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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百六十五


―――才能は、周りを自分に尽くさせるところがあった。

望もうと望むまいと、人魚にはその才能があるのだと男は確信している。

このサーカスの天幕の下でなら、圧倒的なまでに彼女は輝けるに違いない。

それに男は賭けてみるべきだと思った、まだ彼女の意志を聞いてもいないのに……。




「何か、策があるのなら、やってみて欲しいの。ちょっと、私、ムリそうだからね。お客さんたち、たくさん見に来てくれているもの」

「う、うん。それじゃあ、ちょっと、協力してくれないか」

「リングマスター/団長には、私から口添えしておく。あなたは、実力はないけれど、目は肥えているから。だから、クビにならずに今日までやってこれた」




―――不名誉だと思えるほど、実力もないのも確かだった。

才能はまったくもってない、欠片もない。

だとしても、目だけは肥えているし知識は蓄えられているから。

努力が裏切らない分野に、知識というものがある……。




「そういうしつこさに、賭けてあげるわよ」

「う、うん。絶対に、説得してみせるから」

「そう。それなら、やってみて。珍しいことだけど、期待してあげる」

「期待されるのには、なれちゃいないけど。今回だけは、成し遂げるよ」




―――どうにかこうにか、やり遂げるのだと覚悟を決めながら。

男はお客さんたちの間を抜ける、アーティストだとは気づかれない。

良かった、ショーの邪魔にならなくて助かった。

自分の得意分野である、『目立たない』という点は……。




―――サーカス・アーティストとしては、とてつもなく致命的ではある。

まあ、今夜はそれが苦にならない。

お客さんたちは舞台に夢中になってくれているし、人魚は自分を待っていてくれた。

魔法が解けた絵本の1ページみたいに、泡になって消えてなくて本当に良かった……。




「奇跡みたいな、ものだからね。君と出会えたことは」

「……あら。愛の告白ですか?」

「そ、そう……そ、そそ、そうじゃあ、ないんだけど。で、でも。その、あの、ひ、一目惚れはしていて」

「でしょうね。私の、跳躍に」




「君なら、やれるよね」

「先ほどの方が、やろうとしていた行いですか?」

「動きを、予測していたかな。あのロープの上で、跳んで跳ねて、踊るように回る。華麗に、美しい。キレイで、ワクワク、ドキドキさせるものだ」

「そのような考え方で、跳んだことはありませんが」




「大丈夫。ボクが保証してあげるよ。君のなかには、もうあるんだ。サーカスは、君の心に宿っている。理解力が高いし、何より、ここは……きっと、君にとって、大切な場所になる。才能が、あるんだ。圧倒的な、才能が。入り江で、見たよ。星空で、君は……」

「あれは、あなたのために飛んだだけです」

「今度は。世界のために、飛んでみて。みんな、ね。幸せだとは限らないんだ。辛くても、それでも、みんなどうにか楽しみを得ようと、がんばってここに来るんだ。お金だって、安くはない。貧乏な子たちは、こっそりのぞくようにテントのすき間から……子供を亡くした母親もいる。戦死した恋人との思い出をたどるようにして、ここに来た女の子もいる。親を亡くした孫といっしょに、来たおじいさんも。みんな、みんな。不幸だけど、だからこそ、笑顔が必要なんだ!」

「ああ。そうなのかもしれませんね。だって、貴方は―――」




―――そんなに必死な顔をした人物を、見たことはない。

ここに集まる者たちは、この男にとって他人のはずなのに。

地上に不幸があふれているなんて、当たり前のことなのに。

謎は人魚の心をつかむ、どうしてこの人はここまで他人に笑顔を届けたいのか……。




「お願いだよ。ボクには、どう転んでもできやしない。でも、レイチェル。君になら、やれるんだ。みんなを、がっかりさせたくない。さっきの演技の続きがあると、みんな信じている。期待している。いちばんの演目を見せないで、お家に帰らせるなんて……それは、ダメなんだ。君に、頼るしかないのが、情けないけれど……君なら、やれる。だって、ボクを笑顔にしてくれたんだから」




―――ふむ、と人魚は考えた。

誰かを笑顔にしてあげることが、この男の幸せなのかもしれない。

笑顔でいる者を見れば、何故だか不思議と自分も嬉しい気持ちになれるからかも。

いや、あるいは……。




―――いずれにしても、すべきことは決まった。

笑顔の価値を探るために、やってみよう。

ロープの上で跳躍したことはないけれど、人魚の才能に不可能はない。

むしろ、さっきの人間族は……。




―――ああ、努力をしたのだ。

とてつもない努力をしなければ、人間族の身体能力ではロープの上に立てもしない。

不測の事故さえ読み解けるほど、道具と会話したりもできない。

ここにある芸術たちは、努力に磨き上げられたものばかり……。




「お、お願いだ。レイチェル。君の願いを、言ってくれたら。何だって叶えるから」

「ええ。その言葉、聞き届けましたよ」

「じゃ、じゃあ!」

「やってあげます。貴方の笑顔は、とても興味深い謎がありますから」





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