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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百三


―――レイチェルは勝利を作り、大きな戒めを帝国兵どもに与えたんだ。

芸術の使い方としては、正しかったのかどうかはわからない。

狂暴な行いだったし、邪悪な側面もあっただろう。

それでもレイチェル・ミルラは、『パンジャール猟兵団』の猟兵でもあるのだから……。




―――狂暴なまでの恐怖を敵に植え付けられたら、『自由同盟』の勝利は大きく近づく。

この勝利は、すばらしいものだよ。

レイチェル本人にとっても、どこかに救いを伴っている。

目の前にいる男を見捨てなかったのは、きっと正しい行いとして彼女の心を守るんだ……。




―――復讐だけでは、彼女の歩んだ道を決められはしないからね。

彼女の心に宿っている復讐心は、取り返しのきかないほど大きなものだけれど。

もっと偉大な記憶も多いよ、彼女はたくさんの愛を知っている。

いつか天幕の下に戻ったときには、今夜の物語もいい記憶になるはずだ……。




―――大勢の敵を倒して、大勢の敵を捕虜にした。

軍船だって奪い取ったあげく、こちらの死傷者は奇跡的にゼロなんだからね。

地域の伝説として長く語り継がれてもおかしくないほどの、大勝利だった。

サーカス団の物語も、戦士たちに聞かせられたしね……。




―――芸術の役目は、間違いなく教育であり啓蒙なんだ。

踏みにじられていく芸術家の想いなんてものに、世の中の大半が無頓着だよね。

芸術は大切なものだと言ってくれる方も多いけれど、実際はそれほどじゃない。

軽々しくて無価値に見えるはずのものだ、そこにボクらは努力で価値を刻み込む……。




―――軽々しく扱われても、当然のものではあるよ。

それでも、ボクたちアーティストは命をかけて努力を続けていく。

意志を込めて、人生を費やすべき価値ある真実を表現するんだ。

人魚の復讐劇も、人魚と生きた者たちの願いたちも……。




―――踏みにじられるほど軽んじられた願いに他ならないけれど、大きな価値もある。

レイチェルの歌った物語は、悲しい結末にしかならないけれど。

この悲しみが戦士たちに力を与えて、敵を委縮させてもくれた。

芸術が勝利に貢献した、典型的な戦いのひとつになるだろう……。




―――生き残りの帝国兵どもにも、いくらか影響はあるはずだ。

この指揮官はとくにそうだろうし、あの少年兵だって。

亜人種を好きにまではなれないかもしれないが、亜人種がヒトだってことは思い出したさ。

相手をヒトだと思い込めているあいだは、差別はそれほど強くはならない……。




―――傷をレイチェルに縫われたあとで、森のエルフの秘薬を使われる。

傷に強く染みたりしたけれど、男は黙ってその効能を信じられた。

亜人種の作った薬は全て毒だと言い切るような帝国人も、この世にはいるのにね。

大きな進歩だ、生き残った彼は『自由同盟』の敵にはならないだろう……。




「捕虜として、帝国軍との交渉に使ってやるぜ。お前は、例外だがな」

「……ボクだけ、家に……」

「戻れるんだ。それが、オレたちの指揮官である彼女と、お前らとの交渉の条件だから。家に戻って、そのまま帝国軍とは関わるな」

「……それが、正しいのかな」




「正しいかどうかを決められるのは、勝者の特権だ。お前は、負けちまった側の兵士に過ぎん。しかも、ただのガキだ。ワシが、直々に浜へと送ってやろう。故郷に戻るための路銀は、ちょっとはやれる。服も買うべきだ……いや、それは用意してやるか。帝国兵狩りをしようと、『オルテガ』周辺の市民たちは考えている」

「帝国兵、狩り……」

「亜人種をお前たちが狩るように、こっちも狩り返す日もある。復讐の連鎖は、止まらんものだが……それでも、生きる努力はせにゃならん」

「……生きて、いけるかな。裏切って、しまった気がする。おびえて、戦いを拒んだ」




「英雄になれるのは、一握りだ。大半の者に、英雄になるための才能なんてものは、備わっちゃいない。最高位の勲章の多くは、自己犠牲を表現した者に授けられるものだ。それをやれる者は、極めて少ないからこそ、貴重だ。お前は、ただ、そこらにありふれた普通のガキだ。英雄じゃないが、劣っているわけじゃない」

「……指揮官殿は、素晴らしかった」

「英雄だな。あの種の男は、英雄と呼ぶべきだ。お前だけでも、助けようとした。部下のために自分の死や、激痛を選べる男は、あまり多くない。いや、極めて少ないものだ」

「……ああいう方に、なりたかった。なれると、思っていたのに……もう、ムリだ」




「生きていただけ、幸運だと思え。捕虜としての日々を、免れたことも。亜人種からすれば、帝国兵は全員、殺すべき敵だ。ストラウス卿は……ああ、我々の大将のひとりは、捕虜を殺したり、痛めつけたりしろとは言っていない。だが、末端の戦士の全員が、それに従えるとは限らないぞ。あの人魚のように、誰もが大いなる復讐者かもしれない。復讐者の群れに、お前は包囲されたくないだろう?」

「……それは、そうだよ。でも……」

「義務などない。お前は、帝国兵として死ぬより、ただの市民として生きたかっただけ。故郷に戻れ。親たちは、心をズタボロにされたお前に、責める言葉を使わんだろう」

「そうかな……軽蔑して、ぶん殴るかも。出て行けと、言われるかも……」




「そのときは、そのときだ。ワシは……ゾロ島という場所で、荒くれた漁師たちの長をしている。ゾロ島のキケだ。お前が、どうしても故郷に馴染めなかったときは、訪ねてくるといい。仕事のひとつやふたつは、紹介してやれるぞ。荒くれた土地ではあるが、傷ついた者たちを受け入れてはやれる。そういう度量ぐらいは、あるぞ」

「…………受け入れてもらえるような、価値を感じない」

「無価値なクズでも、かまわん。仕事をさせればいい。そのうち、使いものになれば、街にでも出て、別の仕事をすればいい。そしたら、お前みたいな若い男は、いつの間にか女を見つける。その女に愛を受け入れてもらえれば、家庭を持つ。それが、普通の男の人生だ。素晴らしいものだろう」

「……そう、かもね。想像は、ぜんぜんつかないけれど」




「居場所のひとつは、確保した。ゾロ島のキケを、頼ってくれてもいい。自分の意志で、決められる道がひとつはある。それは、普通の男に、ちょっとは自信をつけさせるものだ。それを心のどこかに持って、故郷に戻ってみろ。兵士は向いていなかったと、親たちにも素直な気持ちで、告げられる。恥ずかしがらずに、言えばいいんだ。英雄ではなく、普通の男を全力で目指せ。それも、十分に困難の多い道だ」




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