第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その五百十七
―――ストラウス家の奥義、『りゅうのほむらの』。
それを修得するには、あまりにも多くの関門があった。
そもそも先天的な素養が大きくてね、それはつまり使える魔力の質による。
『炎』と『風』と『雷』、三大属性の魔力を使う資格を持っていなければ習得不可能……。
―――三大属性というものは、お互いに干渉し合う関係にある。
『炎』は『雷』を抑止するし、『雷』は『風』を妨害した。
『風』は『炎』を御する質があって、それらを同時に使うのは困難とされる。
先天的な属性の資質が無ければ、どうあがいても使うことさえ出来ない……。
―――極めて稀な、『炎』と『風』と『雷』の三大属性すべての素養を持っていること。
それらを同時に操る天才的なセンスと、たゆまぬ努力。
それらがすべてあったとしても、『まだまだ足りない』ものだ。
お手本とすべき『モデル』がれば、ようやくこの『竜騎士姫の発明』を修得可能……。
―――ソルジェに『りゅうのほむらの』を見せれた者は、人間にはいない。
ストラウス家の誰もが、それを修得可能だったわけじゃないからね。
教えてくれたのは、老竜アーレスそのひとだけ。
竜騎士姫の記憶を奪われていても、その奥義を再現して伝えてくれていたんだ……。
―――失伝寸前だった奥義は、ソルジェの孤独な研鑽によってようやく完成に至ったよ。
ストラウス家の人々が周りにいたとすれば、もう少し早めに完成したかもしれない。
これは極めて特殊な技巧であり、とても肉体に負担の大きな技巧でもある。
リエルでさえも真似するのは不可能、魔力の才能だけではやれないものだ……。
―――極めて強靭に鍛え上げられた肉体と、魔術と武術を一致させるセンスが必要。
宝石眼を有する森のエルフの姫君でさえ、その種の感覚を完璧には持ち得ないのさ。
キュレネイみたいな『ゴースト・アヴェンジャー』、あるいは『メルカ・コルン』。
そういった魔術と武術の才能と、北方野蛮人並みの体力があれば模倣もやれる……。
―――ソルジェが『お手本/モデル』として、その完成形を示したからだよ。
発明するよりも、誰かの行いを模倣する方がよほど簡単なのは当然だよね。
この三人が一緒に行動していたことで、良い交流と研鑽の機会が訪れていたんだ。
『りゅうのほむらの』を不完全ながらも、彼女たちの全員が使えるのだから……。
―――マジメなキュレネイ・ザトーが、絶好の機会を逃すはずもない。
魔術の理論的な知識において、ククリとククルはキュレネイよりも上だった。
知的な疑問に対しても、ソルジェに比べれば百倍以上の分かりやすい答えをもらえる。
ソルジェの直感的で野性的なアドバイスより、キュレネイの賢さを利用できたのさ……。
「フフフ。キュレネイさんが、やってみせてくれそう!」
「私たちとの特訓の成果を、ちゃんと披露してくれるんですね」
―――双子たちも、魔力を練り始めたキュレネイを楽しみに見ていた。
『りゅうのほむらの』を、『完璧な状態』で再現する。
それはまだ彼女たちでも、成し遂げられてはいない。
だが、キュレネイならばやれるのではないかと期待していた……。
「ソルジェ兄さんほど、完璧ではないだろうけれど……」
「『途中』の完成度であれば、私とククリも真似しやすくなりますからね」
―――ライバル的な視点もあるよ、ククリとククルも負けず嫌いだ。
『メルカ・コルン』としてのプライドもある、『ホムンクルス』は最高の戦士だから。
たとえキュレネイとの実力差が、この完成で離されたとしても。
すぐに追いついてやろうという決意を、ふたりは持っていた……。
―――いいライバル関係であり、いいチームだったわけだよ。
賢さと三大属性を使う猟兵を、ひとまとめにしていることは。
ソルジェの人材配置の能力は、本能に由来するものだろうけれど。
なかなかに、優れてはいた……。
―――天賦の才というものは、感覚で使うべきときも多い。
それに知的な努力も重ねれば、『りゅうのほむらの』さえ模倣した。
三つの種類の魔力がキュレネイの全身から、強烈にほとばしっていく。
まるで魔力の津波か、あるいは竜巻といったところか……。
「ま、魔術で、吹き飛ばしちまう気なのか……ッ」
「違うよ、アーベル。彼女は、魔力を収束させている。武術に、重ねるんだ」
「は、はあ!?そんなことが、やれるのか……いや、やれは、するだろうけど。み、三つの属性、ぜんぶを、ど、同時にだと!?」
「難易度が跳ね上がる。それを、やれるのが猟兵ということだ」
―――珍しくはあるし、間違いなく達人技以上の奥義になるけれど。
世界の各地に似たものは、もちろん存在していた。
他ならぬマルケス・アインウルフも、似た力を使えるんだからね。
『不完全な雷』の才能を使って、爆発しそうな筋力強化をギリギリで使いこなした……。
―――メイウェイも、その種の奥義に憧れてもいた時期がある。
しかし、メイウェイの魔力の才能はアインウルフよりもマシだった。
だからこそ、アインウルフの独自の奥義を真似できなかったとも言える。
嫉妬するほどの悔しさを抱くには、もうメイウェイに若さもなかった……。
「……ちく、しょうめ……ッ」
「嫉妬か。君も、いくつかの魔力の質を持つからな」
「オレにも、ああいう力が……」
「あこがれを持つがいい。そういうものを追いかけられる純粋さが、若さの特権でもある」




