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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百四十


―――帝国兵は強情だったね、ときどきいるものさ。

筋金入りの亜人種嫌いという者は、いついかなるときも亜人種を信じられない。

ここには人間族の薬草医たちもいたけれど、『自由同盟』と絡んだ時点でダメだった。

『汚染されている』と信じ込むのさ、じつにありふれた誤解である……。




―――ガンコな男だった、刻一刻と生きるための確率は落ちているのにね。

亜人種を汚らわしいと信じているし、自分の体に悪影響を及ぼす薬しか使わないとも。

わずかに動く体を使い、投薬を拒んでいる。

助けるべき負傷者はそこら中にいるからね、状況によればこの男を無視すべきだ……。




―――医療行為を拒むのだって、ある意味では当人の自由ではある。

死にたいのなら、死なせてやるのも個人的には悪い選択とは思ってはないよ。

それでも、リエルがこの男の強情さに付き合ってくれるとは限らない。

カミラがそばにいるんだ、『吸血鬼』という圧倒的な力を持つ者がね……。




「カミラ、その男を押さえつけておけ」

「は、はいっ!」

「……やめろ!オレに、触れるんじゃない!」

「知ったことか。触れられたくないなら、せいぜい暴れてみるがいい!」




「リエルちゃん!ちょ、挑発しないでっ。この人、き、傷が……深いから……」

「はらわたが飛び出るかもしれんな。縫い合わせたばかりの傷が、また裂けてしまうかもしれん。そうすれば、確実に死ぬ。死にたいか?そんな目に遭って死ぬのが、兵士としての本懐だと言うのか?」

「うる、さい……」

「お、お願いっす。暴れないで、押さえつけてはいるっすけど。き、傷口は、本当に深くて……」




―――はらわたが飛び出るなんて、戦場で捨て置くべき深手だったかもしれない傷だ。

止血の秘薬がなければ、この男はもう死んでいただろうね。

それでも、貴重な薬をリエルは使ったよ。

ユニコーン騎兵の槍に突かれて、生き延びた猛者を評価しているのかも……。




「な、なんて、力なんだ……っ」

「カミラは強い。お前ごときでは、どうにもならん。さて、秘薬を使ってやるとしよう。お前の大嫌いな森のエルフの秘薬をな」

「ふざける、な!そ、そんなものを、オレに注射するんじゃない!!」

「い、いい薬なんすよ!?た、たぶん、生き延びるのはそれしかもうないっす……傷はもう縫い合わせているっすけど。それよりも、深い場所で……壊されている。縫えないほどの深さだから!」




―――『吸血鬼』の血を操る力も、万能というわけじゃない。

出血のコントロールがやれたところで、破綻した傷口のすべてが治癒はしない。

傷口なんて縫い合わせるしかないのだけれど、縫えないほどの深さの傷もある。

リエルが発言していた通り、致命傷を負った半死人というのが診断結果になるよ……。




「一か八かなんすよ。もう、生きるためには、これに賭けるしか」

「毒でも、盛る気だろう……っ」

「それをやる価値があれば、やってやるのだがな。お前を殺したければ、この手で殺しているところだ。弱者には、死ぬ権利さえも奪われるときもある」

「うるさい……我々の敗北は、一時的なものに過ぎん。すぐに、明日にでも。お前ら全員を、八つ裂きにするだろう。帝国は、負けないんだ……」




「試してみるがいい。さて、注射の時間だぞ」

「や、やめろ……っ」

「暴れさせないっすよ。縛ってでも、ぜったいに」

「……その通り。押さえておけ、すぐに終わる」




―――リエルの処置も、ずいぶんと手慣れたものだった。

血止めの秘薬を打ち込んで、そのあとに造血の秘薬も打ち込んでいく。

帝国兵の男は、語彙が許す限りの罵詈雑言を叫んでいたけれど。

リエルの表情が変わることはなく、ただ冷静に処置をしていくだけのことさ……。




「不満そうな顔をしているが、薬は打たせてもらったぞ」

「……余計な、真似を」

「はあ。治療を拒むなんて、悪い患者っすよ!」

「誰が、患者だ。オレは、帝国の兵士だ」




「帝国軍の兵士だったとしても、自力で動けない重傷患者っすからね。治療はするっすよ」

「……ふざけんな。毒ばかり、盛っているんだろう」

「アタマに血が回っていないようだな。同じような言葉ばかりほざいている。だが、それでいい。今はアタマに血を使うよりも、生きるために血を使え」

「うるせえ、エルフめ。呪われた、エルフめ……っ」




「呪われたエルフか。我々からすれば、帝国こそ呪われた存在だ」

「我らが帝国は、あらゆる神々から祝福されている……」

「そうだろうかな。もしも、その言葉が真実ならば、お前はこんな目に遭わされているだろうか」

「試すんじゃない。試すな。そうやって、オレを尋問するつもりなんだな……っ」




「お前にそれほどの価値があるとは、思ってはいない。何か特別な地位についているとでも言うのか?」

「オレは、元・『第九師団』だ……ライザ・ソナーズさまの、部下だった」

「ライザ・ソナーズに、忠誠を抱いていると?」

「その通り。曾祖父の代から、オレの家は、ずっと……ソナーズ家に仕えてきた。帝国の建国に、誰よりも貢献した古き名家……」




「私たちを、恨んでいるらしい」

「……その通りだ。お前たちが、亜人種びいきの『魔王』が、姫さまを……っ」

「違うぞ。ライザ・ソナーズを殺したのは、皇太子レヴェータである」

「ウソを、つくな……」




「ウソをついているのは、お前の方じゃないか?信じたくない事実があったとしても、それと向き合え、大人ならば」

「姫さまは、愛されていた。皇太子レヴェータ殿下に……いつも、笑顔で……」

「笑顔を演じられる女と、お前は出会ったことがないのか?」

「うるさい。違う。殺されたんだ。お前たちに……っ。奪われたんだ。姫さまは、栄光ある未来を掴むはずだった……皇太子レヴェータ殿下のお妃に……やがては、こ、皇帝となられるはずの御方の……皇后陛下となられたはず……その未来を、お前らが奪った」




「敵であったのは事実である。ライザ・ソナーズが生きておれば、我々が暗殺しただろう。ソルジェが女を殺すのをためらうのなら、私がこの手で殺したかもしれん。だが、事実は違う。レヴェータは、邪悪な呪術の虜だった。ライザ・ソナーズも、呪術の生贄にされた。道具程度にしか、思われていなかったのだぞ。そんな目に遭わされた女が、本当にレヴェータを愛していたと?それが見抜けぬ女であれば、アリーチェも懐きはしない」




―――世界はそれほど広くはないからね、その言葉に男は反応していた。

ライザ・ソナーズに長く仕えた者であれば、もちろんバハルたちも知っているからね。

エルフの妻を娶った、勇猛果敢な騎士がいたことはこの男も知っている。

その結婚のせいで、バハルが失墜する憂き目に遭ったことも……。




「あんな結婚を、するからだ……誰も、誰も幸せになっていない。バハル殿も……誰も、彼もが……」

「不幸はあった。幼くしてアリーチェは死んだのだろう。まだ生きる喜びも、死への恐怖や未練も知らぬ年のまま」

「『狭間』だから、そうなる……」

「それは違うな。ただの不幸だ。ありふれた、自然のいたずら。無慈悲で、理不尽な。ただの不幸が幼子の命を奪ってしまっただけ。それでも、そのわずかな時間のあいだ。アリーチェは、ライザ・ソナーズに懐いたのだ。『狭間』だからといって、あの人買いの元締めみたいな女は、アリーチェを嫌わなかったのだろう。それも、ライザ・ソナーズの真実のひとつ。お前は、仕えた主の真実を、どこまで否定したいのか」





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