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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百六十一


―――やるべき道はただひとつ、絶え間なくて終わりのない努力の日々だ。

演目をにらみつけるように見て、アーティストたちの動きと技巧を記録していく。

ただひたすらにメモを取る、疑問を追求しながら資料と質問責めだ。

周りに変人あつかいされながらも、無才の者はただただ努力をつなげるだけ……。




―――誰よりも能力が足りないのなら、誰よりも努力をすればいい。

大好きなことだから、そのためなら耐えられる。

愛情は闇雲で、魔法のように力を授けてくれた。

どれだけ苦しくても耐えられる、真の努力家は歩みを止めぬくじけない者……。




―――習慣に頼って、自分を律するのだ。

誰よりも早く起きるのだ、すべての道具の手入れをする。

すぐれたアーティストたちは道具を愛して、道具の声さえ理解するのなら。

そんな声が聞こえない非才な自分は、語ってもらえないなら傍らで耳を澄ませるだけ……。




―――発見があるはずだ、数多の伝説的な先人アーティストたちが残している。

実践すべき教えは山ほどあって、それらをひとつひとつこなしていく。

道具の寿命も特質も、それらに宿っている歴史という経緯さえも。

ひとつひとつ紐解いて、アタマでどうにか理解していけばいい……。




―――いつか天才じゃなくても、道具の声が聞こえるかもしれないから。

努力の量に同情して、道具たちが語りかけてくれるかもしれないから。

あらゆる努力をしよう、たとえ周りからトロ臭いと罵られたとしても。

自分はまったく無価値なような気がして、吐き気に襲われたとしても……。




―――大好きだったのだ、サーカスが作ってくれた場所が。

人々を笑顔にするためだけに、この現実の世界に食い込むように現れた魔法の場所だ。

日々の苦しみは、人々に重たくのしかかるもの。

はたらくことはとてもつらい、それでも逃げるわけにはいかないから……。




―――苦しみながらでも痛くても、壊れていきながらでも。

誰もが大切な自分や大切な誰かのために、はたらくものだ。

血と汗をながして、幸せを目指してもがきにもがく。

愛する者のため、家族のため妻のため夫のため子供たちのため老いた両親のため……。




―――過酷な日々のなかでは、笑顔は失われがちだと男は知っている。

だって、現実というものはあまりにも残酷で容赦がないのだから。

その苦しみは笑顔を奪い、体も心も疲れ果てさせてしまう。

男もながく放浪の旅をしていたから、誰よりもその事情は分かっているつもりだ……。




―――もちろん、他人の苦しみは誰にも理解は出来ない。

固有の痛み、固有の苦しみ。

そういうものを真に味わい背負えるのは、ただただ自分だけしかいないのだ。

非才な者の努力がもたらす苦しみの道が、ほとんど誰にも理解してもらえないように……。




―――才能がなくても、あきらめることはない。

努力の方向だって正しくないかもしれない、天才たちの残した教えを理解できているのか。

間違った解釈で、それらを認識していたとすれば。

すべての努力が、あらぬ方向へとただひたすらに伸びてしまうだけ……。




―――誰にもそれは分からない、男はそれでも努力するのみ。

本だって読んでいく、あらゆる土地に伝わる物語だ。

それらを現すために、多くの芸術が生み出されていったのだから。

芸術は自分の心の奥から来るのかと、男は思っていたけれど……。




―――少なくない数の芸術が、自分の『外』に根源を持つのだと知る。

白鳥の動きもそうだ、圧倒的に詩的な優雅さだけで。

人々の心を一瞬でつかみ取る術は、『外』から得られたと。

だが『外』から得られた着想は、記憶となって技巧と哲学を帯びて……。




―――それじゃあ、けっきょく自分の内側になっているような?

外なのか、内側なのか。

芸術の根源は、けっきょくのところそのどちらもであって。

それらを右往左往することが、高めていくことになるんじゃないかと男は思った……。




―――むずかしい、それほど賢くもない男にとって読書は難度のある行い。

間抜けなまでの曲解も、彼にはありふれてしまっていた。

芸術にまつわる著作というものは、何とも不可思議で感覚的であるくせに。

それらを理屈にまで昇華しているから、それなりに高等かつ特殊な理解が必要だ……。




―――「たったの一秒で、それらを理解して演技に活かせる者もいる」。

「それが天才ってもんでしょう」、「あんたにはそれがなかったのさ」。

「あきらめても、別にいいと思うよ」。

「だって、誰にでも限界ってものが、わきまえるべき領分ってものがあるんだから」……。




―――天才たちが、いくらでもいるのがサーカスの世界だった。

多くの者があこがれて、特別な才能を開花させた者が残っていく。

それ以外はあきらめて、いつかは別の道へと逃げていった。

逃げることはある意味では、とても健全なものだ……。




―――くじけそうになったとき、心は悲鳴を上げて助けを呼んで。

助けを呼んでもどうにもならないときは、逃げ出すだけ。

逃げ出せもしないときは、最終手段となる。

運命に立ち向かい、戦うことを選ぶのみ……。




―――泣き叫びながら、逃げたくなる脚を意志で押さえつけて。

ただひたすらに戦い続ける、それはこの世の地獄のひとつ。

努力を続ける、ズタボロにすり減りながらも人生を捧げ尽くしていく。

それは多くの者からも笑われて、周囲からも否定される日々……。




―――それでも男が、それをやめることはない。

どれだけ多くの間違いをしても、どれだけ多くの挫折に打ち負かされたとしても。

だんだん周りは、恐ろしくなっていく。

「どうして、そんなにがんばれる?」……。





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