元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚)更新しました!!!
―――キュレネイの勝利そのものは、確定していたからね。
あとは、どれほどの『演出』をこの戦いに組み込めるかという争いになった。
戦鎌での大振りの強打から、戦いは始まる。
手加減した速さではあるものの、常識な達人からすれば『異常な速さ』だった……。
―――それでも、守りに徹する消極的な構えを取っていたのが幸いしたよ。
強烈な一撃ではあるが、どうにか剣に受け止められていたからね。
全身の関節伝わる理不尽なまでの重みには、骨の髄どころか精神まで衝撃を受けたけど。
彼は間違いを直ちに悟ってくれる、ケンカを売るべき相手を間違えたらしい……。
「こんな、ことが……起きるのか……ッ」
「イエス。よく耐えた。もう少し、実力を見せてくるであります」
―――達人は追い詰められながらも、意地というものがあった。
絶対に勝利すると信じていたし、ここは彼のホームであり負けると失うモノも多い。
議員たちからの失望も好ましくはない、どうにか見せ場のひとつも欲しかった。
だが、キュレネイは自分を『殺すつもりだったらどうしよう』……。
―――プライドのせいで死んだ男たちを、ボクだってたくさん知っているよ。
ヒトには下がれない瞬間というものもあって、実際に死から逃げ遅れてしまうことも多い。
生きたくもあるし、腕前を見せてプライドを回復したい。
どちらも人生には大切だからこそ、達人は逃げずに守りを固めてくれた……。
「いい子であります。そのまま、生きのびてみせろ」
―――戦鎌はかなり変則的な攻め方をしてくるものだけど、慣れれば対処もやれるものだ。
変幻自在の動きに翻弄されつつも、手加減したそれらの攻めに達人は耐久し始める。
回避し受け止めていくことで、『キュレネイの癖』を見抜き始めていた。
ああ、もちろん『それ』もキュレネイの課題ではある……。
「読ませる動きを、身につけたいでありますから。ちょうど、良くもある」
―――キュレネイは無表情だし、彼女の武術にはあらゆる予備動作が存在しない。
戦闘が一種のコミュニケーションだとすれば、キュレネイの攻撃はそれを拒んでいる。
いきなり一方的に、『相手を正面から奇襲』できると表現すべきものだ。
この特性は言うまでもなく、戦いにおいてはとてつもないアドバンテージになる……。
―――武術の達人ほど、キュレネイがそのスタイルを本格的にやれば。
惑わされてしまうだろうね、およそ熟達した戦士たちというのは経験則に基づき読み合う。
圧倒的に有利な特性ではある、それを使えばすでに目の前にいる達人は殺されていた。
でもね、キュレネイも成長したがっているんだよ……。
「単独での襲撃よりも、多くと動きを『協調』する。私が周りに合わせるのは、至極容易いことでありますが……その逆も、ある。私が、『周りの仲間に協調させるであります』。それは、攻撃においてより私を強くする」
―――これは政治的なショーであったけれど、それだけではなかった。
キュレネイにとって、有益な練習方法でもある。
自分の動きを『他者に認識させる』、という彼女にとってはなかなか困難な課題のね。
いつでも発動可能な不意打ちで、圧倒してしまえば個人の戦いでは話は早い……。
―――でも、戦場で一対一という異常な状況は起きるものじゃない。
キュレネイは誰かのサポートをするのは得意だが、サポートされることに不慣れだ。
天才かつ特殊であることの弊害というものもあって、これはまさにそうだ。
戦いに身を投じたとき、人々は周りからのフォローをあてにする……。
―――戦場で新兵が叫ぶ最初の言葉は、「助けて」だからね。
よほどの性格に生まれついていない限り、誰もがそういう学びの過程を進むものだよ。
誰かに助けられながら、普通は成長していくものだった。
キュレネイにはそういった過程が、ごっそりと抜け落ちている……。
―――『ゴースト・アヴェンジャー』という、特殊なスタイルの暗殺者として育成された。
しかも、そのスタイルに異常なまでの適性と天賦の武術的な才能を持っていたんだ。
最初から強すぎたせいで、初心者の時点で覚えておくべき諸所の技巧が抜け落ちている。
キュレネイはそれを取り戻そうとしながら、武術の達人と遊んでいた……。
―――戦鎌に『どんな予備動作』をすれば、相手に悟ってもらえるか。
普通はその逆を目指すべきだけど、キュレネイはそれを求めている。
『自分の動きを仲間に伝えたい』、という目的のためにね。
それをやれたら、さらなる連携を構築できるかもしれないから……。
―――ククリとククルという、非常に優秀な頭脳の持ち主たちと行動を共にして。
学び取った発想が、これだった。
ククリとククルは『メルカ・コルン』として、しかも双子のそれとして。
とてつもなく以心伝心な動きをする、キュレネイと真逆の特性を持っていたから……。
―――賢さで予測しつつ、直感的なものでも連携していく。
その協調性の極みを肌で感じ取りながら、キュレネイは自分に欠けて点を見つめ直した。
武術をする者たちの大半が目指す方向とは、真逆を向きながら。
自分に足りていない『分かりやすさ』を、習得しようと必死になっている……。
―――そのおかげで、キュレネイにとっては『過剰な予備動作』を用いることを覚えた。
達人が十数手もキュレネイの攻めを、生き延びられているのはそのためだよ。
まあ、それもまだまだ完全とは言いがたいものだ。
達人は徐々に、斬撃を被弾しつつあったからね……。
「まだ、傷つくには早いでありますよ」
―――消そうとしている『無拍子』が、理性を越えて不意に発動している。
それがまた、達人には恐ろしくなった。
逃げ切れないかもしれないとおびえたせいで、急所だけは守ろうとする。
だからこそ、わずかな手傷を次々と負ってしまうわけだ……。
―――キュレネイの予定にはない、相手の被弾。
それがまたキュレネイには、イライラとした感情を抱かせている。
何でも簡単にやれてしまう天才にとって、この『失敗』は不愉快であった。
『武術の達人相手でさえも予備動作を伝えきれないなんて』、ぜいたくな悩みだね……。
―――そもそも、対戦者にも失礼なハナシではある。
でも、ちょうどいい相手ではあったんだよ。
多少の手加減をしていれば、殺さずに済むのだからね。
この達人もまた殺すには惜しい、かなりの逸材ではあったんだ……。




