第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その六百九
―――知的な交流は、想像以上に大きな発見をお互いにもたらすものだ。
ガンダラは悩みのいくつかを、メダルドの賢しさと経験によって言語化できた。
それは思考力を用いる上で、大きなアドバンテージとなってくれる。
得難い友情を、彼らは築いて行けるかもしれない……。
―――ガンダラはあまりにも賢いから、知的なレベルの合う相手が少ない。
ロロカとなら知的レベルは釣り合うけれど、性格が割りと違うからね。
ロロカは議論が好きではないし、おおらか過ぎる。
育ちもかなりのお嬢さまだからね、ガンダラは奴隷戦士だったから……。
「……秩序派の巨人族も、やがては目を覚ましてくれるはずだ。変わると信じて、訴え続けるといい。オレも、可能な限り、声をかけてみよう。商売人だから、顔は広いぞ。悪名もあるがね」
「公的には、行方不明のままですが……それで、よろしいのでしょうかな」
「……まあ、目立たん方がいいだろう。ビビに仕事を任せればいい。多くの人脈を築いて、この土地から移るのだっていい」
「それは、貴方がさみしいでしょう」
「……そうだよ。だが、ガンダラ殿。ビビの商才は、かなりのものなんだよ。積極的だし、これまでは枷となっていた、『狭間』という立場も、これからは異なるかもしれん。ジーの一族が、亜人種にやれる最大の罪滅ぼしは、ビビが社会的に大成功することのような気もする。あの子のためだし、亜人種にも……『狭間』にもいいだろう」
「たしかに、そういう考えもありますが」
「……『ルファード』にこだわらなくてもいい。オレのそばにいつまでもいて欲しくはあるが、それは、違うだろう。あの子の人生を、生きられるような時代になりつつある。帝国を倒せば、変わるんだ」
「政治的な価値がある行いのために、家族として得られる幸福をガマンする必要なんてないはずですよ」
「……どうかな。まあ、もちろん。オレも、ついて行くかもしれん。『ルファード』でも、『オルテガ』でも、居場所を失うかもしれない。世界が、亜人種や『狭間』を受け入れるほどに、オレの罪は大きくなっていくから……」
「貴方の社員は、貴方が守るべきです」
「……ああ。まったくだ。どうにか、稼がないとな。アイデアは、いくつもある。オレだって、やりたい仕事は、いくつもあるんだ」
「試されればいい。幸い、若い体ですしな」
「……そうだな。この子のためにも、すべきだ。家族に、賠償したい。だが、それもやれないのであれば……孤児院だな」
「孤児院、『カール・メアー』が経営しているとも聞きますが」
「……そこに金を送るのもいいし、オレ自身が運営してもいい。戦争で、孤児が山ほど出ちまっているからな。この子たちに、ちゃんとした教育をしてやらないと、ろくなオトナに成長しないじゃないか」
「いい考えです。かなり、影響を受けたようですな」
「……レナス・アップルの影響だよ。オレは、彼女の……いや、彼か。ともかく、彼女でいいか」
「そう、ですな。私には、どう呼ぶべきなのか分からない」
「……レナス自身も、そうだったかも。レナスは、恋をしていた女上司もいた。死んだあとで、ようやく愛情を告げられていたような、純情で清すぎる恋愛だった。オレは、それを見たんだ。女神イースの一部として、ちょっと記憶が残っている」
「レナス・アップルも、孤児だったと?」
「……孤児になる。父親も戦死して、母親は殺されて、『人買い』に誘拐された。そのあとで、レナスは去勢されて……『カール・メアー』が救ったんだ。その記憶は、オレは追体験したんだよ。きついぜ、何ていう人生だったのか」
「女神のもとに、召されたのならば。『カール・メアー』の戦士としては幸せだと」
「……そうだな。だが、オレは、知っちまった。レナスは、孤児たちから生贄を集めた。殉教者たちだな、幼い、殉教者たち。酷い作戦だが、あいつらも必死だった。罪滅ぼしまで、したんだぞ。女神は、ミア・マルー・ストラウスのお願いを聞いたから」
「ミアの、願いとは?」
「……子供たちを、ママに会わせてやれと。女神イースは、慈悲深かった。最後は、戦いよりも、その願いのために力を使った。孤児たちは、夢を見ていたよ。オトナになれる夢だった。オレには、それが救いにも見えたし……課題であるようにも、思えた。レナス・アップルは、オレに託しているものがあるとすれば……そのひとつは、あれを現実でしてやることかなと。孤児たちが、自分の好きな道を歩ける方法だ。ママを、復活させてやるのは難しいけれど。そっちは、やれるじゃないか。金さえ、あればな」
「ええ。お金の、とても清らかな使い方でしょう」
「……そう思うよ。戦いで、大勢が、死に過ぎている。孤児も、増えたろうから」
「稼ぐべきですな。貴方は、才能あるベテラン商人だ。奴隷以外でも、きっと稼げる」
「……おう。『オルテガ』にも、事務所を構えた。そして、ビビがいいパートナーを見つけてくれたんだ。知っているか?『ストラウス商会』というんだ」
「ああ。よく知っていますな」
「……ディアロスの戦士たちは、野宿もへっちゃらみたいだが、思うに『支店網』を形成するべきだと考えている。各地に、拠点を借りてもおられるようだが……馬の機動力を活かしすぎるあまり、それと、帝国勢力圏を警戒するあまり、支店の配置が甘いようだ。ああ、場所を具体的に聞き出しちゃいないが、体験談の端々に、支店網の脆弱性が見えた」
―――パロムはおしゃべりだし、若さゆえの率直さもあったからね。
ビビアナよりも経験値豊かなメダルドは、彼らの苦労をより多く見抜けている。
『ストラウス商会』の数少ない弱点を、彼なら改善できるというわけさ。
その自信があるがゆえに、彼はソルジェとひとつの商談をまとめていた……。
「……『ストラウス商会』の明確な支店を出すために、ジーの一族が私財を投じる。人材もな。『プレイレス』地方を中心にして、軍事と商業の路をサポートするような配置を、オレなら三分でデザインできるし、ストラウス卿の影響力なら、ケンカ売ってくる者もいないだろう。『モロー』で、ストラウス卿は銀行に接近したらしいが、オレなら、情報収集どころじゃなく、大金を貸してもらえる事業計画書を出せるぜ。あちらも、奴隷事業から脱却するために、『自由同盟』系のビジネスに食いつきたいだろうから。まあ、いい計画だろ?」




