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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その六百


―――サメに食い荒らされていく帝国兵どもと、恐怖に負けて自害する帝国兵どもがいる。

海があたえてくれる溺死ではなくて、自分の体に鋼を突き立てた。

レイチェルも戦士たちも、生き残らせてくれないと信じ込んでいたからだ。

これは戦争、敗者となれば苛烈なまでの罰を浴びせられる……。




―――ソルジェは祖国を蹂躙されて、破壊し尽くされた。

かつてのガルーナ王国の民は、ほぼ全員が虐殺されているからね。

片っぱしから殺されて、なぶりものにされたあとで殺されて。

家も文化も焼き払われて踏みにじられる、それが戦争で負けるということだよ……。




―――レイチェルの復讐劇は、世界が抱えきれないほどの悲劇のたったひとつ。

それでも彼女は、とてもやさしいんだ。

間違ってはいけない、くだんの物語と言葉だけが使われたんだ。

こちらの戦士たちは誰一人、死傷しちゃいないじゃないか……。




―――仲間想いであり、敵に対してどこまでも厳しいだけだ。

そういう者だけが、けっきょくのところ仲間を死傷のリスクから遠ざけられる。

レイチェルがその母性あふれる腕で抱きしめるべきは、仲間であって敵じゃないんだ。

罰の力に帝国兵どもは壊された、目の前で死んでいく同僚を見ながら絶望を知った……。




―――地獄のような光景のなかで、少年兵は泣き叫んで謝罪をしていたよ。

レイチェルはそんな謝罪に興味はない、海の上で感じられるのは記憶だけだから。

最愛の者と出会った入り江を、いつも彼女は思い出す。

誰もが見たい思い出だけに、心を馳せるものだからね……。




「愛しいあなた、愛しいあなた。昔々、思い出になる場所で。私たちは出会ったの。星々のかがやきの下、波に笑われるようにして泣くあなた。まるで、まるで。死んでしまいそうなほどに悲しそう。海に救いを求めて、やってきた。風の歌を聴くの、それはあなたの心のなかから吹いてくる、あなたにだけ聞こえる、切望の歌。あなたは、くやしかっただけ。あきらめてはいなかったの。無限の困難に立ち向かう、勇気が欲しくて。未来を夢見てた」




―――人魚の歌声は、サメの支配する海面の地獄にも届いていたよ。

彼女たちに与えられた、偉大なる才能のおかげでね。

海中にいる男は、それを聴きながら。

海面を暴れる影を見た、サメたちの影が帝国兵どもを切り裂きながら海中で踊る……。




―――競い合うように、サメたちは敗北者どもを罰していくんだ。

ああ、海に飛び込めなかった臆病者どもも追加として落とされる。

戦士たちが敵船に乗り込み、殺し始めたんだよ。

サメのエサにして、あのサーカス団の可能性を奪い取った連中に罰を強いる……。




「お前たちの、せいだ!!」

「アーティストたちの無念を、知るがいい!!」

「お前らが、すべて悪いんだ!!」

「くたばれ!!オレは、弟を帝国軍に殺されているんだ!!忘れちゃいねえぞ!!」




―――これは、きっと正当な復讐でもある。

海のなかに突き落とされた帝国兵どもは、生きながらサメに食われていった。

次から次に、すべての連中をそうしてもいいだろう。

ボクは別に止めやしないよ、帝国兵どもの多くは反省しない差別主義者だ……。




―――世界を焼き払うような正義が、必要なときもある。

敵をひとりでも残していては、勝利とは呼べない。

差別主義は不死身のしつこさで歴史にこびりつき、無限の復活を遂げるから。

殺し尽くしていけば、それだけマシになるのも真実だ……。




―――歌いながら、レイチェルは冷静だったよ。

パフォーマンスをしているとき、本物のアーティストは周囲のすべてを把握する。

悲鳴を上げていくすべての敵を、泣き叫んで反省する少年兵を。

海に君臨する無数の牙に食われていく者たちを、ちゃんと数えていられた……。




「十分です。残りは、捕虜に。逆らえば、落としなさい」




―――女王陛下に逆らえるほどの愚かな男は、この世にあまりいないんだ。

レイチェルは王冠さえいただいていないけれど、この場ではまさに女王。

赤い復讐の支配者である彼女は、すべての戦士たちに命じていた。

捕虜にしろと、冷徹なまでに計算していたからだよ……。




「全員、殺すんじゃなかったのかい?」

「作戦ですから。歌は、真実ですよ。でも、私は、すでに『パンジャール猟兵団』の猟兵なんです。職業倫理を、順守するの。これだけ減らせば、安全に、管理してやれる。尋問もするといい。何でも、彼らは話してくれるでしょう。話さないと、どうなるのかは理解しているでしょうからね」

「……サーカス・アーティストの、偉大なる芸術に、心からの尊敬を」

「ありがとう。海の男にほめられると、いつだって嬉しいものね。きっと、あのひとは少しだけ、嫉妬してくれるから」




―――少年は、女性の恐ろしさをよく知ってしまう。

芸術というものが見せつけてくれる、数多の恐ろしい真実のひとつだね。

レイチェルは敵の心をことごとく破壊して、死傷者を適切な数にしたんだ。

あまりにも猟兵として正しく、彼女は職業倫理を全うしたのさ……。




「それでは、少し。試みるべき行いがありますので」

「……ああ。やってみるがいいさ。この海では、あんたがいつだって女王陛下だ」

「そうなんですよ。分かっていただけて、嬉しいです」

「早く行くがいい。手遅れになっちまうぞ」





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