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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百四十三


―――夢を見たらしい、やさしくて残酷な夢でもある。

敵対する者との差が、もっと明確だったら良かったのかもしれない。

気高い敵などは、この世にいなくて。

善と悪の境目がいついかなるときでも絶対だったら、もっと気軽に生きていられる……。




―――そういう世の中が、もしもあったとすれば。

幸せなのか不幸せなのかを決めるのにも、ずいぶんと困ってしまうだろうけれど。

現実は物語とは異なっていて、あらゆる者の思惑が融け合っている。

正義の敵は正義で、善と悪は表裏で一体……。




―――血まみれにされた、妻と娘を抱きしめて叫ぶ。

誰がやったのかと叫んでも、誰も答えを知る者はなし。

神々が答えてくれることもない、復讐すべき相手はどこにもいない。

バハル助言をくれてやる、子を亡くした男の気持ちは誰よりも分かるから……。




―――強く生きるのだ、武勲の名誉は死後の世界にも届くだろう。

ガルーナ王国と長らく同盟を結んでいたその土地には、かつて似通う騎士道があった。

何もしてやれない男の選んだ道は、従軍と祖国と皇帝への奉仕の道だ。

名誉が死を越えて、気高き勇士の妻子を冥府で守るようにと……。




―――長い長い戦いの果て、多くの周りの者が犠牲となっていく。

犠牲が募るほどに、自分の道が固まった。

バハルのように姫さまへ尽くし、ただ生き抜くのみ。

バハルとの道は、少しずつ離れてもいった……。




―――エルフの妻を持つ者に、亜人種に妻子を殺されたかもしれない者は同調できない。

当然のことだった、世の中はあまりに複雑すぎるだけのこと。

祝うべきこともある、帝国は躍進を続けていた。

ソナーズ家の姫さまは、皇帝の息子と恋仲になったようだ……。




―――本当の恋などとは、口が裂けても言えないもの。

姫さまが愛する者は、別にいたのは知っている。

だが、そんなことを意識する必要もない。

貴族の社会とは、そんなものだ……。




―――真実と虚構がない交ぜで、正義はいつでも純度がある。

真実も虚構も、正義の力で無視すればいいだけのこと。

矛盾の多い真実が、ヒトの不完全さの証だと思えばいい。

正義こそが、意志の成し遂げた唯一無二の確たるものだと……。




―――女神イースに、真実の愛を誓った日を覚えている。

妻となる乙女は、花冠に祝われて。

青空の下で、宝石みたいな瞳が光った。

娘が生まれた日も女神イースに感謝を捧げた、真実の愛を知る……。




―――偽りは、不実であったけれど。

意志の創り上げた正義は、それをも許容するのか。

ちいさな手、花冠の笑顔。

握りしめて、永遠を誓ったのに……。




―――残酷な死に汚されて、運命の意地の悪さに叩きのめされる。

冷たいふたりを覚えている、雪や氷よりも冷たい夏だった。

慟哭を知り、真実を嫌う力も身につける。

悩むよりも楽な道に、堕ちていくだけ……。




―――たとえやさしい姫さまが、人買いの女王になったとしても。

偽りの愛に、政治的な道を見い出したとしても。

ニセモノだらけの正義のなかで、みんなが生きていけばいい。

苦痛に耐えるのも、意志がもたらす奇跡の力だ……。




「……疲れちまったよ。死に底なっちまったから……」

「戦士ならば、傷を癒して次の戦で死ねばいい。戦って死ぬのが、おそらくお前のような男らしい生き様であり、死に様だ。悩むことはない」

「……戦場で会えば、お前を殺すぞ」

「無理だろうが、試す機会はくれてやろう。我が名は、リエル・ハーヴェルだ」




―――恐怖と尊敬を得る、大魔王の后の名前を男は聞いた。

男も自分の名前を、告げておく。

歴史の残酷さか、あるいは慈悲か。

この二人が戦場で再会する日は訪れず、永遠の別れはこのとき訪れる……。




―――帝国軍第九師団の残存部隊をまとめた帝国兵が、この拠点にやってきた。

キートと呼ばれる男だよ、レヴェータに破壊された『トルス』で。

ソルジェたちと協力した、名もなき帝国兵の青年。

階級が一つか二つ上がったらしく、それでも辺境出身者らしい立場にいた……。




「……ソルジェ・ストラウスのヨメどもがいる部隊と、また会うなんてな」

「何とも奇遇っすね。『トルス』からよく生きて逃げられたっす」

「なかなかの地獄だったぜ。しかも、捕虜交換の交渉係をやらされてる。オレ、あんたらのスパイだとか思われているのかも?」

「情報、大歓迎っすよ!」




「笑えねえって……でも、まあ、悪くない任務かもな。そこそこ名誉ある仕事だと思うぜ。軍隊のなかにいて、仲間を死から助けられる仕事って、そうあるもんじゃない」

「そういうのに、向いているんすよ」

「……ん。そうかい。だったら、ちょっと、嬉しいかな」

「だから。こっちの捕虜も、死なないようにして欲しいっす。自分たちは、捕虜を痛めつけたりはしていない。戦いで死ぬのは、当然っすけど。戦いが終わったあとは……」




「……帝国の考えは、ともかく。オレは、その……思うよ。あんたらに助けられた立場だったから。それに……そもそも、戦であっても、ヒトが死ぬのって良くねえ……でも」

「でも、何っすか?」

「……すまねえが、ヒトあつかいしちゃいないからな」

「……どうして、そこまで……」




「田舎者のオレには、よく分からねえ憎しみがあるらしい。帝国軍は、オレにとっちゃ、文明的なもんだったのに……個人的には、嫌だよ。でも、周りは……亜人種には残酷だ」

「……はあ、リエルちゃん、憎まれ役をしてまで、助けたのに……」

「そうかよ。じゃあ、きっとね。それはムダにはならねえよ。ヒトから受ける影響って、何だかんだと大きいから。皇太子に殺されかけたオレたちは、嘘ばっかりの帝国軍に、前ほど従順じゃねえ。ちゃーんと、変わってる部分もあるから、そこは残念がるな」

「じゃあ。個人的にでもいいっすから。とにかく、こっちの捕虜が死なないように、がんばって欲しいっす!ほ、方法は、自分には、分からないっすけど……っ」




「んー。捕虜交換のカードとして、必要だって言い張ればいい、かな。そしたら、オレが周りから怪しまれることもない。ただの、『仕事熱心な男』でいられる」

「なるほど!賢いっすね!」

「そうじゃないと、下っ端は生き延びられないんだよ。皇太子の悪行を知っちまった場合は、とくに!」

「あはは。でも、心強いっす。ちいさいけれど、少しは、確実に……っ。世界を、変えられているんすね!」




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