第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その五百二十
「ソルジェ・ストラウスなんて、大嫌いだ」
「知っているよ。ちょっと前に聞いたばかりかだからな」
「……おかしなハナシだ。間違っている。あいつ……だって、四人もヨメがいるとか」
「三人だな。一人は、亡くなられている」
「……え。マジか……そうか。そうだよな。そんなことも、ある」
「誰もが共感すべき点を、いくつか備えているものだ」
「かも、な。だけど……やっぱり。嫌いだ」
「好き嫌いまでは、口出しできん」
「仕事には、持ち込まねえよ。どんなに嫌いな相手でも、同じ側だ」
「そうだ。兵士であれば、それでいい」
「騎士とは違い、気高く戦う必要はないもんな!」
「魂の価値を高めるべきは、下を見ることではやしなえない」
「うっせーし。オレは、オレだ。やれるだけを、やってやるぜ」
「前向きで、よろしい」
―――アーベルは恋愛感情に気づかないフリをした、いや本気で気づいていないかも。
どちらでも、大差はないかことだよね。
そういう感情は表現して、伝わらなければ何も結びをもたらさないから。
最初からそういう生き方をしているわけじゃない、誰かとの縁を求めてはいない……。
「オレに必要なのは、もっと、強くなる。それだけだ。あいつの……技巧を、真似したい。でも……分かる。無理だな」
「時間をかければ、やれるかもしれない。私よりも適性は高いだろう」
「三つの属性の強化術を、同時に使うなんて……」
「コツが知りたいか、アーベル?」
「……知っているのかよ?あんたが……?」
「ああ。彼女自身に、君が自ら聞いてみるがいい」
「はあ?オレが、ソルジェ・ストラウスの部下に……聞けって?」
「向こうはとっくに気づいているぞ。行ってみるがいい。何かを得られるかもしれない」
―――アーベルは鼻を鳴らした、ソルジェ・ストラウスが嫌いならば。
その部下たちも、当然ながら嫌うべきである。
議論している黒髪の双子だとか、それよりも手前にいるキュレネイだとか。
嫌うべきではあるが、『強さ』を求めるのであれば……。
「たしかに、な」
―――座ったまま何かを考え込んでいる達人のとなりで、キュレネイは大鎌を構え直す。
アーベルについて、彼女は知らないからだ。
でも、くだんのメイウェイのとなりにいたのは把握済み。
しかも、『自由同盟』に参加すべき立場の『ハーフ・エルフ』であることは明白……。
「『りゅうのほむらの』について、学びたいでありますか?」
「さっきの技が、『りゅうのほむらの』というのか」
「イエス。ストラウス家の、奥義」
「……あんたは、ストラウス家じゃないだろう。そもそも、人間族じゃない……?」
―――だが、何族だろうか。
アーベルは迷ってしまう、『灰色の血』はなかなかに珍しい人種だからね。
多くの人種間のあいだの混血として生まれて、あらゆる種族的特徴が消え失せた。
とてつもなく珍しい血であり、自然の流れではあまり生まれない存在だから……。
「私は『灰色の血』であります。つまり、多くの種族間の混血」
「そんな、ことが起きるのかよ?」
「ノー。不自然かつ、作為的な『選別』で、作られた」
「作られたって……その、生み出された……って、意味かよ」
「イエス。デリカシーのない、若者よ」
「あ。そう、だな。そうだったかも。すまねえ。不愉快な気持ちに、させたいわけじゃなかったんだ」
「イエス。認めてやろう。その言い訳」
「……変な、ヤツじゃあるよな」
―――キュレネイはふたたび戦鎌を振り回しながら、視線の端で双子を見たよ。
ククリとククルとのあいだの、『共通点』を見つけていたんだ。
彼女たち三人は、誰もが人為的に生み出されたような立場だったから。
賢さや魔力的な性質だけじゃなく、そういう根っこの部分でも似ていた……。
「ハーフ・エルフとも、似ている」
「……ん。そうでありますか?」
「混じっているだろ。色々と。オレは、エルフと人間族のあいだのガキだが……あんたのトコロの家系にも、たぶん、いたんだろ。エルフとか。もちろん、人間族も……見た目は、人間族にいちばん近いから。良かったな」
「ノー。良くも悪くもない。知っておくといいであります。『灰色の血』の生まれが、清らかなはずもないと」
「どうかな。例外だって、あるだろ。少なくとも、あんたは……一流の戦士になった。どんな過酷な目に遭ったのかは、知らんけど。誰かに教えを受けただろ。おかげで、強くなっている」
「ふむ。たしかに。団長に拾ってもらえた私は、とても幸せ者でありますな」
「……ソルジェ・ストラウスに拾われたのか。だから、部下に」
「イエス。私は、ソルジェ・ストラウスの、『特別な犬』であります」
―――達人がせき込み、アーベルはドン引きしていた。
誤解を招きかねない発言ではあって、キュレネイはどこかそれを承知で使ってもいる。
女の子だからね、はしたない言葉であっても感情と知性で使いこなすよ。
それはいびつではあるが、特別な関係性をにおわせる言葉だったから……。
「犬って、何だ……そりゃ」
「そ、そうだぞ。そいつは、何やら、問題だ。いかがわしい気がするよな、少年!」
「誰だよ、おっさん」
「私と戦っていた者であります。戦いというか、演武でありますな」
「はあ。それは、分かっているが……他人だろ?」
「ま、まあ。そうだが。でも、ちょっと……いかがわしいから」
「ノー。健全な犬であります」
「そ、そういうものがあるのだろうか……っ」
「本人が健全だと言っているんだ。それでいいじゃねえか」
「イエス。物分かりのいいハーフ・エルフであります。うちのハーフ・エルフとは、かなり違う。マジメくんであります」
「マジメくん……ね。それでも、いいから。ちょっと、さっきの技のコツを、何かしら教えてくれよ」
「才能であります。これに、尽きる」
「マジメな答えだ。もっと、不真面目な欲しいね」
「では、『風』と『炎』だけ両立してみるといいであります」
「……たしかに。三つは、難しい。現状では……」
「若者は、なかなか強気だな。あれをふたつでも使いこなせれば、バケモノだぞ」
「ハーフ・エルフだからな。嫌われ者じゃあるが、魔力は使える」
「……やってみるがいい。オレは、やめておこう。ちょっと時間が、かかり過ぎそうだ」
「イエス。『りゅうのほむらの』を目指すべきかどうかは、ヒトによりけり」
「おっさんには向いていない。オレも、完璧なのはムリか……」
「ハッキリ言い過ぎで、マジメな答えであります」
「やってやるよ。あまのじゃくなんだ」
「初対面だと思うでありますが、その点についてはピンとくる。お前は、あまのじゃくそうであります」
「お互い様じゃねえの?素直さで、飯食ってるタイプじゃねえと思うが」
「ノー。犬は、とっても素直かつキュートな生き物であります」




