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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百三十四


―――心の傷を語るのは、なかなかに辛い行為だったから。

リサ・ステイシーはカイを、近くにある小高い丘の斜面に座らせることにした。

戦場に行ったことのないリサでも、カイが死んだ友人たちの亡霊を想像していると気づく。

学生の心理について、教育者という立場にある者たちは誰よりも専門家なのだから……。




―――学生たちは小高い丘の上から見える、港と密集した街並みを見て落ち着ける。

多くの者が『中海』を経由して、故郷からこの『ツイスト』へとたどり着く。

海を見れば故郷を少なからず感じられたし、おだやかな青い色は心を落ち着けた。

夏の青い海と空を見ていると、ヒトはどこか気持ちが楽になる……。




「落ちついたかしら、カイ・レブラートくん」

「……ええ。『ツイスト』の学生たちは、成績の悪い試験結果と出会うと、ここで泣きべそかくんですかね」

「答案用紙が、そこらに埋まっているかもしれないわ」

「ははは。どこも、似たようなもんですね。ありますか?……学生たちの嘆きが注がれた、古い枯れ井戸とか?」




「何処にでもあるのね。『ツイスト』大学にもあるわよ。学生たちは、嘆きたくなる状況と多く出会うから。試され続けているものね」

「学者もですよ。『レフォード』では、学者先生たちも、枯れ井戸に叫んでた」

「まあ、似たようなものだってコトだけ、伝えておくわ」

「……やっぱりね。どこでも、そうなんですね…………リサさん、落ちつきましたので、インタビューの続きをどうぞ」




「分かったわ。ほとんどの学生が、いや……ほとんどのヒトが、『殺したがらない本能』を抱えているとは思う。それを、外的な要因で、いくらか解除できそうだ。でも。そもそも、『殺したがらない本能』を持たない人物たちもいると思わない?」

「……ストラウス卿。生粋の戦士たちは、そういうの多分ないよ」

「生粋の戦士たちは、貴族だとか騎士階級だったりする。専門的な戦士よね。傭兵も含めて。でも、『そうじゃない人物』もいたんじゃないのかしら。つまり、罪悪感を持たない人物たちが」




「……いた。残酷な連中だ。殺すことを、躊躇わないヤツも、いたみたいだ。勝利に酔いしれるんじゃなくて……オレたちは、勝ったことを喜んでいた。でも、そうじゃない。殺したことを自慢しているヤツらも、数は少ないけれどいたんだ」

「それは、生粋の戦士ではなく……」

「けんかっ早い連中のなかに、少なからずいたように思う。暴力に対しての免疫が、備わっていたというか……前々から、機会があれば殺したかったみたいな発言を口にして、周りを凍てつかせちまう。冗談じゃ、ないと思う。冗談で言えるような状況じゃなかった」

「……平時でも、殺人犯は出現するわよね」




「悪人だよ。戦闘を手段じゃなく、目的だと信じていられる連中も、たしかに実在するんだって思えた。彼らの全員が、虚勢を張っているとは思わない。その半分ぐらいは、本当に戦いを喜んでいた。戦士とは、違う。もっと、怖い気質があるようにも思えた。無視して、冗談だと思うように演じてしまったけど。たぶん、本質的に殺しが好きなヤツもいる」

「……そういう人たちを、どう管理すればいいと思う?」

「……忠誠心や、正義とか大儀を理解させるのは難しいと思うよ。そういうタイプには、思えないから。オレの、親父だったらね……きっと、こう言う。『飼い慣らせ』と」

「飼い慣らす。ちょっと、怖い発言だ」




「でもね。おそらく、有効なんだよ。『エサ』を与えるのが、『飼い慣らす』コツだ」

「給料とか、待遇面?」

「それもあるけど。あの連中が、殺したがっているのなら。『挑戦』させてやるのも、『エサ』になると思う。つまり、戦わせてやればいい。嫌っているわけじゃない。好きじゃないが、こういう連中は、きっと、常日頃から機会があれば、誰かに全力で襲いかかりたいと思っている。理性が利いてもいるから、普段はせいぜい、けんかっ早いだけ」

「……『積極的に戦う部隊』を、作った方がいいと?」




「能力は、本職の戦士には劣るだろうけど。『殺したがらない本能』については、きっと、弱いよ。あいつらは、普段から組織に反抗的で、いつも反発しようとしている。協調性や、仲間意識でも縛りにくいよ。極端な言い方をすれば、『反社会的な連中』だから」

「ふむ。言い方を、選ぶように。今は、いいけれど」

「もちろんさ。言わないよ。オレは、社交的だ。空気読めるって意味。ああいう連中は、不良でもないし、むしろ、ちょっとマジメ。融通が利かなくて、周りに馴染もうとしない特性がある。普通の連中が、オレも含めて、そういうのが『羊』なら、あいつらは『牧羊犬』。オレたちと馴染まず、近くにいるけど、異質だ。そして、ケンカができる機会を常日頃からうかがっているんだ」

「牧羊犬。それは、分かりやすいたとえね」




「だろ?空気を呼んで、邪悪さを差し引いてみた。こいつら『牧羊犬』は、『羊』に興味を持てない。『牧羊犬』が最も興味を持っている相手は?」

「飼い主を除けば、敵ね」

「そう。あの積極的な戦闘意欲は、敵に恋焦がれていた結果だと思う。『牧羊犬』は、『狼』を待ち望んでいるんだ。自分の闘争意欲を、表現してもいい相手だから。本質的に、そういう感覚を持っている。サー・ストラウスは気高さで殺してる。戦いを崇高なものだと、信じているように見えたし、実際そうだろう。でも、『牧羊犬』は違うと思う。サー・ストラウスとは違って、戦いを悪い行いだと思っているんだよ」

「ストラウス卿は、そうじゃないようにも見えるものね」




「平和が嫌いなわけでもない。本物の戦士で、英雄だからだろうね。世界を変えて、大勢を救おうとしている。でも、『牧羊犬』は、それには劣る。そんな視点じゃない。もっと、自己中心的な連中だ……戦いの責任を背負いたくはないし、結果にも興味を持ててない。本能任せに、剣を振り回したいだけなんだ。英雄とは、言いがたいかも。でも、良い兵士にはなると思うよ。こいつらを上手く『飼い慣らせたら』、オレたち学生たちの軍隊は、死傷者を減らせる。殺すのが上手い連中は、戦場では間違いなく役に立つからね」




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