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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百七十八


―――人魚の自由な演技は、素晴らしいものだったが。

さすがに、演技内容に限界が来つつあった。

バリエーションが見つからない、道具と語り合える彼女であっても。

道具の数だって、有限なのだから……。




―――サーカス・アーティストの心にある、虚無的な恐怖と初めて出会ったときだ。

母性的なほど観客に与えたいと考えている者も、同じパフォーマンスだけでは限度がある。

いつくしむためには、多様性が必要なものだった。

良い意味で複雑になっていくべきで、ひとりでは限界も早く来る……。




―――サーカスのリング/舞台は、大勢の観客に囲まれて。

大勢のアーティスト仲間たちも、すぐそばにいるはずなのに。

舞台の中心で孤独を感じてしまうときもある、限界を感じてしまったときだ。

それが心のなかに、他者と融け合うのを拒む輪郭的な限界を描いてしまう……。




―――そうなってしまうと、サーカスの天幕のあちこちにある闇が怖くなった。

そこにどんなバケモノが棲んでいるのか、いないはずのバケモノを感じ始める。

舞台に立つあらゆるアーティストは、多かれ少なかれこの感覚に襲われるものだ。

想像力の高さとストレスが合わさると、大勢の中心でも孤独に襲われる……。




―――多くのアーティストを壊してきた、恐ろしい重圧だった。

人魚はそれを、楽しんでもいるが。

この重圧との戦い方を、まだ知らない初心さがある。

そこまでを伝授するには、さすがに時間が足りなかった……。




―――この『どこまでも楽しい場所』にいるのに、不安がどんどん膨らんでいく。

自分の心の珍しい変化を、勇敢さにあふれた自分の変化を楽しんでいる。

不安がくれる震えに、人魚は面白がってはいた。

だが、アイデアの数がない……。




「どうしよう。困ったかもしれない――――」




「皆さま、新たな演目の時間です!」




―――救いの主が現れたような気がした、だが彼女は負傷しているはずだ。

立って歩いているけれど、それはどこかムリしている動きだ。

観客は気づかない、高綱渡りの花形の再登場に喜んでいる。

まだ理解していない、これが虚構だということを……。




―――だが、虚構か事実かはさほど意味がないかもしれない。

虚構だと気づいているのに、人魚は魅了されているからだ。

彼女を見つめてしまう、高綱の高みの上から。

何かが始まることに、期待していた……。




―――観客が悲鳴を上げた、罵るような声もだ。

ピエロがわざとらしく登場して、彼女に『バレバレなのにコッソリ』と近づく。

「やめろ!」、「邪魔をするな!」。

彼女は気づいているはずなのに、演劇のお約束にしたがい布を奪われた……。




―――彼女はこけそうになり、リングマスターに支えられる。

大きな声でリングマスターが怒鳴り散らすなか、舞台を滑稽な動きで逃げ回った。

その必死な動きは、演劇じみていなかったが。

観客を笑わせるには、十分な面白みがある……。




―――男ではなくて、リングマスターの動きがあまりにも上手だったから。

ピエロを捕まられそうで、まったく捕まえられない大男は何ともコミカルだ。

ピエロは逃げて、高綱のための柱を登り始める。

人魚は手伝うべきかと思ったが、男は拒むために首を振った……。




「そうじゃないんだ。レイチェル、ボクは、君に……新しい演技を伝えに来た。新しい道具の使い方の、『失敗』を君に伝える。君は、成功してくれ」

「なんだか、分からないけれど。やってみて……ねえ、貴方は大丈夫?」

「大丈夫。死なないように、リングマスターに受け止めてもらうから。ねえ、レイチェルそっちにボクがついたら、コミカルな動きで、ボクを殴る真似をして」

「リングマスターさんみたいな、動きで?」




「まさに、そうだ。そのケンカをするあいだに、エアリアルについて、ちょっとだけ伝えるから。君は、そのあとで、やってみて。絶対にできるから。もちろん、ボクの失敗は、真似しないようにね!」

「でも……ええ、分かったわ。貴方たちの覚悟は、よく分かったから。どんな危険なことでも、止めるべきじゃないのね?」

「もちろん。怖くないと、危険じゃないと、本物のサーカスにはならないから。美しいだけでも、スゴイだけでも、まだまだ足りない。本当に、人を喜ばせるためには、スリリングな危険さもいるんだ。ハラハラしないと、心は解き放たれないんだ」




「サーカスのことは、まだまだ勉強する必要がありそうだわ」

「ああ。もちろん、とっても奥深いものだから。君は、すごく、才能がある。ボクの一万倍か、十万倍、それ以上の、才能のカタマリなんだ。だから、もっと……知るべきだよ。知れば知るほど、君は、サーカスをもっと楽しめるし……もっと多くのお客さんを、笑顔にしてあげられるんだから!」




―――高くて揺れる、柱の上に。

男と人魚は、再開の場所を作った。

見つめ合ったのは、わずかな時間だ。

観客が作ってくれる文脈が、人魚になすべきことをさせるから……。




―――殴った、ぽかぽかとした可愛らしい動きで。

ケガをさせる威力はまったくないし、そういう意図ではない。

ただピエロの役回りを完成させるため、ピエロは逃げ回りながらも。

観客たちに笑われて、最後の任務に取り掛かる……。




「これから、痛い目に遭う。落ちるけど、学んでね!」




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