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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百八十四


―――男は結婚して、強くなれた。

大きな決意を固めながら、仲間を集う。

長く長く、蓄え続けた知識と。

ゆっくりとだが勝ち得ていった、サーカス仲間たちからの大きな信頼……。




「ボクとレイチェルは、新しいサーカス団を立ち上げようと思う。たくさんのサーカス団が廃業の危機にある。亜人種のアーティストたちが、次から次に排斥されているんだ。彼らの、居場所に、なってあげたい。最高のアーティストたちが、人種の違いなんかで仕事を奪われている!サーカスをしたいのに、させてもらえないなんて、間違っているじゃないか!」




―――無限の地獄をさ迷うように、無力な無才な努力は重ねられた。

それらが、とうとう報われる日がやってきた。

多くの者を説得できたのは、誰よりも下手で才能の無いアーティストのくせに。

誰よりも誠実で、サーカスを愛していたからに他ならない……。




―――男は理想と夢のために、立ち上がる日がやってきた。

多くの仲間が、男の目指した道に光を見い出していく。

サーカスの天幕の下から追い出された、多くの亜人種たちが。

もろちん、男のサーカスに惹かれた人間族のアーティストたちも集まってくれた……。




―――サーカス・アーティストたちは、いつの世も変わり者が多い。

それでもアーティストとして、主張したい真実を胸に秘めていた。

観客を前にして舞台に立つということは、主張したい真実があるからだ。

バカにされても笑われても、世界はこうあるべきだと命で表現する……。



―――世界が間違っているのなら、正しさを示すために生きるのみ。

サーカスを奪われて、命も尊厳まで奪われているのに。

立ち向かわなければ、生きている意味さえなくなってしまう。

すべてのパフォーマンスは主張であって、真実を告白するための切実な言葉だ……。




―――芸術とはそもそもが政治的な存在でもあるのだから、時代に抗う使命もあった。

誰もが生きていてもいい世界の方が、正しいに決まっているでしょう。

そうではないという意志の下に、大陸のすべてを吞み込もうとする力に挑むのだ。

これは運命、過酷であり正しくて間違っていないのに悲劇となる道の始まり……。




―――私たちは、旅を始めたの。

集まった仲間たちと、各地で集まっていく仲間たちといっしょに。

サーカスを大きくしていきながら、パフォーマンスを磨いていく。

観客の笑顔を見た、子供みたいに素直な心も……。




―――ユアンダートの価値観の囚われになってしまい、歪んでしまった心も見た。

亜人種であることが罪なのか、いっしょに生きようとすることは罰するべきなのか。

そうだと即答するような、政治的な正義の切れ味は残酷なまでに容赦なく。

暴徒を作り、呪いめいた言葉を観客たちの口から放たせた……。




―――悲しくて間違っている時代だからこそ、戦う価値も見い出せる。

どれだけ妨害されても、迷うことはなく進むだけ。

心ない差別の言葉は大きくて、数もどんどん増えていく。

ヒトはちょっとでも自分たちと異なる者を、探しながら罰したがっていく……。




―――エルフの森が焼かれて、ドワーフたちの鉱山は略奪された。

ケットシーたちは奴隷にされて、巨人族は悲しい戦いの道具となっていく。

人間たちは奪った土地と財宝で、豊かになって口走った。

「どうだ正しかっただろう!亜人種から奪って、我々が運用すれば幸せになれる!」……。




―――悪意めいた言葉が、どんどん欲望に姿かたちを与えていった。

豊かさを求めて、他者を殺りくと略奪の対象にしていく。

殺して殺して、笑顔になった。

殺して殺して、こんな世界で生きていくのは怖いと多くの者が泣き出した……。




―――世界がどんどん、間違っているはずの力に引き裂かれていく。

痛みのあまりに泣く者と、奪うことで得た幸福に酔いしれる者がいた。

引き裂かれて世界で、それぞれの耳に入るのは別の音。

悲鳴は苦しむ者だけに、笑い声は奪った者だけに……。




―――アーティストたちは、苦悩を抱えながらも職業倫理の道を進むだけ。

人間族の父親と母親が、人間族の子供たちに亜人種の演技は間違いだと教えても。

亜人種を見て笑顔になるのは、大きな過ちであり正義に反すると教えていても。

笑顔を求めて、技巧と研究の道を進み続けるのみ……。




―――問いかけて、ぶつけてやりたい疑問は多い。

叫ばずにはいられない時代で、表現する力を与えられた者たちなのだから。

どれだけ世界が間違っているのかを、命がけで表現していく。

私たちはそんな時代に、生きる道を自分の決意で選んだのだ……。




―――誰からもこんなに苦しい道を、選べなどだと言われてはいない。

誰からもこんなに自由で、あまりにも喜ばしい道を進めなんて言われていない。

自分自身で地獄を選ぶ、世界を変えてやりたいからこの苦しみを笑顔で。

真の自由の定義はひとつ、無限の困難に自らの意志で立ち向かえること……。




―――憎しみの雨のなかを、怒りと呪詛の嵐のなかを。

駆け抜けて歌い、踊って飛ぶの。

私たちのサーカスは、いつでも命がけ。

そんなに捧げて欲しいのは、きっと難しくもないはずの笑顔……。




―――違う人種の演技にも、ちゃんと笑って欲しいから。

子供たちが笑顔になってくれたとき、私たちは本当の自由を感じられる。

自分たちが正しいことをしていると、何よりも勇気づけられた。

オトナたちに吹き込まれた偽りが消えると、ちゃんと子供たちは笑顔になれる……。




「大好きな、子供たち。やさしくて、正しいのよ。ああ、早く。母親になりたい」

「そ、そうかい。そ、そうだよね。う、うんっ。ボクも……立派な、いいや、立派じゃなくてもいいから、いい父親になりたい」




―――その願いは、ささやかなものでしょうか。

それとも、私たちのような生き方をする者にとっては高望み?

引き裂かれた世界では、ひとつの事実に異なる正義を与えるでしょうから。

すでに問いかける意味が、奪われつつあるの……。




―――呪わしいこの事実が持っている重さに、真実が壊されていく。

ひとつだったはずの真実が、それぞれの暴力が掲げる正義に吞みこまれていった。

正義の特徴は、異なる正義をどこまでも罰して破壊し尽くしたいこと。

純粋なまでの悪意が生まれるのは、いつだって正義のために集まった心から……。




―――ちいさな子供たちの、純粋なだけの耳。

そこに、オトナたちが悪意めいた正義を吹き込んでいくのがたまらく嫌だ。

「違う人種を見て感動しないでください、それは間違ったことなのよ」。

「石を投げて、罵詈雑言をぶつけるのが正しい。あいつらは我々とは違うんだ」……。




―――引き裂く力はいつものように、分かたれた人々を指さして笑うもの。

違うんだ、異なっている。

間違いなんだ、だって見た目も違うでしょう。

そんな笑顔はみにくいから、もっと正しい笑顔を示したい……。




―――笑顔の方法を、差別の力で決められるなんて。

とってもおかしくて、間違っていることだもの。

人種を見るだけでは、何ひとつだって分からない。

どれだけの努力や文化を背負って、天幕の下にいるのかも……。




―――その人らしさはあるけれど、その人種らしさは間違いだから。

サーカスの道は、自身の追求でしかない。

どんな道を歩んできたのかが、パフォーマンスに命と色を吹き込んでいく。

楽しい気持ちや勇敢に高鳴る鼓動を感じてくれたら、笑ってくれるだけでいい……。




――――ここは、私たちにとって地獄のような大陸のなかにある天国だったもの。

天幕の下には軍隊もおらず、どんな親に育てられた子供たちも瞳をちゃんと輝かせる。

間違いなんてどこにもなくて、私の夫は正しかった。

笑顔のためにどれだけの時間と血と涙と汗を、才能のない彼が捧げたのか……。




―――知っているかしら、それだけの行いに。

ただ欲しい見返りは、ひとつだけなの。

もしも、悲しいときや困っているときに。

無限の苦しみに立ち向かわなくちゃならくて、勇気が足りないときは……。




「怒りでも憎しみでもない。誰かの押しつけた正義なんかじゃなくて。ただ記憶のなかにずっといてくれる笑顔にこそ頼って欲しいから。ボクたちは、サーカスをやるんだよ、レイチェル」





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