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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百五十六


―――殺したって、構わない。

レイチェルの、というか復讐者の『優れている点』はその感覚に尽きる。

一切の躊躇なく敵を殺せるのは、得難い才能だよ。

この狂暴性を秘めているからこそ、レイチェルは踊り子にして最強の戦士だ……。




―――芸術家のひとりであるボクが言うのも、少しおかしなことだけど。

基本的に芸術家は、あまり殺人を好むものじゃない。

むしろ、多くの場合で殺人や軍事行動を嫌うところがある。

そういう行いは、芸術の目指すものではないという認識が漠然とはあるのさ……。




―――でも、ボクは『ルードの狐』でもあるから猟兵になれた。

殺すことにも、戦うことにもあまり抵抗がない。

復讐者レイチェル・ミルラは、生粋のサーカス・アーティストだったけれど。

復讐の衝動ゆえに、芸術家の認識を良くも悪くも拡張しているんだ……。




―――『演出』という芸術の力で、敵を恐怖に陥れようと考えている。

それは、夫やサーカス団の仲間たちを殺された恨みを。

彼らから得た力で、敵を殺すことで晴らそうとしているのかもしれない。

帝国兵は、彼らのサーカスを見もせずに皆殺しにしたからね……。




「……膠着状態に、なったな」

「帝国兵にしては、大きな失態です。包囲されようが、思い切っていずれかの方向に走るのが定石というもの。つまり、新米の指揮官のようです」

「まだ、不慣れなわけだ」

「この膠着状態の緊張感にさらしておけば、そう長くは理性を保てないでしょう。判断ミスをしますよ。すでに、判断の遅さという悪癖を見せつけました。戦場という空間は、恐怖が己の悪癖を引きずり出す。プレッシャーをかけていけば、必ず失敗するでしょうね」




―――レイチェルの読みは、的確だったよ。

敵船の指揮を執っている帝国兵は、それなりにベテランではあったが。

作戦のリーダーにされたのは、今回が初めてだったらしい。

帝国軍だって、無限の戦力があるわけじゃないからね……。




―――とくに負け戦が続いたあとでは、現場で活動可能な戦力は極めて少なくなる。

ルルーシロアが暴れていること、ロロカたちの作った勝利の結果も作用していた。

あくまで帝国軍は、守備的な反応を選んでしまっている。

保守的な守り、我々との境界線を大きく『前』に逸脱するつもりはないのさ……。




―――それでも、あらゆる組織がそうであるように。

完全な一枚岩であるはずもなく、どうやら偵察を押し付けられた部隊がいたらしい。

保守的で守りに入る選択が、どうも正しくないと感じている血気盛んな士官もいる。

そいつらが全体の意向に反して、積極的な偵察をさせたがったようだ……。




―――あまのじゃくな者はいるものさ、十人も士官がいれば一人以上は確実に。

そして、十人の士官がいれば一人は必ず金や出世欲の虜でもある。

周りを出し抜くことで手柄を立てたい、そう願う男がどこかにいたのさ。

そういう男が、組織全体の輪を乱してしまう……。




―――レイチェルたちの目の前にいる連中は、その種の組織内政治の犠牲者だ。

有能な人材が投入されることはないよ、そういう人材は他の士官も確保しているからね。

誰も期待していないセカンダリー/二線級、経験値のない軍曹あたりが選ばれる。

戦術も指揮能力も、まだ試され切っていない『無名の男』だ……。




「て、敵に包囲……されました……っ」

「み、味方は、来ないんですか……っ」

「単独での、任務だ。距離を置いた偵察……どうして、この闇のなかで、気づかれたんだ」

「りゅ、竜が、いるのでしょうか。『蛮族連合』の、りょ、猟兵と呼ばれる者が、竜に憑りつかれている片目の男……」




「竜など、いない。少なくとも、我々の上空には」

「た、戦えば。竜が、この場にいなくても、ぜ、全滅ですよ」

「う、うろたえるな。夜の闇は、こ、こちらにも有利なんだから……っ」

「に、逃げ道は、ないようです……え、選ぶしかない」




―――投降して捕虜になれるかを試す、あるいは命がけで戦ってみる。

捕虜になったからといって、助かる保証はない。

命がけの戦いをするのも、まあ悪くはないよ。

夜の闇のなかでなら、互いに放つ矢が当たりにくいからね……。




―――レイチェルによって、漁師たちの船も間合いを詰め過ぎてはいない。

一か八かで、漁船のあいだを抜けるように突撃を試みるのも悪くないよ。

まあ、包囲が不完全だったのは漁師たちの戦術理解能力の低さと。

レイチェルがあえて見逃しているからだ、逃げ道を見せることで考えさせている……。




「有能さが、分かるのですよ。この逃げ道を見抜けて、素早く突破を試みられるのなら、実力不足であっても、悪くない指揮官です。セオリーに対して、思い切りのいい博打をやれる者は、たとえ実力で劣ろうとも、勝利や成功を勝ち取る可能性を持ちますので」

「こいつらは、そうじゃなかったらしい」

「ええ。ムダに、迷いましたからね。判断力の遅さは、あまりにも部下に対して無責任。そのせいで、戦わずして死ぬかもしれない」

「何か、策で揺さぶるんだな?」




「人の心は、言葉と感情で作られているもの。言葉で、いじめてあげましょう」

「ふ、む。やってみたらいい。ムダに戦わなくていいなら、それが最高だ」

「いつでも矢を放つ準備は、崩さないように」

「もちろんだ。敵がいらん真似したら、ぶち殺してやるよ」




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