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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百二十五


―――たったの二万という言葉を素直に使えるあたりが、メイウェイの器の大きさだ。

マルケス・アインウルフが惚れ込むのも、当然ではあるよ。

規律に乱れがあるとはいえ、二万という戦力は大群だからね。

名もなき王国の数倍の兵よりは、帝国兵は強さがあるというのに……。




―――メイウェイは戦力次第では、十分に勝てると確信さえしていた。

いや、もっと端的に言えば『楽勝』であるかのように考えている。

十大師団になれなかった者たちの実力を、彼はよく把握しているらしい。

メイウェイからすれば『同じ条件』であれば、これらか戦う敵はずいぶんと格下だ……。




「仮にストラウス卿が、『西』の諸勢力の奪還を望まなかったとしても。二万程度なら、私だけでも平定できるかもしれない……いや、兵力が、一定以上はいるがね」

「『あんたの国』を、『西』に作れちまうかもしれないな」

「からかうなよ。国まで作れるような器はないと、教えたはずだぞ、アーベル」

「どうだかね。軍人の野心なんて、なくなる日はこないだろ」




「私は国を奪うつもりはない。『協力者』には、しっかりと恩返しするつもりでいる。侵略戦争を否定するのも、『自由同盟』の掲げる価値観だ」

「その通り。アーベル君には、もう少し学んで欲しい点がありそうだね」

「はいはい。分かってはいるよ。『持ち主に返却しよう』ってことか。甘いカンジだ」

「そういった約束への信用が、『自由同盟』の結束になっているのだよ。ストラウス卿は、我が『ペイルカ』に……『イルカルラ』の兵力を入城させなかっただろう」




「そういう『仲の悪さ』は、克服すべき点じゃないのか?」

「それは、あるがね。善処はしていきたい」

「アーベル、絡むな。我々は、より多くの連携を作り上げるべきだ」

「戦力を、確保するためにもな」




「その通り。帝国軍が、これだけの大遠征を成し遂げた理由は、戦った多くの勢力が不仲であった結果だよ。同盟が造られた途端に、流れが変わったのは偶然じゃない」

「深刻なわけだ。仲の悪さってのは……」

「克服してみせた。少しだけだが、私たちは結束を誓い合っている」

「握手でも、してみればいいね。オレは若いから、言葉よりも絵面の方がピンと来ちまうんだ」




「送り出すときに、それはやるよ。メイウェイ殿とは、まだまだ煮詰めておきたいハナシがあってね」

「そうかよ。じゃあ、オレは……場をかき乱しちまうか。退席するべきかい?」

「もうしばらく、この場にいるといい。私は、君のリアクションにも『探り』を入れたのだ」

「オレがメイウェイの手下になったのは、数時間前だ。吐けるほどの情報なんて、渡されちゃいない」




「メイウェイ殿が『動く』ための契機となったんだぞ?おかげで、私も……メイウェイ殿を信頼しようと努力できた」

「友情の架け橋をかけてやれたわけだ。じゃあ、もっと感謝してくれ。銀貨の量っていう物差しが、傭兵には分かりやすくていい」

「覚えておこう。『ペイルカ』は保守的な都市国家ではあるが、傭兵に多くの道を用意してもやれる。高級軍人になるという道だって、用意できるよ」

「……はあ?本気かよ。オレは、『ハーフ・エルフ』だぞ」




「象徴的ではある。世の中は、変わらねばならない。私にとって、『ペイルカ』は何よりも大切だがね。個人的な日々も、今では私のアイデンティティを形成しているのだ。つまり、アントニウスに、かなり感化されている」

「はあ。ドワーフの相棒に?」

「人生は出会いで変わるものだ。君も、そういった出会いをして来たんじゃないか」

「……拾って、もらえたからな」




「アントニウスは、詳しいことを私に語らなかったがね。故郷のために戦っていたわけじゃない。世の中に粘り着く、社会構造のようなものに抗っていたんだ。すべてを、教えてはくれなかったし、性格も違っていた。対立することもあったよ。だが、『モロー』の商人、『ショーレ』からの手紙が、少しだけ彼の物語を私に教えた」

「……聞いてやるべきかな、中年男の語りを」

「聞いておくといい。私を理解できるかもしれない。それは、私と仕事をするには、有益なものだろう」




「聞いてやるよ。どんなハナシだ」

「アントニウスは弟のために戦っていた。奴隷商に買われた弟を、どうにか取り戻そうとしていたらしい」

「見つけたのか……いや、そんな顔じゃ、ねえな」

「とっくの昔に、『アントニウス』は死んでいた。ああ、この名前は、私がアントニウスだと呼んでいた男の、『弟の名前』になる。『コラード』に参加するよりも、ずっと前に。彼は弟を亡くしていて……その名前を、自ら名乗るようになった」




「……どういう、感情なんだろう」

「後悔の念があったのさ。弟を助けてやりたかったのに……『プレイレス』も、亜人種の奴隷についての扱いは手酷いものがあってね」

「『イルカルラ』は、まだ恨んでいる」

「そうだろうとも。それほど、恨まれるような態度をこれまでし続けていた。アントニウスは、弟の墓を見つけられなかったんだよ。どこの農園で死んだのかまで、突きとめたのに。奴隷たちの墓に、名前なんて誰も刻んではくれなかったから。どれが弟の墓なのか分からなかったんだ。彼の大切な弟は、モノあつかいされていた。私の相棒にとって、『アントニウス』という失われた名前は、どうにも大きな意味があったんだ」




「……ありふれた、ハナシじゃある」

「そうだ。ありふれているからこそ、悲しくもあるのだよ。変えてみたいと、思うほどに。アントニウスは、そうだった。あれは炎だね。私に少しだけ燃え移ってくれている。おかげで、勇敢さが増えた」

「思っていた以上に、感傷的な男らしい」

「そうだよ。世界を変えたいと願う理由にしては、相応しいものじゃないか」




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