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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百三十


―――『ツイスト』のリサ・ステイシーは、学生たちの訓練を見守っている。

となりにいるのはレイ・ロッドマンであり、彼の周りにも学生たちが集まっていた。

フラビア・ステイシー学長から、船を獲得した傭兵は新たに兵力を募ったのさ。

前線で戦う名誉よりも、兵員輸送に興味がある者たちをね……。




「諸君らは、戦闘よりも重大な仕事を成し遂げる。窮地に陥った仲間を、ピックアップするのも有益な任務だというのは、言わずもがな伝わるだろう。戦えなくなった負傷者が後方に離脱できると信じられるからこそ、前線で兵士は勇敢に戦えもするんだ。その事実を、アタマに叩き込んでおけ!」




―――ここにも有効な役割分担があったね、戦闘意欲が高くなくても。

同じ学生兵士たちを救いたいと願う者は、大勢いるんだから。

レイ・ロッドマンはいい部隊を作り上げつつあり、それは『西』での戦いの強い援護だ。

『プレイレス』商人一族の若者たちを、この部隊に巻き込めたのも大きい……。




「諸君らは人脈を使う必要がある。戦争という混沌とした状況下で、物資や人員の輸送を確実に目的地に運ぶのは、ベテランの商人でも難しい。だからこそ、諸君らだけではなく、人脈を使う。実家が商人であるのなら、協力要請の手紙を送っておけ!一隻でも多く、しかも、効率よく、船が必要なんだ。それを運用する人材も、欲しい!」




―――学生たちの一族を、巻き込もうとしているわけだ。

商人たちは利己的だからね、必ずしも戦争に対して協力的なわけじゃない。

しかも、兵員を輸送するよりも『商品』を輸送したがっている。

当然のことではあるけれど、その考え方を変えれば我々の戦力に化けた……。




―――自分の子息が戦場の近くに行くのであれば、協力したいと考える父母も増える。

今までよりも確実に、『自由同盟』への協力者が増えてくれるんだ。

まるで学生たちを人質に取るようなものだけれど、これもまた戦争の一側面。

何が何でも勝たなくてはならない、そういう戦争もあるんだよね……。




「なんつーか、いい案っすね」

「……あら。カイ・レブラートくん。来たのね」

「そりゃあ、顔を出しますよ。一応は、学生たちの代表のひとりなんですから」

「ああ。そうだ。ご結婚、おめでとう」




「ありがとうございます。リサ・ステイシーさんは、結婚……なさらないんで?」

「出会いが、なくてね」

「そうでしょうか?……リサさんほど美人で、しかも賢いのなら」

「賢い女って、モテモテだっけ?」




「オレは、嫌いじゃないですけれど……『ペイルカ』の人々から、口説かれていなかったとすれば、ここの連中は見る目がない」

「ありがとう。まあ、私の結婚話はどうでもいいわ。それよりも、大切なコトがあるもの」

「戦に、勝たないと……ってのは、そりゃそうなんですけどね。『何』を、したんです?」

「新しい、『訓練』の方法を導入してみただけよ」




「そいつは、あそこの元・帝国軍人さんの入れ知恵ですか?」

「……いいえ。発案者は、私だわ」

「リサさん、軍事の専門家でしたっけ?」

「違うわ。でも、歴史や文化の研究者ではある」




「うちの……つまり、『レフォード』大学の学長、マクスウェル・クレートンみたいに、古王朝政治学にも精通していた……」

「『王無き土地』の学者は、多かれ少なかれ、戦争にも詳しくなっていく。他の土地とは異なり、専制的な戦士がいないんだから。ああ、『戦争を担ってくれる王侯貴族がいない』という意味ね。代々の軍人の家系はいても、ストラウス卿のような人々はいない」

「生まれる前から、戦士として生きるのが確定している人々か……それ、どういう気分なんだろう。自由な感覚とか、あるのかな?」

「『プレイレス』よりは、不自由かもしれない。この『大学半島』に、大陸中の土地から若者が派遣されるのも、その他の地域では、文化的な研究や学問そのものがやれないから」




「学者らしいっすよね。学問やれるのが、自由の尺度になるって」

「『大学半島』が不完全ながらも自由や、人種差別に抗えていた『聖域』になれた最たる理由は、『学問が盛んだから』だったハズだけど?」

「まあ、そりゃそうなんですが」

「学問は、ちゃんと役に立つから。世の中を、より良い方向に導いたり、より効率的な解決策を見つけられたり……」

「……あの殺伐としたカンジの訓練法も、そのひとつ?」




「そうだと、信じてる」

「あ、ああ。すみません。非難しているわけじゃなくて、文句があるって、わけでもなく」

「意見や感想は、いつでもぶつけていいわよ。私は学者なんだから。改善策のない完璧な答えなんて、あり得るハズもないし」

「じゃあ。その、軍事の専門家でもない、ただの一学生の意見としてなんですけれど。ちょっと、怖く感じましたよ」




「迫力があるから、でしょう?」

「鬼気迫るものがありましたね。どういうトリックなんです?」

「……『殺したがらない本能』を、オフにしようと試みているの」

「えーと……何ですか、それは?」

「私が適当に名付けたばかりの言葉ね。でも、体を表している名だと思う」




「じゃあ。つまり、リサさんは、ヒトにはヒトを『殺したがらない本能』があると、考えているんですか?」

「ええ。とてつもなく大勢が殺し合っている現状からすれば、どうにも間抜けて聞こえるかもしれないけれど。貴方にも、きっと、あるんじゃないかしら」

「……オレが、臆病者だって?」

「そういう視点ではない。ただの本能よ。誰しも、人殺しには嫌悪を持つものでしょう。殺人罪を軽んじている法律を、私はいまだかつて見たことも聞いたこともない」




「……そう、ですね。でも、そんな本能は、聞いたコトもない。誰も、研究していないって、コトでもありますよね……この『学生半島』でさえも」

「ええ。貴方が見せた反応が、その問いへの答えになる」

「……えーと。臆病者あつかいされた気持ちになって、怒った?」

「社会から望まれぬ種類の研究は、予算がつかないから進まないものよ。英雄譚じみた物語の方が、戦時下では好まれるでしょうし、平和な時代においても、ヒトは自身の『弱さ』をえぐるような研究報告なんて聞きたがらない。ただの本能だという指摘のつもりでも、まるで悪口や名誉を棄損された気持ちになるでしょうから」




「たしかに、そうっすね。オレも……ちょっと心に刺さった。でも、刺さっちまった理由は、正しいからでもある……クレートン学長がいれば、きっと議論をしたがったと思います。だって、正しいから」

「……貴方も、実際に戦場へ赴いたのよね」

「ええ。はい。怖い場所でした。友人たちが死んだり、傷ついたり。オレは、無事に生き残れた。でも…………」

「『殺したがらない本能』と、貴方も出会った?」




「……正直、返事に困りもするんです。でも、オレも、一応はクレートン学長の教え子のひとりなんで。学問に対しては、貢献したいと思っているんですよ。だから、その、内密にしていて欲しいんですけれど」

「もちろん。貴方の体験談を、誰かに話しはしません。論文に書き記すとしても、決して個人が特定されないように配慮はするわ」

「……じゃあ。率直に、言いますけれど。そういうの、本当にあると思います。『殺したがらない本能』……武術の鍛練とは異なり、本気で、相手を殺そうとしたときは……ちょっと、ムリがあるなって思いましたよ。本当に、生きた相手を殺そうとするなんて……相手のね、表情までも見えるんです。そいつの人生や、そいつの家族だとか、もろもろ、いろんなコトを想像しちまって……」




「ヒトって、ヒトを殺そうとしたがらないと思うの」

「……そいつが、『殺したがらない本能』ってヤツですか。言い得て妙なのかもしれません。オレは、たしかに……それを感じた。それって、本当に恐ろしくてですね。合理的でもない。おかしな被害が、あったんです」

「それは、どういうものかしら?」

「オレの友人たち、圧倒的に有利な陣形で、敵とぶつかったハズなんですよ。でも、敵を制圧し損ねていたんだ……あれは、それって……その『理由』って。もしかしたら、リサさんの言っている『殺したがらない本能』なんじゃないかと……」




「……そうかもしれないわ。『殺したがらない本能』が、働いてしまったから」

「……殺したくないと思ってしまって、殺し損ねたから……逆に、殺されてしまったんですよね。あいつらは、的を射抜くのはオレなんかよりも上手だったんです。でも、上手くやれなかった……あれは、きっと、そういう本能のせい。あいつ、殺されるよりも……嫌だったんだ。殺してしまう方が……」

「それを、回避したいと願っているの。『殺したがらない本能』のせいで、殺せなければ。つまり、私の教え子たちが死んでしまうのだから」

「……素晴らしい研究だと、思います。誰もやっていなかったとしても、始めるべきだ。オレたちは、ストラウス卿みたいな生まれもっての戦士には、おそらくなれません。帝国兵に練度で勝てるとは思えない。だから、少しでも死なないために……容赦なく殺せるように、なっておきたいです。あいつらが、その訓練をしていれば、きっとオレの結婚を祝ってくれている」




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