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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百二十九


「さて、いただきますであります」




―――キュレネイたちは、ディナーの時間を楽しんでいたよ。

魚介たっぷりのパエリアに、ビネガーの利いた鶏肉料理。

『フクロウ』が新しい命令を届けていたからね、『西』で一戦やるのだと。

久しぶりにソルジェとの共闘がやれると、三人は喜んでいるようだ……。




―――栄養をしっかりと取り、明日からの遠征に備えている。

急なスケジュールではあるけれど、傭兵たちの全員が準備を終えようとしていた。

キュレネイたちだけじゃなくて、『ペイルカ』に集まっている傭兵の全員がね。

マイク・クーガーの『遺産』とも言えるだろう、ヤツは兵站物資をため込んでいた……。




―――それらは『自由同盟』側の物資として、使用が解禁されている。

カール・エッド少佐が提供を許してくれたからで、協力関係の目に見える表現だった。

議員たちの少なくない数に、『ペイルカ』のためだけに物資を使うべきと主張する者がいる。

それが正当な権利だと主張するのは、あながち間違いでもないけれど……。




―――『軍事同盟』の絆を、『王無き土地』の人々も把握すべきだね。

お互いに協力し合う必要があり、血も流して金も捧げてもらわなくては困る。

『ペイルカ』の保守的な文化は、どうにもケチ臭いところがあった。

そして、どこか傲慢なところもあるよ……。




―――『プレイレス』の千年の歴史を背負うという自負が、その傲慢さの起源だった。

自分たちが真の歴史の継承者である、そのほかの地域の連中は蛮族に過ぎない。

間違いでもない、だからといって認められるとは限らないけれどね。

カール・エッド少佐の協力的な姿勢は、本当に価値あるものだ……。




「十分な食事がなければ、とても戦えたものではないでありますからな」

「……それを、みんな知っているはずなのに」

「『外』は、どこかおかしなところです」

「まあ、そのうち慣れるでありますよ。もぐもぐ」




―――鶏肉を口に放り込みながら、キュレネイは宿舎の窓から外を見つめた。

傭兵たちの酒盛りが、『ペイルカ』の街並みで行われている。

浴びるほど酒を呑めるのは、今日が最後だから。

しばらくのあいだ野戦と行軍が続くことになる、酒場と無縁の日々が始まる……。




「酒よりも、肉を食べておくべきでありますが……もぐもぐ……人それぞれ、というコトでありますな」

「キュレネイさんは、お肉だよね!」

「イエス。お酒は、まだ飲めないでありますから。そもそもカラダに悪いであります」

「たしかに。でも、『外』の皆さんは好んでいますよね」




「おかしなコトのひとつであります。もぐもぐ。酒よりも、肉の方がこんなにも美味しいというのに……もぐもぐ」

「あ、あいかわらずというかなんというか。すごい勢いで、お肉が消えていくんだけど……っ」

「これも、『外』の大きな不思議なひとつです。どうして、キュレネイさんはこれほどの食欲と胃袋を持っているのか……」

「食事を愛する欲求が、人一倍強いからであります。もぐもぐ。育ちが悪いから」




―――『ヴァルガロフ』育ちだから、それもしょうがないのかもしれない。

貧しさを知っているからこそ、食べられる機会には貪欲になってしまう。

次に食事が摂れるとは、限らない立場を過ごしているのだから。

まあ、それにしてもキュレネイの食事量は神秘だったけれどね……。




―――食欲旺盛な巨漢の男たちの、数人分を食べたあとで。

キュレネイはようやく『腹八分』という、健康的なストップをすることにした。

カール・エッド少佐が兵站の構築に対して、献身的な働きをしてくれるなら。

食事の心配をする必要だけは、当面のあいだなさそうだからだ……。




「ククリ、ククル。『外』というか、この世の中は、約束を守ってくれる者たちばかりではないと理解しておくであります」

「……うん。悲しいけれど、そうだね」

「指示した持ち場を離れる傭兵も、何人もいました。戦術でも状況でも、それが愚手であると分かっていたはずなのに……」

「信頼していい相手というものは、じつに得難いであります」




「カール・エッド少佐は、良さそうだね」

「アタマの硬そうな人物ですが、こうして傭兵たちに食糧を提供してくれた」

「イエス……で、ありますが。彼の『周り』までは、信じられるとは限らない。とくに、『ペイルカ』の議員たちと、その支持者たちには……彼らは、我々よりも、自分たちの利益を優先しかねない。それに、権力を奪われるのも嫌う」

「なるほど。都市国家のリーダーたちなりの、プライドの高さがあるわけですね」




「そういうことであります。ヒトが、ろくでもない行動をするときの、主たる原因のひとつが、『面子を守るため』。非合理的な選択さえ、傲慢なプライドはしてしまう」

「名誉を傷つけられるのを、嫌うってコト……だけじゃないよね」

「イエス。政治は難しい。守るべき序列もある……『ペイルカ』の人々には、分かってもらうべきであります。町の自治は好きにやるといい。しかし、軍事面に関してはカール・エッド少佐や、私たちが『上』にいると。この軍隊は、団長のものであります」

「ソルジェ兄さんの、軍隊か。うんうん。そうだよね。それがいい!」




「強い人が指揮を執った方がいいですからね。『ペイルカ』の議員や正規軍は、一度負けてしまっている」

「負け犬は、ひがみ根性がつくから厄介であります」

「ひがみ根性……ああ、そうですね。議員たちは、権力を奪われそうだから怖いんだ」

「イエス。怖がりばかり。失墜していた時期の苦悩を、思い出したくもない。だから、つまらない抵抗をしてしまう。内心では理解していても、不要な口出しをして、自分たちが役に立つような演技に走る。権力を守りたくて、必死なのであります」




「やっぱり、『外』って複雑だよ」

「うん。そうだね。でも、ちょっと面白くもある」

「おお。ククルはいい根性しているであります」

「研究しがいが、ありそうだなって思えるんですよね」




「ククルはすごいや。私は、ちょっと面倒になっている。だから。難しいコトは、ククルに任せて、あまり口出ししないようにするね!私は、前線で戦っている方が得意だ!」

「……そうだね。そっちがいいかも。役割分担だ」




―――『メルカ』の双子たちも、ボクたちが好む言葉を使い始めていたよ。

それも大きな変化であって、姿も顔も体格もほとんど同じ『ホムンクルス』たち。

そのなかでも双子であるふたりは、何から何までそっくりでもおかしくないのに。

不浄なる『外』の多様性に触れ、自分だけの道を探し始めている……。




―――歓迎すべき変化だと信じているよ、この混沌さこそがボクたちの力だ。

そっくりの笑顔を見せ合う双子のとなりで、キュレネイも変わりつつある。

同調するようにいつものキュレネイ・スマイルを、作ってみたよ。

唇はビターなベリー・ソースの味で、心のなかには魔王がいた……。




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