第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その五百三十六
―――夏の夕日が近づく頃、ロロカたちの前にラフォー・ドリューズが現れる。
『モロー』の大商人である彼は、傭兵部隊の増援と共にやって来ていた。
『ショーレ』の商船を襲撃した犯人どもの末路を、ロロカは聞かせることにする。
『フクロウ』が伝えてくれた情報は、非常に端的なものだった……。
「すべて、倒しました。あちらは『懲罰部隊』と呼ばれる、特殊な襲撃者だったようです」
「『懲罰部隊』ですか。帝国軍も、不思議な部隊運用をしているのですね」
「かなり特殊なケースだとは思いますよ。人体の改造までしていたりしたので」
「……呪術のたぐいを、皇帝は否定しているはずですが……」
「帝国にも派閥があるんですよ。あまりにも急進的な拡大をしてきましたから、一枚岩でいられるはずもない」
「都市国家の連合体である『プレイレス』にも、耳が痛い話題ですね」
「統一された王がいないのは、それはそれで不便なときもあるでしょうけれど。洗練された政治体制でもあると尊敬しています」
「そう言ってもらえると、安心しますよ。まずは、何より。依頼を果たして下さったことに感謝を」
「ソルジェさんに、伝えておきます。もうすぐ、この野戦テントに合流する予定ですから」
「また、戦いに?……私の連れて来た援軍と共に、帝国と?」
「今は、まだやりません。敵も国境沿いで動きを止めている状況ですから。積極的な戦いをするには、疲れすぎている。援軍の方々も、移動の疲れが抜け切れていないでしょうし」
「で、ですね。強行軍でしたから。あちこちに戦力を動かすというのは、商いよりも、ずっと難しいものです」
「ええ。でも、おかげで助かりました。ラフォーさんは商才だけでなく、軍才もありそうですよ。もしかして、大学で?」
「一応は、習いましたね。教本も、久しぶりに倉庫から引っ張り出しました。あまり、戦いが得意だとは自分でも思えませんが、やるべきですから。槍の、訓練も開始しました!」
「む、ムリはなさらないでくださいね。商人としても、政治家としても。『ショーレ』のラフォー・ドリューズさんには、がんばっていただきたいので」
「た、たしかに。戦場で死んでしまうよりは、ずっと、役に立つ……私の才能は、そっちの方で、使うべきか。ちょっと、情けないですが」
「いえいえ。戦闘員だけでは、戦はやれませんので。こうやって、食料も運んでもらえた。おかげで戦士たちは安心して休める」
「『モロー』のためでもあります。ここを突破されたとき、『モロー』が再び襲撃されてしまうじゃないですか。自分たちのためだと思うからこそ、『モロー』の商人ギルドも、私に協力してくれている。数日前までは、ちょっとした裏切り者あつかいでしたが」
「奴隷貿易にまつわる商人や労働者も多かったでしょうからね、『モロー』は」
「そうです。その象徴的な商人の一員だったのが、『ショーレ』でもある。貿易とは、『モロー』においては奴隷を取り扱うという意味だった……」
「時代は、変わっていくものですよ。貴方が望んだ通りの方向に、今はちょっとずつ変わっているでしょう」
「ええ。友の死に、報いたいとも願う。私自身のためでもある。『モロー』を変えます。商人たちも、移り気ですからね。新しいビジネスを見つけられたら、私を恨んでいる場合でもない」
「軍糧は、とっても儲かりますので」
「『ストラウス商会』ほどの儲けは、ありませんよ」
―――ユニコーンのいる『ストラウス商会』、それは経済的な方面で成長している。
無数の国境線をまたいで、『自由同盟』の所属国家間の貿易の担い手だからね。
ロロカは戦いだけでなく、商売方面の才能も豊かだった。
ボクたちルード王国の貿易とも、連結している点も大きい……。
―――軍隊はひとつの街みたいなものだから、大量の消費が起きる。
そこに食糧や医薬品、薪を運び込むだけでも大儲けしてしまうものさ。
ルード王国みたいな小国にとって、戦費を捻出するのはなかなかに困難なこと。
だからこそ、商いもしていかなくちゃならない……。
―――ちょっとでも経済を回さなければならない、戦争はお金がかかり過ぎるから。
商人たちと軍隊が組むと、その面で恩恵が生まれるってわけだよ。
帝国軍がやって来たものと、似てはいるね。
構わないさ、いい仕組みはどれだけ真似してもいい……。
「……数名の、元・奴隷商たちに。怪しげな勢力から接触があったようです」
「怪しげな勢力、ですか。つまり、帝国の?」
「ライザ・ソナーズの創り上げていたシステムを、嗅ぎまわっていたらしいのです」
「それは、不穏な動きですね」
「尾行したところ、『西』に向けて伝書鳩を飛ばしたと。大型の鳩でして、そういった種は『中海』を飛び越える。島で、休みを取りながらだと言われていますが」
「『西』、ですか。どれだけ西なのか、分かりはしませんよね?」
「帝国軍と思しきその人物は、従者がいた。その従者、しゃべり方……なまりから、『プレイレス』の者ではなく、はるか西部の者とも……人間族です」
「『西』の人間族で、帝国軍に寝返った人物」
「ええ。おそらくは、商人。金のために、帝国軍と接近した。ライザ・ソナーズは巨万の富を築きましたから、後釜を狙う者は、当然ながら出現してしまう……『モロー』を再び、帝国が支配するために、襲撃を仕掛ける準備とも……そんな最悪の事態に陥ったときに、連中は……」
「新しく奴隷貿易を立ち上げる。ライザ・ソナーズの後釜、ですか」
「させられません。そういった怪しげな動きも、ある意味では我々の助けにもなりました」
「商人たちの危機感を、煽れたというわけですね」
「帝国時代に逆行するのは、勘弁です。あのとき、ライザ・ソナーズの下で稼いでいた者たちも大勢いましたが……若い世代は、支配されるのを好みません。『王無き土地』の若者らしく、独立独歩の道を行きたい」
「素晴らしい自主性です。そういった考えを持てる若者たちは、私たちの希望になる」
「亜人種とのわだかまりも解決したい。亜人種を嫌う者たちも、まだまだいます。ですが、それも……変えてみせます。コツも、きっと。商いにある。仕事を通じて、共に。それは商人としての私が得意な分野だから。変えていきます」




