第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その五百三十五
「……『彼らだけ』で構成された部隊を、作るというのは?」
「……ああ。それは、いいかもしれない。戦闘意欲が高い部隊は、かなり強いと思うから。でも……」
「でも、どうかした?」
「激戦地に、送るってことだよね。だとすれば、それは性格のせいってだけで、死ぬリスクを多めに背負わせるということにもなる。たとえ、本人たちが望んでいたとしても……それは、それって。どこか、アンフェアなようにも思うんだ」
―――『王無き土地』の人々らしく、命を平等にあつかおうとする哲学は美しい。
大陸のほとんどの土地では、ここまで平等さにはこだわらないよ。
そういった価値観を醸成するために必要なものは、高度な学問なのかもしれない。
インテリにだけしか通じない美徳というものも、機能不全なのかもしれないけれど……。
―――教育を広げなくてはならないと、痛感する日々をボクたちは送っている。
ルードは比較的、教育熱心な王国ではあるけれど。
それでも、『プレイレス』の学問のレベルには及びつかない。
もっと賢ければ、より魅力的な理論武装を『自由同盟』に与えられるのにね……。
―――まあ、理解しているよ。
こうやって、すぐに学問を政治的および軍事的な『道具』に使おうとする傾向が。
ボクたちの一種の限界でもあるのはね、もっと高尚な行いに使いたいものだけれど。
困ったことに、今は乱世だったのさ……。
―――リサ・ステイシーの心に、カイの言葉は波紋を投げかけていたよ。
彼女は、自分が『学生たちを兵器のように利用したがっている悪魔』に見えた。
第三者であるボクからすれば、そんなことはないと思うけどね。
『命の選別』をしなくちゃならないときも、上の立場の者にはある……。
―――『王無き土地』以外は、たとえばルード王国であったなら。
クラリスが決めるんだ、誰が死ぬのかをね。
クラリスを含め、王族や貴族という地位にある者は幼い頃から知っている。
生殺与奪の権利というものが、この世には実在することを……。
―――戦になれば、危険な場所も生まれるものだ。
そこで戦う役目を背負わされた者たちの多くが、もちろん生きて戻れない。
王族や貴族だって、ヒトだからね。
血も通っていれば、涙だって流す日もある……。
―――それでもね、誰かがやらなくちゃならない。
世界というものはアンフェアだし、戦場はとっても理不尽な空間なのだから。
生殺与奪の権利を、クラリスは幼い頃から理解させられている。
『王国のために死んでください』、その言葉を最適な態度で伝えるために……。
―――ルードのために死ぬなら、ボクは本望だよ。
多くの戦士たちが、それを心から望んでいる。
至極当然なことで、戦士という立場は女王陛下から命じられる日を待っているんだ。
ありふれているのに、どこか過酷で恐ろしさもある現実だね……。
―――それが正しいか、それとも間違いだと思えるのかは。
所属している価値観のなかで、それぞれの答えを見つけるだろう。
ボクはクラリスを信じるよ、ルードのために死ねと言える毅然なる女王陛下を。
『王無き土地』の人々に、この幸福な充足がないことに同情も覚える……。
―――命の選別をするのには、慣れが必要だ。
クラリスが幼い頃から生殺与奪の権利の使い方を、その人生で学んだように。
リサは賢いから、数時間前にちゃんと理解していた。
ソルジェたち騎士や貴族は、命に対しての考えが極めてシャープなものだ……。
―――戦場で死ぬために、生まれて来たような命だからね。
ストラウス家の気高さは、『王無き土地』の人々にはあまりに苛烈に見えるはずだ。
リサは思い知らされているよ、王たる者の責任の重みをね。
この種の痛苦に対して有効な方法は、幼い頃からの慣れのほかにない……。
「……それでも。アンフェアでも。適材適所だわ」
「……それは、たしかに。誰かが、危険な場所で戦わないといけない。でも、それを、オレたちが決める権利って、あるんだろうか……」
「志願制に、するしかないわね」
「それは……性格に、オレたちがつけ込んだような気もする」
「ええ。つけ込もうとしている。でも、オレたち、じゃない。私の責任だから。私が、立案者になる」
「いいや。そういうのはね……ほんと、ぶっちゃけると、ちょっと前のオレなら、乗っちゃう案かもしれないんだけど。今は、ムリだ。オレは、責任ある男になりたい。一人前の男って、そうだと思う」
「結婚したからって、急に大人びる必要はないわ」
「あるよ。あるんだ。オレが、それを望んじまうから。そういう部隊を、作ったとしたら。ちゃんと、オレも責任を取る。背負うよ。背負って、恨まれる覚悟だって、するんだ。『飼い慣らす』だとか、言い始めたのは、オレだ」
―――何でもかんでも、責任なんて取ろうとするべきじゃない。
生殺与奪の権利なんてものは、思いのほか重たいものだからね。
不慣れな者たちが、それをやろうとするのは感心しない。
耐えられはしないから、ボクがこの場にいれば忠告していたところだよ……。
―――このふたりに、釘を刺してあげられたのにね。
クラリスがその言葉を、誰もが正しいと納得してくれる態度で使うために。
どれだけの努力をしたことか、この『王無き土地』の人々に伝えてあげた。
そうすれば、きっと背負うなんて言葉は軽々しくて吐けなかっただろう……。
―――だが、これもまた運命なんだ。
リサ・ステイシーも、カイ・レブラートも。
『牧羊犬』たちで構成された特殊部隊の計画は、動き出す。
悲しい運命の気配が漂っているように感じられたとすれば、それは正解だった……。




