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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百八十三


―――年月が、ゆっくりとだが過ぎていく。

サーカス団は各地を旅して、たくさんの公演をやり遂げた。

喝采を得た夜も多いけれど、ゆっくりと世の中の雰囲気は変わっていく。

男の願いと現実は、真向からそっぽを向いていたのだから……。




―――帝国の台頭は、大きく世界を揺さぶっていく。

ガルーナというあらゆる人種が共存していた王国が、滅ぼされてしまったと聞いた。

男は大きく肩を落として、世の中は間違っているような気がすると叫んだ。

だが、世の中は男の考え方こそを否定していく……。




「人間族の芸人だけを、使えよ!!亜人種の芸人の芸に、金を払うつもりなんてないからな!!」

「そうだぞ!!この亜人種びいきのクズめ!!」

「オレたちは、こんなサーカスを認めない!!」

「帝国軍の慰問に、君らのようなサーカス団は不適格なのだよ!!人種の構成を、もっと考えてからにしなさい!!」




―――人間族を優遇する政策と、亜人種びいきの『魔王』の国が滅んだこと。

世界はゆっくりと、帝国の掲げた価値観に染まりつつあった。

人間族のために、すべての亜人種が滅ぼされるような時代に。

それは悲しいけれど、どんなにアーティストたちが望んでも変わらぬ時代の流れ……。




「そうでしょうか。私は、そうだとは、思いません」




―――人魚はその時代になっても、毅然とした強さを保っていた。

男はそんな彼女の、女王のような態度に何度も救われている。

自分の考えが間違っていないと、支えてもらって気になれたから。

誰もが生きていてもいい世界は、境界線が隔てていない世界は正しいのだと……。




―――サーカス団のリングマスターは、窮地に立たされていた。

芸術というものは、不安定なところが多くあって。

営業のための許可を出すのは、おおよその場合は政治家だ。

政治が亜人種排斥に傾いてしまった今となっては、サーカスの公演そのものがやれず……。




―――サーカスなんて、雨が降るだけで赤字になりかねない商売なのに。

今度の雨は、あまりにも長くて深刻だった。

ヒトの心にある『悪意』から降る雨は、大陸全土を何年も覆い尽くすかもしれない。

娯楽の世界において、時代の流れとは大きなものだった……。




「何もかもが、変わっていくぜ。今じゃ、どんなパフォーマンスをしたとしても、どの人種だから何だと、くだらん批評を誰もがつけたがる。人間族だろうが、ドワーフだろうが、死ぬ気で鍛練しないと、人様を納得させられるようなパフォーマンスがやれるかよ。そういう努力や、意志に、心ってのは古来、感動ってものをさせられてきたと思うんだが……オレは、間違っていたかね?」

「間違ってはいないわ。時代が、問題なのだと思う。私たちの時代は、人種や生まれよりも能力が評価されていたのに……今は、そうじゃない。芸術には、あまりにも、せまっ苦しい時代になっていくのね。全盛期を、一昔前に過ごせたのは、幸せなことだったのかもしれない」

「時代に、絶望しないといけないのかね。アーティストってのは、どんな時代にも、モノ申さなくちゃならないかもしれないのに……」

「無理すると、刺されちゃうわよ」




「ひと昔前なら、冗談だと笑い飛ばせた。それとも、あれは、オレが若かったからか?若さが減っちまったから、臆病になっちまったのか?」

「あなたは臆病じゃないわよ、怪力芸人のリングマスターさん。体当たりが信条の男を、誰が臆病と呼べるものかしらね」

「そうだ。オレは、そうだな。臆病じゃないが……世の中が、時代のヤツが深刻なんだろう。サーカスのアーティストが刺される理由なんて、酒と色恋と、博打と借金だけだったのに。今じゃ、なんだ?人種の使用うんぬんまで、ケチをつけてきやがるのかよ。どうしちまったんだ、世の中は」

「嘆いても、しょうがないわね。私たちには、サーカスをやるしかない。飛べなくなった踊り子は、水晶玉で占い師よ」




「占いで、導いてくれよ。水晶玉に、何が映る?……オレは、なんだ?ドワーフの岩食い芸人だとか、エルフの投げナイフ芸人を、そいつらの人種っていう理由で、クビにしないといけないのか?そんなリングマスターが、どこにいた!腕前じゃなく、人種で、差別する?おかしな世の中じゃないか……オレは、なんとも、情けないぞ」

「……そうね。抗うもよし。でも、抗いすぎれば……時代は、牙をむく」

「……亜人種びいきの魔王サマよ。なあに、負けちまってるんだか。あんたが負けちまうとよ、亜人種とつるんでいる組織は、裏切られても当然だ、負けるもんだって……ちいさなガキどもは思い込んじまうかもしれないじゃないか……」

「変えたいわね。でも、怖くもある。死ぬのがじゃない。犬死にになるのがよ」




―――アーティストは、基本的に命知らずだった。

芸術の深淵の奥底にあるのは、神秘的な宝物ではなくて。

ただの虚無しか、ないのかもしれないのに。

それでも挑戦するためには、狂ったまでの勇気が必要だった……。




―――そんな勇敢なアーティストたちでも、犬死には嫌だった。

犬死にどころから、自分たちの戦いや死が敵に利用されかねないところも。

亜人種との共存を唱えた者がみじめに死ねば、それが正しいように思われる。

そんな共存など唱えるから、殺されてしまうのは当然なのだと……。




「ありふれたことは、まるで真実のような素振りをするもの。私たちの挑戦が、失敗となって。その失敗が多く転がっていれば、敵は利用する。人間族第一主義が正しい。刃向かう者を見ろ、みじめに横たわっているじゃないか。そうだ、そうだ!帝国と皇帝ユアンダートは正しいのだ!……そんな風に、政治利用されちゃうのが嫌だわ。政治家も軍人も、そういう悪趣味な行いを、平然としてしまう時代になった」




―――時代を嘆くのは、何だか年寄りじみていて嫌だけれど。

サーカスと共に、時代をいくつか歩んできたものたちは。

懐古にひたり、現在の情勢を嘆くばかりだった。

ヒトがサーカスを見るときの認識から、人種という色眼鏡を外したいのに……。




「今日も、エルフの女の子が殺されていたわ。何もしていないのに。十二才の女の子が、どんな悪さをするというの?棍棒で殴り殺されてる。レイプもされたかも。殺されて、路地裏に捨てられていたのよ。どんな悪人が犯人なのか。分かっている。どうせ、帝国支持者の人間族の若い男たちだわ。でも、取り締まりはゆるい。犯人は、『また』捕まらないかも」




―――ユアンダートは戦争上手だったし、ヒトの心を惑わす大魔法使いでもあった。

人種差別という力は、あまりにも大きな力だった。

世界をガッツリと引き裂くように、その力は暴れている。

以前から確実にあったその闇深い力に、姿かたちを与えたのは政治の言葉だ……。




―――差別の言葉を、政治が使えばこうもなる。

感情に言葉を与えたとき、悪意はあまりにも大きな破滅をもたらした。

憎い憎い、違う人種が恐ろしいのだと。

自分たちだけで、集まっていれば少なくとも安心だと……。




「レイチェル、公演も少なくて、収入が下がっている今だけど。伝えておきたい言葉があるよ。どうか、ボクと結婚してください。こんな、苦しいときに、プロポーズする間抜けを、許してほしい―――」

「―――待っていたわ。ずっと、前から。遅いぐらい。あなたは、本当に……のろまだけど。私を、本気の笑顔にしてくれる!」




―――暗い時代にも、明るい話題があった方がいい。

世界がゆっくりと、彼らの理想と夢を裏切っていたころ。

人魚と男は、結ばれた。

公演許可が降りなくても、その夜はあらゆる人種のアーティストが演技を捧げた……。




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