第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その六百十一
―――誰もが有能な人材になろうとして、死ぬほど努力をするものだった。
その典型でもあるのが、パロムと『曙』だろう。
女神イースにガッツリと魔力を吸われたはずなのに、今夜も鍛練をしていた。
相手を務めるのは、ルチア・クローナーだよ……。
―――『ストラウス商会』に対して、ちょっとした頼み事をしに来たら。
その達人に近づきつつある気配ゆえに、パロムに絡まれてしまったのさ。
強くなりたいパロムからすれば、ルチアはちょうどいい相手だったね。
絶対にかなわないほど強くもないし、しかし確実に格上という実力だから……。
「有能に、なりたいのですううう!!だから、私と、お手合わせをお願いしたいのですよおおおお!!」
「は、はあ。露骨なまでの態度ね。ある意味では、気持ちがいいと言うか」
「ディアロスの戦士として、『ストラウス商会』の一員として、最前線に乗り込み、ソルジェ・ストラウス社長の槍となって散るはずが!!女神イース相手に、それほど活躍できていなかったんです!!」
「亜人種の戦士は、ほとんどそうだったでしょう」
「いいえ!!ガンダラ殿は、むき出しの亜人種でありながら!!」
「むき出しという言い方は、どうかしら」
「とにかく、巨人族の戦士でありながら、ガッツリ、魔力を奪われながらも立っていたわけです!!私は、軟弱さを、自分に見つけました!!」
「超がつくほどの格上に、嫉妬なんてしていたら―――」
「―――追いつきたいんですううう!!猟兵たちに、ちょっとでも!!ミア殿なんて、私よりもずっと年下で、こんなにちっちゃいのに!!すごく強いのですよ!?」
「そうね。彼女にも、私たちは遠く及ばない……」
「この現状、放置しておいては……永遠に差が開きそうというか。とにかく、もっと、強くなりたいのです!!槍術を修得されていそうな身のこなしと、かなりの強者感を持った貴方に、胸を借りたいんです!!」
「マジメなんだ。嫌いじゃないわよ。あまり、何時間も戦うなんてマネはムリだけど。ちょっとの間なら、相手をしてあげる」
「では、槍で!!私は、『曙』は使いませんのでご安心を!!」
「……ユニコーンか。良かったわ。どちらも同時に相手するなら、槍では無理だから」
「では、いざ尋常に!!訓練、開始!!」
「……ええ。来なさい」
―――パロムの踏み込みは、かなりの速さだったね。
でも、ルチアはそれを上回る速さで側面へと躍り出る。
エルフ族のステップは、軽やかさが売りだった。
猪突猛進の権化のようなパロムの突進とは、実に相性がいい……。
『ひ、ひひいいいんん!!』
「や、やってしまったとか、言うんじゃない、『曙』!!」
「……貴方にとって、相性はサイアクみたいね、私」
「いいえ!!課題を、提供してくれるのであれば、まったく問題なし!!」
「ホントに、マジメな子ね」
「いざ、参る!!」
「また、猪突猛進を……」
「いいえ、少しばかりの工夫を、込めている!!」
―――ミアのステップを、ケットシー族のステップを。
パロムは試そうとしたのさ、猛烈な突撃が回避されて空振りしてしまったけど。
膝を柔軟に折り曲げて、直後にルチアを追跡するように跳んだ。
直線からのいきなり、横っ飛びなんてなかなかやれるものじゃない……。
「おどろいた。芸風というか、技巧の種類がぜんぜん違うのに」
「やってみたら、意外とやれてしまうのが!!才能ってものだと思います!!」
「そ、そうかもね!でも、完成度は、やっぱり、いまいちだわ!!」
「う、うああ!?」
―――ルチアのかなりの槍の名手だよ、パロムの強引な追跡で崩れてしまった構え。
それを的確に突くような攻めを淡々と浴びせ、追い詰めてしまう。
付け焼刃は驚きをもたらすけれど、それ以上の効果を出すのは鍛練あってこそ。
パロムは立てつづけに敗北を喫した、ルチアは槍でかなり叩きつけている……。
―――南のエルフたちの方針だろうね、甘く手加減した鍛練なんてものは。
そもそも彼女たちの辞書には存在していないかも、パロムは強打に弾かれて。
無様なまでに盛大な転び方で、地面へと突っ伏したよ。
土の味を知るなんて、若さが成せる何かの気もする……。
―――パロムもまた、北方の勇士ディアロスの戦士の一員だからね。
これはこれで、闘争心に火をつける痛みと屈辱だった。
すぐさま起き上がると、何事もなかったようにルチアへと向かう。
猪突猛進こそが、自分の本領だと知ったようだね……。
―――小手先の技巧が通用するほど、ルチアも弱くないんだ。
彼女もまたこの数日の戦いで、自分の殻を何度も壊して成長した天才だから。
部隊の指揮官にもなったし、『ギルガレア』との戦いにも参加した。
長老たちからも認められたし、何よりもここまで生き延びた……。
「は、速い!!回避した影にも、私の槍が、当たらない!!」
「まだ全力で、避けていないよ。むしろ、全力で避けないほうが、強いんだって。ストラウス卿の動きを見ていると、よく分かった。ムダな動きが、多いのね。私も……そして、私よりも貴方のほうが」
「だとしても!!変則では、私は強くなれそうにない!!」
「……時間をかけて、磨き上げていくしかないんじゃないかしらね」
「それは、至極、まともな答えですが!!私は、もっと、早く、何ならば、今この瞬間にだって、強くなりたいのです!!」
「分かるけれど、現実的とは言い難いものね」
「現実させも、超える!!そういう、何か、アイデアが欲しい!!」
「まともな道ではないわよ、あったとしてもね。はい、甘い突き!!」
―――鋭すぎる突きだったが、それゆえに単調にも見えてしまう。
エルフの反射神経の方が、どうやらディアロスのそれよりも上だったようだ。
種族的な優劣というものは、限定された分野のなかでならつきやすい。
もちろん、総合的な戦闘能力では評価しにくいものだけれどね……。
「うう。また、簡単に負けてしまった……っ」
「こっちも、簡単に勝っているわけじゃないの。油断したら、その瞬間に負けそうなぐらいには、貴方と私に差なんてないもの」
「知っているから、挑んでみたら。お、思ったよりも手痛い敗北をしているので、自信喪失の最中なのです!!」
「本当に、素直なんだ。そこまで、感情を吐き出す文化は、私たちにはないわね」
「ディアロスの戦士の生き様を、最も端的に表現するものは、やはり突撃!!そして、この『水晶の角』がアイデンティティです!!」
「その角って、どういう力があるのかしら?」
「まず、見た目がカッコいい!!」
「う、うん。まあ、そうよね」
「そして、『曙』と、ユニコーンと心を通じ合わせることが、可能なのです!!」
「それは、すごい力ね。ストラウス卿も竜のゼファーと心を通じ合わせていた。そういう能力なのかしら」
「だいたい、同じようなものかと」
「だったら、それ専用の呪術とか、あったりするのかしらね」




