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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百二


―――レイチェルの行動は、矛盾が一切ないとは思わない。

ヒトはそれほど、純粋でもなければ単調でもなかったからね。

見捨てる可能性だって、あったかもしれない。

この勇敢かつ自己犠牲を選べる男を、嫌いじゃないけれど……。




「好きでも、ないのだから。貴方は、亜人種の捕虜を殺した経験がある。許しがたい。死ぬべきではあるかもしれないけれど、私の気まぐれに、何かの運命を感じ取ってくれるといいわね」

「……感謝は、するよ。殺さないでいてくれて、ありがとう」

「家族のもとに、帰れるといいわね」

「……それを笑顔で、私に伝えるのは、皮肉か、意地悪なのかな……」




「私には、息子だけが残った。記憶のなかには、いつも夫がいる。片時も、孤独ではない。いつもは、もっと残酷な女なのよ。帝国兵どもがあげる、断末魔が大好物。ちょっとは、手向けになるから。お墓に供えるのは、キレイな花だけじゃない。みにくくて、かわいそうな悲鳴でもいい。それとは別に、この声で、ちゃんとしたレクイエムも捧げているから」

「君の美しい声なら、魂たちも、きっと癒されるだろう……」

「ええ。知っているわ。だから、心から歌うの。貴方には、歌ってあげないわ。そこまでは、やさしくなれない。なるつもりだって、ないの。当然でしょう?」

「……ああ。想像するだけで、怖いよ。私が家に戻ったとき、そこに…………すまない。そんな目に遭うべき者は、いないはずなのに」




「差別って、恐ろしいわよね。ヒトを、ヒトだと思えなくなるのだから」

「……そうだな。それは、きっと、間違っているのに、でも……ありふれたもの」

「ありふれているからって、正しいとは限らない。今夜の学びとして、一生、背負うといい。さあ、ちょっとだけ治療をしてあげましょう。人魚に治療された帝国兵は、とても少ないわ。いつもは、もっと殺すから」

「……やってくれ。家族のためにも、働ける男でいたい……」




―――レイチェルも猟兵だから、傷口の縫合ぐらいお手の物さ。

サーカス団時代では、自分でも衣装を縫ったものだからね。

あの衣装作りの天才から、習ったんだよ。

殺されてしまった彼女の仕事道具を、レイチェルは今も借りたまま……。




「この針は、そういう物語があるの。どんな生地でも、美しく仕立ててくれるけれど。今夜は、帝国兵の傷口を縫い合わせる。本当に、不思議な運命よね。私は、これで赤ちゃんのための服を縫う予定だった。病院って、ヒマなのよ。冬に備えた毛糸のマフラーは、もう編んでいたしね。親子三人で、雪山を見る予定だった。冬枯れの枝に積もった雪が、風に吹かれた夫のアタマと、首筋の後ろに落ちたとき、面白い声をあげたから。ユーリにも聞かせてあげたかったの」




―――恨みでもあるよ、当たり前じゃないか。

この針の持ち主が亡霊として、今この場に現れたどうするのかは決まっている。

どの帝国兵に対しても、「殺して」と伝えるに決まっているからね。

どんな目に遭って死んだのか、若い女性がどんな目に遭いながら兵士に殺されるか……。




―――想像しているよりも、少しだけヒドイだろうよ。

ヒトの邪悪さというものは、フタを開けたら想像よりもろくでもないものばかり。

普段は考えも及ばないほど、殺りくの現場では残酷になれるんだよね。

「殺して」と訴えるレディーのために、ボクなら彼を八つ裂きにして魚に食べさせた……。




「おかしなハナシよね。でも、あの子も、この針で縫い合わせた傷口が、可愛い妻と子供のための働き者を守ったと知れば、恨まずに許してくれるでしょう。私たちは、子供好きだった。あの子も、母親になるべきだったのに。ウフフ。亜人種びいきの人間も、帝国兵からは殺すべき異端者でしょうね」

「…………誓うよ。やれる、ことは、知れているが……私は、生涯、亜人種に手を出さない」

「そんな誓いが、どれだけ無意味なことかを、私は知っているのよ」

「そう、だろうな」




「それでも、信じてあげましょう。どうしてかしらね?」

「知らないさ。ちょっと、想像も、つかない……」

「あの少年を、守ったからかも。私も、あの子も、子供好き。目をキラキラとさせながら、天幕の下ではしゃいでいる姿は、とても愛おしいものよ。貴方は、いつか……子供をサーカスに連れて行きなさい」

「ああ、絶対に……」




「貴方の覚悟になんて、一切の期待はしていないから。私と、リングマスターたちで世界は変えてあげます。帝国兵どもを、これからも殺して、勝利を繰り返す。誰もが生きていてもいい世界を、暴力で作りますから。そのときは……」

「……君は、サーカスに戻るんだね」

「その予定よ。いつか、人魚がいるサーカスに、来てみるといい。私と、息子がいるわ。見えないけれど、私たちのそばには、夫もいるの」

「……だろうな。私は、死んだとしても……家族のそばに、行くよ。しがみついて、離したくないと思うものだ」




「おかしいわよね。どんな人種でも、ちゃんと愛を理解しているのに。昨日も、今日も、明日も殺し合うの。悪い時代だから、ちゃんと、変えてやらないとね。天幕の下に、戻れないから」




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