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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百三十二


「さて!新しくオレの部隊に所属を決めた諸君!本格的なミーティングを始めるとしよう!いつもの酒場でな!」




―――レイ・ロッドマンに誘われて、若い学生たちは酒場へと向かう。

物分かりがよく気さくな上官を、この傭兵は演じようとしていたのさ。

なかなかの努力家だし、若者たちの心に近づこうと歩みよる必要も感じている。

何せ、元・帝国軍の傭兵だからね……。




―――学生たちからの信用そのものが、基本的に低くあった。

能力があろうとも、若干の冷遇をされてしまうのもしょうがない。

マルケス・アインウルフほどの大物でもなく、権力者でもなかったからね。

せめて仲良くなっておこうという、実に傭兵らしい野戦の極意を頼っているのさ……。




「安酒で学生を懐柔するっていう作戦か。悪くはないな。お高い酒を飲んでいるからって、学生たちの尊敬を得られるとも限らない。オレたちは、たぶん、身近な『手本』を探しているからね」

「いい意見だわ。やっぱり、学生には模範があった方が落ち着くということね」

「……うん。ストラウス卿よりも、もっと身近で、具体的な戦士……レイ・ロッドマン大尉さんは、もしかすると理想的かもしれない。ストラウス卿には、なれなかったとしても。彼ぐらいなら……って、失礼な印象を抱ける。実際の『腕前』を見せられたら、きっと、自分たちの愚かさに気づけるんだろうが……その過程を含めて、尊敬を勝ち得るプログラムとして優れていそう」

「ストラウス卿に、コンプレックスがあるのね」




「ハッキリ言うね。ちょっと、容赦なさすぎない?」

「インタビューして欲しいなら、新聞記者の技巧を使うべきでしょ?」

「学者先生らしい。それで、いいよ。オレは、恥をかくための覚悟を決めた」

「じゃあ。恥をかいてもらいましょう。さっきの問いの、答えをどうぞ」




「……ある。ストラウス卿ってば、スゲーんだぜ。偵察するための人数で向かったハズなのに。帝国軍から新たなに町をふたつも分捕りやがった。ああ、解放した」

「『オルテガ』を解放できたのは、かなり大きいわね。『プレイレス』を失った帝国にとって、大陸南西部との貿易を担う最大の拠点だった。南海の航路を除けば、帝国は南西部からの補給を受けられなくなる」

「戦をやるための能力って、色々といるんだって『初陣』で思い知らされたからね。ストラウス卿が、どれだけの力を有しているかも、よく分かる。ちょっと、かなわないよ」

「『ちょっと』なんて言えるのは、貴方のプライドの高さかもしれない」




「あまりヘタレるとね、オレはサー・ストラウスにバカにされちまいそうだから。失望されるのに、なれてないんだよ。とくに、『大学半島』のエリート学生はね。あっちも、そう思ってくれているだろう。実際に、オレの方が優れている点もあるよ。賢い」

「ええ。それはそうでしょうね。学問と知性で負けるように、クレートン教授は貴方を育ててはいない」

「オレの若さも武器かも。猶予期間って意味でね。サー・ストラウスも……ストラウス卿も、オレの年齢のころには、もっとバカだったと思うから。オレには、成長するための余地がある。一戦やる度に、何でも経験値にして吸収していける」

「若さね。それは、私も期待したいところだわ」




「成長するための余地を、どう使うべきなのか。それがテーマだよね?」

「より能率のいい導き方を、作りたいの。ストラウス卿は、貴方にとって過度なプレッシャーをあたえ、挫折した気持ちにさせる存在かしら?」

「そんなに悪いモンじゃない。オレは、ちょっと、あの英雄さんといっしょに過ごせちまったから。立場的な幸運のせいで、身近に感じているだけで……オレ以外の距離感の連中は、つまり、ほとんどすべての学生たちは、ストラウス卿にコンプレックスを抱きはしない。軍神みたいに、たてまつっているだけさ」

「なるほど。じゃあ、良かったわ」




「……どういう意味か、ちょっと知りたいかも」

「『挫折』を教えたくないの。挫折から立ち直るための時間が、きっと兵士としての力を組み上げる時間を妨害しちゃうから」

「そいつは、たしかに。挫折は、嫌だもんな……オレたち学生にとっては、何よりさけたいもんだ。みんな、ちょっと背伸びしたくもある。優秀だって信じておきたい。じゃないと、戦場で弱さが露呈しちまうから」

「ストラウス卿を英雄に置いておいても、貴方以外には問題ないのね」




「オレにも、問題ってほどじゃないから。ちょっとだけ、かなわない気持ちにさせられただけ。挫折じゃないよ。尊敬も、しっかりしていられるから」

「負けたとしても、問題はない相手だものね」

「その通り。仲間だから。サー・ストラウスが、オレを裏切ることはない。追いつこうと努力していればいい」

「……貴方には、具体的な目標としても見えているのね」




「そうかも。そういうのが、いた方が……士気が上がるってこと?」

「私の考えではね。だから、ストラウス卿を『モデル』にするよう、指示を与えたの」

「悪くはないと思う。でも、軍神は……ヒト離れしている点もあるね」

「目標とするには、リアリティが足りない?」




「学生たちの目標は、もっと身近な方がいい……だから、きっと。あのレイ・ロッドマンさんは学生たちを酒場に誘ったんだろう」

「距離感を詰めて、尊敬してもらえるように?」

「ストラウス卿は、英雄。軍神。そういう生き物には、あこがれしか抱けない。目標として君臨しているのは、もうちょっと身近で、頼れる有能なオトナ。ああ、もちろん。リサさんもね」

「商人の息子らしい話術だわ。弁論術でも、貴方はストラウス卿に勝てるかも」




「説得力で、負けている。オレは数名の戦力で、ふたつの町を解放しちまうような戦闘能力はない」

「でも、レイ・ロッドマンになら」

「……軍事面や腕っぷしでは負けるだろう。統率力なら、いい勝負かも……たぶん。身近で有能なオトナを、学生たちは真似した方が早い。サー・ストラウスは、ちょっと特殊だからね」

「真似られる要素があった方が、いい。なるほど。『教官』役と、『モデル』は別に用意した方が有効かもしれない」




「帝国軍じゃ、『鬼軍曹』とか言われるポジションがあるらしいよ」

「……ああ。士官以下の、まとめ役……帝国軍の統率力も、真似すべきよね」

「敵からも学ぶなんて、学者的な考え過ぎるような」

「いいじゃない。学者だから。学問的な強化プログラムを作りたいの。それって、たぶん、『大学半島』の学生志願兵には、かなり有効に機能すると思うから」




―――有益なインタビューになっているね、同じ学問の下で教育されたふたりだから。

カイ・レブラートは、リサにいいアイデアを提供してくれている。

学生からも学びは多い、実に教育者的でね。

『普段の行い』に近いからこそ、リサにも扱いやすいんだよ……。




「貴方は、思っていた以上に最高のインタビュー対象になるのかもしれない」

「役に立てるなら、何でもするよ」

「……あら。本当に?」

「学生だから、分かる。学者さんがそういう顔をしたときは、容赦なく学問する時間が始まるってね。でも、いいよ。既婚者パワーで、がんばる。新婚の夫は、ちょっとやそっとじゃ、へこたれない。家族を支えられるような、立派な男になりたいんだ」




「じゃあ。容赦なく聞くわね。『殺したがらない本能』について、私が理解を深めるためには、必要な行いだもの……カイ・レブラート。貴方は、戦場でヒトを殺したとき。どんな気持ちだったのかしら」




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