第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その五百三十一
―――リサからすれば、それは大きな承認になったよ。
学生たちを『強く』したら、命を救えるかもしれない。
当事者であるカイからの言葉に、彼女は安堵できたんだ。
自分が創り出してしまった訓練方法は邪悪かもしれないが、確実に学生たちを救うと……。
「いい発明も、あったみたいですからね。『竜の火』とかいう、火薬の発明も……ああいうのが、オレたちの本分と言うべきものかなと」
「そうね。新しい兵器を作り出せれば、帝国にも勝てる。その分野では、私たちは他の組織にも負けないハズだわ」
「……それに。爆発物なら、オレたちの罪悪感も減らせるような気がしているんだ。港に並んでいる投石器みたいな攻城兵器で、火薬樽をぶん投げられたら……直接の戦闘をしなくていい。同じ殺し合いになると思うんですが、武器でやり合うよりは、きっと楽なんです」
「楽、か。不謹慎さはあるけれど、そっちの方が強いわよね」
「直接、殺しちまうと。夢に見ちまうんです。殺したときの感触とか、これが苦しくて。ストラウス卿には、相談しにくい……きっと、彼には分からない感覚だと思うんですよね。生粋の戦士たちには、欠如している感覚なのかも……いや、言い過ぎかな」
「王族や貴族という戦士階級に守られていれば、強くなれるのかもしれない。戦うコトを、罪悪感だと思わない文化や、立場もあるのだと思う」
「そういうのも、研究しておいて下さると、やりやすそうだ」
「努力はする。ちょっとでも、強くする方法が必要だもの。帝国の動きの乏しさは、きっと、力を蓄えているという意味だから……」
「……ストラウス卿なら、怖がらないんでしょうね」
「さあ。本人じゃないから、私には何とも言えない。でも、怯えた様子を見せれば、周りの私たちが不安になると判断はするでしょう」
「士気を維持するために、ストラウス卿でも周りに気を使うのかな……いや、そうだな。戦についてなら、実にクレバーでスマートな部分もあるのか」
「慣れているのよ、ストラウス卿は。傭兵稼業を長くしていると、そうなっちゃうのかも」
「ああ。あそこの元・帝国軍の大尉さん……レイ・ロッドマンか。ずいぶんと、学生たちを引き抜いてくれたみたいですね」
「貴方のしたいコトを、邪魔するつもりはないのよ」
「でしょうね。でも、影響は、ちょっと出てくるでしょう」
「教本には、帝国式のものを使う。兵站戦術の達人、マイク・クーガーのものを。敵の戦術であったとしても、効率的だと思うから」
「輸送で、一儲けしたいって気持ちもあったんですよ。そういう気持ちがないと、援護が長続きしないと思っていて。親父たちは、やっぱり商人だから。利益でつらないと、最終的には止まらない……」
「だから、人質を使うの」
「人間族の娘と結婚したオレはともかく、他の商人の子息たちは実家から手厚く守られてはいるから……」
「貴方、ご両親に結婚を反対されたの?」
「いいえ。正面から向かっては、そういうのはなかった。されても、構わない。時代は、変わっていくんだから」
「……いい覚悟だわ。私も、もっと、強い覚悟が必要なのかもしれない」
「リサさんは、十分に強いと思いますよ。それに、役に立てている。学生たちを戦場で使えるような兵士に、短時間で変えるプログラムが完成すれば……きっと、勝てますよ」
「ストラウス卿にも、相談したい気になっている。理論は、あくまでも机上の計算だから。彼が、『ペイルカ』に寄ってくれるのならば、ちょっとお話したい」
「ストラウス卿が、『ペイルカ』に?」
「……極秘情報ではあるから、内密にね。まあ、あんなに大きな竜で乗り付けたら、みんなにバレてしまうでしょうけれど」
「隠密行動もやれるらしいですよ。あれで以外と、器用らしいですから」
「赤毛で巨大な剣を携えた眼帯の人物が、隠密行動……」
「何かしらのコツって、あるんでしょうね。変装の達人なのかも」
「……変装、か。偽装された情報も、戦場では有効よね」
「リサさん、戦争モードになっちゃってます」
「ええ。良心的な学者でいられる時代でも、ないなって。覚悟を決めた」
「頼りになりますよ。オレたち学生は、ストラウス卿のカリスマ性や力だけに頼ってだけはいられなくなる。魔法は、いつだって切れちまうもんですから」
「理論に武装された方が、『大学半島』の学生たちは動きやすいでしょうね」
「……そういうの、慣れてますんで。理論として正しいと思えば、それを信じ込める。オレは、その種の集中力にも頼りたいんです」
「大丈夫よ。課題を出せば、すぐに解決したり適応したり……『大学半島』の若者たちの柔軟さは、私が誰よりも知っている。かつては、学生のひとりだったし、今では教育者の立場から、見続けているから」
―――リサに諭されると、安心できた。
学生たちの代表であるものの、まだまだ未熟な若者がカイだったからね。
悩みもあるし、葛藤も抱えている。
感傷に襲われて、自信を喪失しそうになる日もあった……。
―――マクスウェル・クレートンに、頼りたくなってもいる。
師である学長殿が戦場にいてくれたら、助言を乞いに足しげく通ったはずなのに。
歴史から引用された知的な助言でもあれば、恐怖を忘れさせてくれるかもしれない。
既婚者となり生き延びたいと願う力は増えたものの、まだまだ未熟者のひとりだ……。
―――それでも、カイ・レブラートは凡庸な男ではない。
リサからいくらか新たな訓練方法について聞かされると、理解をし始めている。
学術的な貢献もしてたいと考え、学生としての知識と。
浅いながらもある実戦経験を上手く使い、リサの役に立とうと試みた……。
「リサさん、オレにインタビューしてみてください。何か、学生の兵士に特徴的な弱点を、見つけられるかもしれないから」




