは解けなかった。
『星』という、おそらく『ゼルアガ/侵略神』だったものを排除するまではね。
ルクレツィアはその呪術を広めていた仕組みは、複数あると信じていたようだ。
ひとつは『呪いの風』と呼ばれる、大陸の空を駆け抜ける『ゼルアガ』の権能の道……。
―――それに乗せて、どれだけ遠くに逃げても呪いが機能するように仕向けていた。
それだけじゃなく、おそらく血や肉体そのものにもあっただろうし。
ストレガ家の双子がやり遂げたように、『メルカ・コルン』が相補的に干渉していたのかも。
つまり、彼女たち自身が呪術を補完し合っていた可能性があるのだとか……。
―――とにかく、現代における最高の錬金術師ルクレツィア・クライスは思った。
『遠く離れた場所で、錬金術を成す方法は実在していると』。
そして、『それは文明さえも変えかねない強大な力になるだろう』ともね。
ボクたちは文明の進化に、良くも悪くも貢献しようとしていたんだ……。
―――フェアな観点で、それらの傾向が起きた理由を述べるのならばね。
やや政治的には気に食わないけれど、ユアンダートの侵略戦争が大きいんだ。
大陸全域を帝国軍が支配していく過程で、教育水準は跳ね上がっていたから。
帝国の主催する学校は、プロパガンダ/政治的な洗脳の場だったけれど……。
―――同時に賢さを世の中に広げていき、文明のレベルを上げていたのは事実さ。
亜人種の力は伸びにくくかったけれど、人間族の知識はとても高くなっている。
各国の大学では論文の量が、十年前よりも七倍になっているからね。
軍事というのは科学であり、錬金術や製鉄技術は科学の代表格だった……。
―――帝国による侵略が数百年近く停滞していた文明を、進歩させ始めていたんだ。
『メルカ』から解放された大天才殿は、帝国が作り上げた新規の科学を吸収した。
天才は彼女以外にも無数にいるからね、それらを一気に彼女は学んだわけだ。
戦争で加速した文明の発展が、ルクレツィア・クライスを賢くさせている……。
―――帝国側が公には禁じている、呪術に対しての研究も『自由同盟』は進みやすい。
ソルジェは『魔眼』なんていう、竜の呪術を使いこなしているわけだし。
猟兵たちが各地で交戦した呪術の『傑作』についての情報も、回収済みだからね。
シアンの『真なる虎』だとか、カミラの『吸血鬼』やジャンの『狼男』も……。
―――『ギルガレア』や、どうやらその眷属から派生した『ゴルゴホの蟲』まで。
ルクレツィアは学習し、おそらく誰よりも広範に学びつつあった。
帝国社会に、薪をよく使う錬金薬の論文を出すために。
帝国錬金術学会に偽りの身分まで用意して、現役帝国錬金術学会ともつながりがある……。
―――まあ、研究者としては誰よりも恵まれている才能と環境があった。
そんな怪物的な大天才に、新たな研究課題が渡されたわけだよ。
『水晶の角』と、『呪術錬金術の遠隔性』についての大きな発見が。
錬金術師である彼女は、オリジナルであるアルテマと似た気質もある……。
「世界そのものを、変えてしまう……『超特大の錬金術』とかも、やれるでしょうね。まあ、私が生きているあいだはムリかもだけれど。いつか、神さまを創るなんていう『もうやれてるレベル』じゃなくて、『もっと大きな力』が大陸に生まれるでしょう。『未来』の、怖い側面ね。私はきっと、それにつながる多くの発明と論文を、遺すことになる。だって、面白そうなんだもの!」
―――詩人であるボクの感性から、語らせてもらうのなら。
おそらく『その未来』は、とんでもなく恐ろしい場所でもあるだろう。
遠い過去の詩人たちも歌ったように、きっとそれは数百年後でも同じ。
「戦争と混沌が世界を進化させた、たくさんの血を吸うことで」……。
「新しい破滅が、胎動するの。でも、おそらくその力は人々を幸せにして、少なくとも、とっても豊かにするでしょう。数多の古来の神秘の知識を、私は目撃し、編纂するのが役目のひとつ。サー・ストラウス。亜人種の奥義も、伝わってくる。門外不出の『森のエルフの秘薬』だけでも、錬金術の世界は躍進するのよ。それに、貴方には竜のゼファーがいる」
「竜と猟兵に勝つためには、帝国は禁忌の力を使う。そうじゃないと勝てないもの。祭祀呪術も、どうせ誰かが使うわよ。最強の力を持つ貴方に対抗するために、最高の力が用いられる。それが、おそらく貴方の運命。私が貴方の側に一生涯いるのは決まっているのだから。とてつもない研究資料が集まるでしょう」
「錬金術の神髄は、『進化させること』だもの。サー・ストラウス、いっしょに、『未来』を創りましょうね!」




